【既婚者と知って交際した者からの慰謝料請求の裁判例(肯定と否定の事例)】

1 既婚者と知って交際した者からの慰謝料請求
2 既婚と知って交際した者からの慰謝料請求(原則=否定)
3 離婚宣言・仕事の指導関係・3回の妊娠や中絶→250万円獲得
4 離婚宣言・警察官と被害者・出産・経済的負担の控除→70万円獲得
5 離婚宣言・男性上司と19歳女性・出産→60万円獲得
6 離婚宣言・19歳女性・同棲・出産→内縁破棄慰謝料300万円
7 既婚男性の交際相手と妻の両方の慰謝料請求の裁判例
8 既婚男性と交際相手の婚約が成立することもある

1 既婚者と知って交際した者からの慰謝料請求

例えば,既婚者男性Aが女性Bと交際(性的関係)をすると,不倫(不貞行為)として,違法となります。
つまり,妻Cが夫Aや女性Bに対して不倫の慰謝料を請求できます。
詳しくはこちら|不貞相手の不貞慰謝料の相場(200〜300万円)
一方,女性Bは,夫婦関係を侵害した加害者です。しかし例えば,Aが既婚者であることを知らなければ違法とはなりません。
詳しくはこちら|不倫の慰謝料の理論(破綻後・既婚と知らないと責任なし・責任を制限する見解)
また,既婚者であると知っていても,Aが離婚する,とか,もう破綻しているとか説明して,これを信じたというケースもとてもよくあります。
このような事情によっては,Bは被害者として,嘘をついたAに対して慰謝料請求をすることが認められます。
詳しくはこちら|既婚と知って交際した者からの慰謝料請求は事情によって認められる
本記事では,実際の既婚者の男女交際による慰謝料請求について裁判所が判断した裁判例を紹介します。

2 既婚と知って交際した者からの慰謝料請求(原則=否定)

まず,相手が既婚者であると知って交際(性的関係)をした者は,原則として夫婦の関係を侵害した立場であるため,慰謝料を請求することは認められません。

<既婚と知って交際した者からの慰謝料請求(原則=否定)>

あ 男女交際

既婚男性A=医師
婚外女性B=患者
A・Bが交際した
Aが一方的に交際を中断した

い 裁判所の判断

交際自体が(民事的な意味で)違法である
→慰謝料請求は認めない
※民法708条類推適用
※東京地裁昭和54年5月29日;事案について
※最高裁昭和44年9月26日;理論について
詳しくはこちら|既婚を隠した男女交際は慰謝料が発生する(隠さなければ発生しないが例外あり)

これは原則的な判断です。
以下,例外として慰謝料が認められた実例を紹介します。
どのような特殊な事情があれば例外的な扱いがなされるのか,が分かってきます。

3 離婚宣言・仕事の指導関係・3回の妊娠や中絶→250万円獲得

既婚男性が離婚するという宣言(説明)をしていて,また,交際した男女には仕事の指導をする(受ける)という関係があったケースです。
交際中に3回の妊娠があり,中絶や流産となっていました。
交際した女性から既婚男性に対する250万円の慰謝料請求が認められました。

<離婚宣言・仕事の指導関係・3回の妊娠や中絶→250万円獲得>

あ 既婚者の男女交際

既婚男性A=眼科医
婚外女性B=看護師
AとBは同じ大学病院に勤務していた
AとBが男女交際をするに至った

い 妊娠と中絶

Bが妊娠した
Aは『離婚して婚外女性と再婚する』と説明した
その説明は嘘であった
Aが嘘をついた理由は出産を避ける=中絶させることであった

う 合計3回の妊娠と中絶・流産

A・Bは,約4年間交際を継続した
その間にBは合計3回妊娠した
2回は中絶し,1回は流産となった

え 違法性のバランス

交際に関して,Aの嘘やその理由は不法の程度が大きい
→Bの慰謝料請求を認める(否定されない)

お 慰謝料の金額の判断

裁判所は慰謝料250万円を認めた
※東京地裁昭和59年2月23日

4 離婚宣言・警察官と被害者・出産・経済的負担の控除→70万円獲得

交際した男女は警察官と取調を受ける被害者という関係がありました。
男性は離婚するという説明をしていて,女性はこれを信じていました。
そして妊娠し,子を出産しました。
ところで,同居中に既婚男性は経済的な負担をしていました。
その分が控除され,慰謝料として70万円が認められました。
負担分も入れると実質的に慰謝料は230万円程度だったといえます。

<離婚宣言・警察官と被害者・出産・経済的負担の控除→70万円獲得>

あ 既婚者の男女交際(取調官と被害者)

既婚男性A=警察官・32歳
婚外女性B=スナック勤務のキャスト・21歳
Bが被害者となっている刑事事件があった
Aはその事件の取調官であった
AとBは男女交際をするに至った

い 将来離婚して再婚する説明

その後,BはAが既婚者である(正妻がいる)ことを知った
Bは『妻と離婚してBと一緒になる』という説明をした
AとBは同居した

う 妊娠と出産

Bは妊娠した
Aは中絶せず出産することを勧めた
Bは出産した

え 交際への既婚男性の関与の程度

Aは警察官という世人一般の信頼厚い職業に就いていた
Bは,Aの担当事件の被害者であった
Bは被害者の立場にあったので,取調官に対して心理的弱みを抱く状態にあった
Aはこれに乗じてBと情交関係をもった
交際のきっかけは,警察官として極めて厚顔にして節度のないAの行動である
Aはウソの説明を繰り返した

