【国内犯解釈論×賭博罪|オンライン・カジノ|海外サーバー】
1 国内犯|犯罪行為地の解釈論|概要
2 オンラインカジノ×偏在説|形式的な適用
3 リアル海外カジノツアー×偏在説|形式的な適用
4 賭博罪×偏在説|不合理性
5 賭博罪の性質の分析|必要的共犯・対向犯
6 賭博罪と賭博開帳罪の関係性|判例
7 賭博罪×国内犯|政府見解
8 店舗型のオンライン賭博|有罪判例
9 店舗型のオンライン賭博|逮捕事例
10 無店舗型のオンライン賭博|逮捕事例
11 オンラインカジノの違法性|まとめ
1 国内犯|犯罪行為地の解釈論|概要
本記事では賭博罪における国内犯の解釈論を説明します。
というのは,賭博罪は『国内犯』だけが処罰対象とされているのです。
オンラインカジノでは『国内犯』に該当するかどうかが問題となります。
『国内犯』のルール自体については別に説明しています。
詳しくはこちら|国内犯|解釈論・基本|インターネッツ経由の賭博系・表現系犯罪
『国内犯』のルールの概要をここにまとめておきます。
<国内犯|犯罪行為地の解釈論|概要>
『行為』と『結果』の『いずれか』が国内で生じた場合を『国内犯』とする
※判例・通説
※大判明治44年6月16日
2 オンラインカジノ×偏在説|形式的な適用
偏在説を前提にオンラインカジノの適法性を考えてみます。
<オンラインカジノ×偏在説|形式的な適用>
あ 事例
賭博が合法である国で『オンライン・カジノ』が実施されている
日本国内からインターネッツ回線で『オンライン・カジノ』に参加する
い 仮説(あてはめ)
ア 賭博の『結果』=国外
国外のオンラインカジノ(のサーバー)で生じている
イ 賭博の『行為』=日本
インターネットに接続した日本国内のPC・スマホなどの端末から行われている
ウ 結論
形式的には『偏在説』によると『国内犯』に該当する
3 リアル海外カジノツアー×偏在説|形式的な適用
賭博罪に関する『偏在説』をもう少し詳しく考えてみます。
『オンライン』ではなく『リアルカジノに参加するツアー』が参考になります。
これについて思考実験をしてみます。
<リアル海外カジノツアー×偏在説|形式的な適用>
あ 事例
賭博が合法である国への『カジノ・ツアー』の旅行の『企画』
旅行会社が会場への参加・交通機関・ホテルの手配・予約を行う
い 仮説(あてはめ)
ア 前提
『手配・予約』という業務全体を日本国内で行っている
イ 結論
『偏在説』によると『国内犯』に該当する
→『賭博罪』の幇助犯が成立
オンラインカジノ・リアルカジノへの参加ツアー(を企画した旅行会社)のいずれも『賭博罪成立』になってしまいます。
違和感を覚える状態です。
1回視点を引いて,常識的に考えてみます。
4 賭博罪×偏在説|不合理性
賭博罪に偏在説をあてはめると『犯罪』の範囲が拡がります(前述)。
これについて不合理であると指摘されています。
<賭博罪×偏在説|不合理性>
あ 社会通念の判断(常識論)
『これらを無条件で処罰するのは妥当でないであろう』
※『新基本法コンメンタール刑法』日本評論社p13
い 学説
海外賭博ツアーを教唆・幇助する行為は国内犯に該当しない見解
※林幹人『刑法総論 第2版』東京大学出版会p469
※山口厚『越境犯罪に対する刑法の適用』松尾浩也先生古稀祝賀論文集(上)p423
学説レベルでは,最低限『旅行・ツアーの企画』自体は賭博罪に該当しない,という見解です。
オンラインカジノについては,リアルな旅行と同じとは限りません。
次に『賭博罪の性質』という視点からも眺めてみます。
5 賭博罪の性質の分析|必要的共犯・対向犯
国外での『賭博』について,別の角度からの見解を紹介します。
<賭博罪の性質の分析|必要的共犯・対向犯>
あ 賭博罪は『必要的共犯』『対向犯』
相手方とセットで違法(犯罪)となる性質
=『賭博罪』と『賭博開帳罪』の2つがセットである
い 『合法』を延長
海外のオンラインカジノが当該国で合法である場合
→間接的に日本国内で関与した者も合法となる
※公的判断はない
米国が公認したコトを日本から関与しても『公認の範囲』でしょ!という考え方です。
さすがにこのままではちょっと雑な思考回路です。
現時点ではまだ,判例などの公的判断として採用されている考え方ではありません。
この解釈論に関連する見解がいくつかあります。
次に説明します。
6 賭博罪と賭博開帳罪の関係性|判例
賭博罪の性質の分析では『賭博開帳罪』との関係がポイントとなっています(前記)。
これについて,古い判例による判断があります。
<賭博罪と賭博開帳罪の関係性|判例>
常習賭博罪と賭博開帳罪は不可分の関係にあるものとは言えない
正犯と従犯の関係にあるわけではない
※最高裁昭和24年1月11日
この判断は要するに『必要的共犯』を否定するものです。
