【借地・借家の賃料増減額請求の基本】

1 賃料増減額請求(変更・改定)の基本

借地(建物所有目的の土地の賃貸借)、借家(建物賃貸借)では、現在の賃料(地代・家賃)を増額または減額する請求ができることがあります。賃料増減額請求といいます。
賃料増減額請求の基本的部分は借地、借家で共通します。本記事では、借地、借家の賃料増減額請求の基本的事項を説明します。

2 賃料増減額請求の条文とその整理

(1)賃料増減額請求の条文

最初に、賃料増減額請求の条文を確認しておきます。

賃料増減額請求の条文

あ 借地→借地借家法11条

(地代等増減請求権)
第十一条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
※借地借家法11条

い 借家→借地借家法32条

(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
※借地借家法32条

(2)条文上の賃料増減額請求の要件の整理

条文には、どのような場合に賃料の増減額を請求できるか、ということが書いてあります。少しわかりにくいので箇条書きに整理します。

条文上の賃料増減額請求の要件の整理

あ 賃料増減額請求の要件

従前の賃料が不相当(い)となった場合
→当事者は賃料の増減を請求できる

い 「不相当」の例

ア 経済事情の変動(ア)土地(または建物)に対する公租公課の増減(イ)土地(または建物)の価格の上昇・低下(ウ)その他の経済事情の変動イ 近隣相場からの乖離 近傍類似の土地または建物の賃料に比較して当該賃貸借の賃料が不相当となった

3 賃料の「不相当」の判定

(1)「相当」賃料の算定(概要)

実際に賃料が不相当かどうかを判断するには、相当な賃料を算出して、それと比較して判断します。不動産鑑定の理論では継続賃料と呼びます。賃料増減額請求のケースでは、相当な賃料(継続賃料)の算定が結果に直結する重要なところになります。相当賃料の算定手法はいくつかのものがあり、実際には複数の手法で算定した金額を最後に総合する、という方法がとられることが多いです。
詳しくはこちら|改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)

(2)相当賃料との乖離の目安→借家では20〜30%

現在の賃料が相当な賃料と乖離した場合に増減額請求が認められます。ではどの程度乖離すれば認められるのでしょうか。これは直近で賃料を決めた時点から経過した期間をはじめ、いろいろな事情で変わります。
借家については1つの目安として、収益目的(事業用)賃貸では20%、居住用賃貸では30%という指摘があります。

相当賃料との乖離の目安→借家では20〜30%

(注・借家について)
従前の賃料が適正な賃料に比較し、何%ほど差が出た場合に不相当と認めるかは、従前の賃料決定後の経過期間、開差の発生の理由、他の賃料改定の動向等により異なるが、概ね収益目的の賃貸借の場合は20%程度居住目的の場合は30%程度と考えればよいであろう・・・
※澤野順彦稿/田山輝明ほか著『新基本法コンメンタール 借地借家法 第2版』日本評論社2019年p209

4 賃料増減額請求権の行使の具体的方法

賃料増減額請求権を行使する方法は意思表示です。要するに通知です。

賃料増減額請求権の行使の具体的方法

あ 一般的な方法

貸主or借主が相手方に対して意思表示する
意思表示の内容=賃料を増額or減額する

い 金額明示の要否

賃料増減額請求は具体的な額を明示することを要しない
単に値下げ・値上げの要請・交渉であってもよい
※名古屋地裁昭和58年3月14日;減額請求について

5 賃料増減額請求の要件を欠く事例

賃料増減額請求は適切な賃料を定めるという機能があります。
この点逆に、適切な賃料を定めるニーズがあるからといって必ず増減額請求が認められるわけではありません。
賃料増減額請求は一定の要件(前述)を満たす場合にはじめて認められるのです。形式的に要件を満たしていないために増減額請求が否定された実例を紹介します。

賃料増減額請求の要件を欠く事例

あ 当初から不相当

賃料決定の当初から不相当であった
→その後の事情の変更がない限り賃料増減額請求はできない
※大判昭和17年2月27日
※大阪高判昭和58年5月10日
※広島地判平成22年4月22日

い 賃料設定なし

契約の当初より賃料が設定されていなかった
『新規賃料』の確認請求の提訴について
→不適法却下とする
※東京高裁平成15年10月29日

う 使用開始前

使用収益の開始前において
賃料増減額請求は認められない
※最高裁平成15年10月21日

6 賃料増減額請求の強行法規性(前提)

