【周辺住民との建築紛争に関する都道府県のあっせん・調停手続(東京都の建築紛争調整)】
1 周辺住民との建築紛争に関する都道府県の解決手続
2 建築に関する周辺住民との紛争の具体例
3 東京都の建築紛争調整の対象となる紛争
4 東京都の建築紛争調整の全体像
5 東京都の建築紛争調整のあっせんの内容
6 東京都の建築紛争調整の調停の内容
7 東京都のあっせん・調停における主な調整事項
8 都道府県の調停手続と裁判所の調停の違い
9 建築紛争解決手段の選択方法(まとめ)
10 参考情報
1 周辺住民との建築紛争に関する都道府県の解決手続
建物の建築に関して,その周辺住民との対立・トラブルが生じることはよくあります。
このようなトラブル(紛争)を解決する都道府県の運営する手続があります。
本記事では,主に東京都の制度を中心にして,都道府県による建築紛争の解決手続について説明します。
2 建築に関する周辺住民との紛争の具体例
建物の建築に関する施主と周辺住民との紛争(対立)の典型的な状況を紹介します。
<建築に関する周辺住民との紛争の具体例>
すぐ隣に高層マンションの建設が始まっている
日当たりが悪くなるとか,工事の騒音について,要望を申し入れている
話し合いはしたけど,結局,施主・建築会社は当初の予定どおりに工事を始めている
裁判所以外で,話し合いをサポートしてくれる手続はないのか
3 東京都の建築紛争調整の対象となる紛争
東京都では,昭和53年7月に、東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例を制定しました。
これに基づいて,東京都があっせんや調停の手続を行っています。
この解決手続を利用できる紛争の内容は条例で定められています。
<東京都の建築紛争調整の対象となる紛争>
あ 対象となる建築紛争
中高層建築物(う)の建築に関する近隣関係住民と建築主との間の周辺の生活環境に及ぼす影響に関する紛争
い 典型的な紛争の内容
ア 建築後に残る影響
日照,通風,採光の阻害,風害,電波障害,プライバシーの侵害など
イ 建築中に生じる影響
工事中の騒音,振動,工事車両による交通問題など
う 中高層建築物の定義
原則として高さが10mを超える建築物に限る
不動産売買における売主と買主,とか,建物の建築における施主(注文主)と施工業者(請負人)の間のトラブルについては対象外です。
4 東京都の建築紛争調整の全体像
東京都の建築紛争調整の手続は,あっせんと調停の2種類があります。
非公開で実施され,合意が成立すると一般の私人同士の和解(裁判所が関与していない)として扱われます。
<東京都の建築紛争調整の全体像>
あ 手続の種類
あっせん・調停の2種類がある
い 非公開
手続は非公開で行われる
う 成立した合意の法的扱い
合意が成立した場合には民法上の和解契約として扱われる
※民法695条
5 東京都の建築紛争調整のあっせんの内容
東京都の建築紛争調整の手続のうちあっせんでは,紛争処理委員が助言・情報提供を行います。
解決する案自体を提案することはありません。
<東京都の建築紛争調整のあっせんの内容>
あ 案件内容の聴取
当事者を呼び出し,都の職員が双方から言い分を聴取する
図面などの資料が多く用いられる
い 助言・情報提供
都の職員は,紛争処理委員が適切な助言や情報の提供を行う
積極的にあっせん案を提示するわけではない
う 終了
成立すれば和解書などの調印が行われる
当事者両方が合意に至らないと成立しない
解決ができない場合
→知事は手続を打ち切るor調停移行を勧告する
6 東京都の建築紛争調整の調停の内容
東京都の建築紛争調整のうち調停では,紛争処理委員が解決する案(調停案)を示すことがあります。
ただし,あくまでも当事者の両方(全員)が合意して初めて解決となります。
<東京都の建築紛争調整の調停の内容>
あ あっせん手続からの移行
あっせんを打ち切った場合に
知事が必要と認めた時に調停に移行するように勧告する
→当事者両方が了承すれば調停の手続に進む
い 調停委員の構成
建築紛争調停委員会は3人の委員で構成される
法律,建築,環境などの分野における知識・経験を有する者の中から委嘱される
調停委員が調停手続を進める
う 調停案の提示
あっせんと同様に,調停委員が意見が述べる
意見だけでなく,調停案を作成して提示(受諾を勧告)することもある
え 終了
調停案の勧告には強制力はない
→当事者両方が合意しない限り調停は成立しない
解決の合意が見込まれない場合は,打切りとなる=調停手続は終了する
7 東京都のあっせん・調停における主な調整事項
東京都の建築紛争調整(あっせん・調停)の手続で話し合う事項は,建築の内容です。
金銭による解決(調整)は話し合うことができません。
<東京都のあっせん・調停における主な調整事項>
あ 主な調整の対象事項
ア 建設位置・高さイ 目隠しや防音装置の設置
い 調整の対象とならない事項(※1)
金銭による解決
例=賠償金の金額
8 都道府県の調停手続と裁判所の調停の違い
東京都の調停は,前記のような特色があり,裁判所の調停とは違います。
決定的な違いは,話し合う(調整する)対象事項について,東京都の調停では制限があるというところです。
一方,東京都の調停では,不出頭(欠席)のペナルティとして業者名を公表するというペナルティがあります。
また,裁判所の強制執行ができるかどうか,という点でも違いがあります。
<都道府県の調停手続と裁判所の調停の違い>
あ ペナルティとしての公表
ア 都道府県の『調停』
不出頭のペナルティとして当事者が公表されることがある
イ 裁判所の調停
公表するペナルティはない
い 調整の対象事項(金銭)
ア 都道府県の『調停』
金銭による解決は調整の対象とならない(前記※1)
イ 裁判所の調停
金銭の支払も含めて調整できる
う 成立後の強制力
ア 都道府県の『調停』
合意(和解)内容は債務名義ではない
→強制執行をすることはできない
イ 裁判所の調停
合意内容(調停調書)は債務名義である
→強制執行をすることができる
例=建築差止の執行・賠償金未払の際の財産差押
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
9 建築紛争解決手段の選択方法(まとめ)
以上で紹介した手続は東京都のものです。
他の道府県の手続も似ていますが違いもあります。
いずれにしても,都道府県の解決手続は,多くの解決手続の1つに過ぎません。
解決手続を選択する目安をまとめておきます。
<建築紛争解決手段の選択方法(まとめ)>
あ 建築紛争調整(都道府県の手続)
対立があまり深くない場合に適している
金銭的な解決を想定している場合は不向きである
典型例=第三者の公的・合理的な見解により当事者が譲歩すると予想される場合
い 裁判所の調停
対立があまり深くない場合に適している
金銭的な解決を想定している場合にも対応できる
う 訴訟(仮処分)
対立が深い場合に適している
最終的には判決という強制的な結論となる(調停と異なる)
裁判所が和解の調整を行うことも多い
→判決となった場合の内容を予測しながら協議する
=裁判所の心証による有利・不利を意識する
→実際に,和解で終わることも多い
え 行政に対する要求
例=建築確認自体にミスがあり,違法建築となっている
→建築確認についての審査請求・取消訴訟などの手続もある
10 参考情報
本記事に関して参考として情報を紹介しておきます。
本記事では,建築に関する都道府県の解決手続(あっせん・調停)を説明しました。
実際には,個別的な状況によって適切な手続は異なってきます。
実際に建築に関するトラブルに直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。