これを前提にすると『必要的共犯・対向犯』を理由とする『合法』の判断は使えないことになります。
ただし,この古い判例は『国外の賭博罪の成否』を判断したものではありません。
7 賭博罪×国内犯|政府見解
賭博罪の『国内犯』の解釈について政府の見解が出されています。
<賭博罪×国内犯|政府見解>
一般論として,賭博行為の一部が日本国内において行われた場合
→賭博罪が成立することがあるものと考えられる
※平成25年11月1日内閣衆質185第17号賭博罪及び富くじ罪衆議院議員階猛君提出賭博罪及び富くじ罪に関する質問に対する答弁書
これは裁判所ではなく政府としての見解です。
裁判所の判断を直接的に拘束するものではありません。
詳しくはこちら|行政の肥大化・官僚統治|コスト・ブロック現象|小規模事業・大企業
また,一般論であり『可能性』を指摘するに過ぎません。
要するに上記の『形式的な適用』の状態を言い表したものであると思えます。
いずれにしても,これにより解釈が画一的になった,とは言い切れません。
8 店舗型のオンライン賭博|有罪判例
実際の『オンラインカジノ』の犯罪の成否について判断した判例はあります。
当然,前述のような『まだ判断がない部分』とはズレている事例です。
<店舗型のオンライン賭博|有罪判例>
あ 平成26年12月25日和歌山地裁
和歌山市内の『オンラインバカラ』|店舗型
賭博場開張図利罪
懲役1年6月・執行猶予4年
い 平成19年1月17日京都地裁
京都市・名古屋市内の『フィリピンのオンライン経由バカラ』|店舗型
賭博場開張図利罪
懲役2年・執行猶予5年・追徴金合計1億0139万円
要するに『営業店舗・拠点』を日本国内に設置・運営した,というものです。
バカラの実施において『店舗』の占める役割は大きいです。
実質的に『店舗で独自の賭博を開催した』に近い,と判断されています。
逆に『賭博サービスの一部だけが海外サーバーにアウトソースされている』という評価です。
さすがに前述の『適法を延長する』見解でも『和歌山市内の店舗でのバカラ運営がフィリピンの公認の範囲内』とは言えないのでしょう。
逆に言えば,裁判所・裁判官によっては別の見解(上記)を採用した可能性もあるでしょう。
9 店舗型のオンライン賭博|逮捕事例
店舗型の賭博に関する逮捕の事例を紹介します。
行われていたギャンブルの中にオンラインのバカラもあったようです。
上記判例と同様に日本国内の『店舗型』は賭博罪が成立するという前提です。
<店舗型のオンライン賭博|逮捕事例>
あ 事例|概要
平成28年2月10日
名古屋市中区栄の違法カジノ店
現行犯逮捕が執行された
い 逮捕者・被疑事実
逮捕された者 | 被疑事実 |
従業員ら店関係者9人 | 常習賭博罪 |
客5人 | 賭博罪 |
う 賭博内容
ア 高額レートで賭ける闇スロットイ インターネットカジノ
バカラなど
※YOMIURI ONLINE平成28年2月12日
10 無店舗型のオンライン賭博|逮捕事例
従来は『無店舗型』のオンライン賭博の検挙例はありませんでした。
平成28年3月,初の検挙が報道されています。
<無店舗型のオンライン賭博|逮捕事例>
あ 事例|概要
平成28年2月
埼玉県内に在住の60歳代の無職男性ら3名
英国のオンライン・カジノサイトに接続した
ブラックジャックで金銭を賭けた
い カジノサイト|概要
拠点は英国にある
日本人がディーラーを務めている
日本語での説明・案内がなされている
日本人向けのサービスである
う 捜索・逮捕
平成28年3月10日
京都府警は単純賭博罪容疑で被疑者の自宅を捜索した
逮捕状を請求し,逮捕を執行する予定である
『無店舗型』のオンライン賭博の検挙は全国初とみられる
※YOMIURI ONLINE平成28年3月10日
仮にこの案件が起訴され刑事裁判になったら初の司法判断がなされます。
弁護サイドが理論的な主張を展開すれば判例として統一的判断が作られます。
一方,不起訴となるor略式起訴となった場合は正式・公式の判断が作られません。
今後注目される事案です。
11 オンラインカジノの違法性|まとめ
オンラインカジノの違法性について,まとめます。
敢えて,現時点での法令・解釈を前提としたものです。
前述のとおり,裁判所によって別の判断となる可能性もあります。
<オンラインカジノの違法性(目安)|まとめ>
あ 違法(ブラック)
日本国内の『店舗』内でサービス
その一環として『海外の公認カジノを利用』している
い 濃いグレー
個人が自宅のPC・スマホから海外の公認オンラインカジノに参加した
→画一的・統一的な見解はない
ただし逮捕例が登場した(前述)
う ホワイト
ア 『領海』外(≠公海)
例;カジノクルーズ
イ 法律上の除外(特区)