お 交際への婚外女性の関与の程度

Bは成人して間もない若年であった
Aがいずれ妻と別れ,Bと結婚してくれるとBが期待するのはやむをえない

か 違法性のバランスの判断

A・Bの男女交際の責任は主としてAにある
Bの動機の違法性よりもAの違法性の方が著しく大きい
BからAへの慰謝料請求は認められる(否定されない)

き 女性の不倫的行動

A・Bの交際期間中にBは別の男性(バーテン)と性交渉を持っていた
しかしA・Bの交際の真剣さを否定することにはならない
慰謝料の金額のマイナス要素となる

く 交際中の資金負担

交際中に,Aは,Bのために約160万円を支出していた
支出の内容=中古車購入費・転居費用

け 慰謝料の金額の判断(結論)

裁判所は慰謝料70万円を認めた
※名古屋高裁昭和59年1月19日

5 離婚宣言・男性上司と19歳女性・出産→60万円獲得

在日米軍に勤務する者同士の男女交際のケースです。
女性が出産した後に関係を解消することとなりました。
男性が上司という関係があり,また,女性は19歳と若いことにより,男性の離婚するという説明を信じたことはやむをえないと判断されました。
慰謝料としては60万円が認められました。現在の価値にすると約200万円です。

<離婚宣言・男性上司と19歳女性・出産→60万円獲得>

あ 既婚者の男女交際

婚外女性B=19歳
既婚男性A=Bの上司(米国人)
A・Bはいずれも在日米軍に勤務していた
AはBに『妻と離婚してBと結婚する』と言ってBを誘惑した
十数回にわたり性的関係をもった

い 妊娠と出産

Bは妊娠した
Aは中絶せず出産することを勧めた
Bは出産した
その後,A・Bの関係は解消した

う 貞操侵害についての判断

Aは,Bが思慮浅薄なのに乗じた
AはBの貞操権を侵害した

え 既婚であることを知っていたことの扱い

Bは当初からAが既婚者である(正妻がいる)ことを知っていた
しかし交際について,Bの動機の違法性と比べてAの違法性が著しく大きい
→慰謝料請求は否定されない

お 慰謝料の金額の判断

裁判所は慰謝料60万円を認めた
現在の貨幣価値にすると約200万円である
※最高裁昭和44年9月26日

6 離婚宣言・19歳女性・同棲・出産→内縁破棄慰謝料300万円

以上の事例と似ていますが,男女の関係がより深くなっていたケースです。
交際した男女が同居し,出産することになりました。周囲も夫婦として認めるような状況でした。
そこで,関係解消を,法律的に離婚と同じように扱いました。これを内縁破棄(解消)と呼びます。
結論として,女性から既婚男性に対する慰謝料300万円が認められました。

<離婚宣言・19歳女性・同棲・出産→内縁破棄慰謝料300万円>

あ 既婚者の男女交際

既婚男性A=26歳
婚外女性B=19歳
A・Bが男女交際をするに至った
AはBに『妻とは離婚する』と説明していた

い 同居・内縁の状況

AはBと同居するに至った
A・Bは内縁といえる生活をしていた

う 妊娠と出産

Bは妊娠し,出産した

え 内縁破棄(解消)

出産直後にAは一方的に内縁関係を解消した
同居期間は約2か月であった

お 慰謝料請求についての判断

内縁の不当破棄である
Bや子の将来の生活には不安が非常に大きい
AがBに与えた精神的苦痛は大きい
→慰謝料が生じる

か 過失相殺の判断

BはAが既婚者である(妻子がある)ことを知って交際していた
Aの『離婚する』という言葉を信用したが,Bにも少しは責任がある

き 慰謝料の金額(結論)

裁判所は慰謝料300万円を認めた
※京都地裁平成4年10月27日

7 既婚男性の交際相手と妻の両方の慰謝料請求の裁判例

以上紹介した事例は,いずれも,既婚者と交際した女性からの慰謝料請求でした。
ところで,既婚者との交際はいわゆる不倫ですので,本来は妻が交際した女性に慰謝料を請求する関係にあります(前記)。
現実には,交際した女性Bから既婚男性Aへの慰謝料請求正妻Cから女性Bへの慰謝料請求の両方が主張されることが多いです。
このように2つの慰謝料請求の両方を判断した実例もあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|既婚男性の交際(不倫)相手と妻の両方が慰謝料を請求した裁判例(集約)

8 既婚男性と交際相手の婚約が成立することもある

既婚男性が交際相手(女性)に,『妻とは別れるから結婚しよう』というケースは多くあります。
この場合に婚約成立として認めると,重婚のようになってしまいます。
そこで原則としてこのような婚約成立は認められません。
しかし,実際に夫婦関係が破綻しているような場合は,既婚男性と交際相手の婚約が成立することもあります。
詳しくはこちら|婚約成立のためには『婚姻の実質的成立要件』は必要ではないが例外もある

本記事では,既婚者と男女交際をした者からの慰謝料請求の実例(裁判例)を紹介しました。
実際には,主張や立証次第で結果が大きく違ってきます。請求する立場と請求される立場が逆転することもあるのです。
実際に既婚者の男女交際に関する具体的問題に直面している方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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