賃料増減額請求は強行法規です。
この点、借地借家法では、一般的に借主保護の方向性だけの片面的強行法規が多いです。
しかし、賃料増減額請求は『片面的強行法規』ではありません。

賃料増減額請求の強行法規性(前提)

あ 個別的な強行規定

賃料増減額請求の規定について
※借地借家法11条1項、32条1項、借地法12条、借家法7条
→強行法規である
※最高裁昭和56年4月20日;地代について
※最高裁昭和31年5月15日;家賃について

い 片面的強行法規の該当性

一般的な片面的強行法規性について
→増減額請求は対象から外れている
※借地借家法16条、37条、借地法11条、借家法6条

7 賃料に関する特約の制限(有効性・概要)

賃料増減額請求は強行法規です。そこで、賃料増減額請求と似ている内容の特約の有効性が問題となります。
一般的には、特約は原則として有効で、事情によって連外的に無効となると解釈されています。

賃料に関する特約の制限(有効性・概要)

あ 不増額特約

一定期間の不増額特約がある場合
→賃料増額請求はできない
※借地借家法11条1項、32条1項、借地法12条、借家法7条

い 賃料改定特約(概要)

『あ』以外の賃料に関する特約について
原則として有効である

う 限定的有効説

『あ・い』の特約について
事情によって無効となることがある
詳しくはこちら|賃料に関する特約の一般的な有効性判断基準(限定的有効説)

え 定期借家における扱い(参考)

定期借家における賃料改定特約について
原則として制限はない
詳しくはこちら|定期借家における賃料改定特約(賃料増減額請求権を排除する特約)

8 関連テーマ

(1)賃料増減額請求の歴史

以上のように現在では賃料増減額請求は、条文上のルールとなっています。しかし、以前は条文はないけれど慣習として増減額請求が認められていた時代もあります。実質的には事情変更の原則の理論が使われていたのです。このような昔のことも、現在の実際の事案の解釈の中で使えることもあります。
詳しくはこちら|借地法・借家法の立法前の賃料増減額請求(慣習・事情変更の原則)

(2)賃借権の準共有と増額請求・賃料請求(概要)

賃借人が複数存在するというケースもあります。賃借権の準共有という状態です。
このようなケースでは、賃料増額請求や賃料の請求の当事者に注意が必要です。
賃料増額請求の意思表示は賃借人全員に対して行う必要があります。
賃料の請求については複数の賃借人のうち1人に全額請求ができます。

賃借権の準共有と増額請求・賃料請求(概要)

あ 増額請求の当事者

ア 基本的事項 賃借権が準共有となっている場合
賃貸人は賃借人の全員に対して増額の意思表示をする必要がある
イ 相対的な効力 賃借人の一部だけに対する意思表示について
→意思表示を受けた者との関係においても効力を生じない
※民法430条
※最高裁昭和54年1月19日;借地について
詳しくはこちら|共同賃借人(賃借権の準共有)の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者

い 共同訴訟形態

増減額請求権の行使を前提とする訴訟について
→類似必要的共同訴訟(準共有者の全員が当事者になっている必要はない)とする見解が一般的である
詳しくはこちら|賃料増減額請求に関する訴訟の共同訴訟形態(賃貸人または賃借人が複数ケース)

う 賃料債務の不可分性

賃借権の準共有者(賃借人のうち1人)に対して
賃貸人は賃料全額を請求できる
※民法432条
※大判大正11年11月24日;家賃について
詳しくはこちら|複数の賃借人(共同賃借人)の金銭債権・債務の可分性(賃料債務・損害金債務)

(3)借地・借家以外の賃貸借における賃料増減額請求

借地借家法には賃料増減額請求のルールがありますが、これが適用されるのは(文字どおり)借地と借家です。具体的には建物所有目的の土地の賃貸借建物の賃貸借です。借地借家法が適用されない賃貸借、たとえば、駐車場としての賃貸借は借地にあてはまりませんので、賃料増減額請求は通常できません。ただし特殊な事情があれば賃料増減額請求ができることもありえます。
詳しくはこちら|借地借家法の適用がない賃貸借における賃料増減額請求

本記事では、借地・建物賃貸借における賃料増減額請求の基本的事項を説明しました。
実際には、細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に借地や建物賃貸借の賃料の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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