【嫡出否認・申立期間制限|DNA鑑定との関係・見解の対立・最高裁判例】
1 嫡出否認|申立期間×DNA鑑定|問題点
2 嫡出否認と親子関係不存在の訴えの比較(参考)
3 嫡出否認|申立期間|例外を認める見解
4 嫡出否認|申立期間|例外を認めない見解
5 嫡出否認|申立期間|平成26年最高裁判例
6 不合理な法的父子関係による扶養義務の救済的扱い(概要)
7 嫡出否認|申立期間|判例|結論・誤解
8 嫡出否認|申立期間|判例|波及効果
9 3種の親子関係否定の手続の申立期間制限の有無
10 3種の親子関係否定の手続の申立期間制限の内容と判例
1 嫡出否認|申立期間×DNA鑑定|問題点
家裁の嫡出否認の手続には申立期間制限があります。
この期間制限が適用除外となるかが問題となったケースがあります。
最終的に最高裁で判断が示されました。
最初に事案・問題点をまとめます。
<嫡出否認|申立期間×DNA鑑定|問題点>
あ 事案|誕生
女性Aの夫は男性Cであった
女性Aが子Bを出産した
出生届を提出した
子Bは男性Cの『嫡出子』として戸籍に記録された
い 事案|DNA鑑定
DNA鑑定が行われた
子Bと男性Cには『血縁上の親子関係がない』ことが判明した
う 事案|期間制限
しかし既に『申立期間制限』を過ぎてしまっている
え 争点=見解の対立
『申立期間』の適用について2つの見解が存在した
見解により『法的な親子関係の存否』が逆の結果となる
期間制限が適用されるとすれば期間切れのために血縁関係がないけど法的に親子(父子)関係がありとなってしまう状態だったのです。
2 嫡出否認と親子関係不存在の訴えの比較(参考)
前記ケースで,父子関係を否定するためには嫡出否認の訴えが必要です。
ここで,嫡出否認の訴えの申立期間は出生を知ってから1年です。既に期間制限切れとなっていました。
この点,親子関係不存在確認の訴えであればもともと期間制限はありません。
この親子関係不存在確認の訴えが利用できるのは推定が及ばない場合に限られます。
詳しくはこちら|親子関係・手続|分類|『及ばない』|典型例・法的扱い
前記ケースでは推定が及ぶので,嫡出否認の訴えを利用せざるを得ません。結局,(条文規定上)期間制限が適用されるのです。
<嫡出否認と親子関係不存在の訴えの比較(参考)>
嫡出推定の適用 | あり | なし |
家裁の手続 | 嫡出否認 | 親子関係不存在確認 |
申立期間制限 | あり・1年 | なし |
本件申立のステータス | 期限切れである | 期限切れではない |
申立自体の扱い | 申立自体がNG | 申立はOK |
法的父子関係の結論 | 維持される | 解消される |
3 嫡出否認|申立期間|例外を認める見解
嫡出否認の訴えには,1年間の申立期間制限の規定があります(前記)。
この期間制限の規定について,解釈として救済的な例外措置を認める見解があります。
<嫡出否認|申立期間|例外を認める見解>
あ 期間制限の趣旨
古い時代はDNA鑑定という手法の精度が低く高価であった
ABO式血液型の整合性の確認がメジャーな判別方法であった
→『血縁関係』の医学的な判定が困難であった
長期間が経過すると『想定される父』の特定が,より困難になる
い 社会的背景の変化
現在はDNA鑑定の精度が非常に高い
=現実的にほぼ100%で判定できる
詳しくはこちら|DNA鑑定|精度|99%以上・『父』の検体なし→兄弟・異母でフォロー
DNA鑑定の費用も非常に低額化している
詳しくはこちら|DNA鑑定|基本|方法・内容|検体の種類・採取方法・費用相場・負担者
う 実質的考察=『虚偽』排除方針
期間を制限する趣旨が現状と合致していない
『血縁関係がない者』に『法的な親子関係』を認めるのは不合理である
『虚偽の血縁関係=虚偽の戸籍』を公的に追認してはならない
『子が父母を知る権利』を侵害してはならない
※児童の権利に関する条約7条1文
え 例外を認める見解|結論
申立期間の例外を認めるべきである
『嫡出推定が及ばない』扱いとする
→嫡出否認の結論を認める
→結果的に『法律上・戸籍上の親子関係』は解消される
4 嫡出否認|申立期間|例外を認めない見解
嫡出否認の訴えの申立期間の規定について,例外を認めない見解もあります。
<嫡出否認|申立期間|例外を認めない見解>
あ 期間制限の趣旨
『身分関係の不安定を防ぐ=早期確定』という趣旨である
結果的に『虚偽の血縁関係』を公的に認めることも想定されている
=制度上許容されている
い 例外を認めない見解|結論
申立期間の例外を認めないべきである
=規定どおりに『期間制限』が適用される
→嫡出否認の手続を利用できない
→結果的に『法律上・戸籍上は親子関係』が存続する
5 嫡出否認|申立期間|平成26年最高裁判例
最終的に最高裁は,嫡出否認の訴えの申立期間の例外を認めない見解を採用しました。
<嫡出否認|申立期間|平成26年最高裁判例>
あ 実質的考察
申立期間の規定は時代と整合しない
実質的に不合理な点はある
しかし『国会による判断=民主的プロセス』が優先である
=『時代にルールを合わせる』のは国会で判断すべきである
い 結論
DNA鑑定で親子関係が明確に否定されていても
→『期間制限』の例外は認めない
※最判平成26年7月17日
結果としては,カッコウの托卵のような状態は解消されないという不合理なものです。
托卵されたツバメの父にとってはアンラッキーと思えます。
アンラッキーな状態を作った原因が民法777条というのは皮肉です。
6 不合理な法的父子関係による扶養義務の救済的扱い(概要)
以上のように,嫡出否認の訴えの申立期間に例外は認められません。そうすると,血縁関係がないのに法律上は親子関係がある(否定できない)という状態が生じてしまいます。その結果,扶養義務があることになります。
具体的な事情によっては扶養義務(扶養請求)を認めることはあまりにも不合理といえることもあります。そこで,救済的に,扶養請求(養育費の請求)を権利の濫用として否定する判例もあります。
詳しくはこちら|養育費と有責性との関係(原則(影響なし)と特殊事情による例外)
7 嫡出否認|申立期間|判例|結論・誤解
前記の平成26年の最高裁判例に関して誤解される方も多いようです。
これについて整理しておきます。
<嫡出否認|申立期間|判例|結論・誤解>
あ 判例の結論|要約
推定される『父』が『出生を知ってから1年以内』に嫡出否認調停申立をしない場合
→『法的親子関係』を覆せなくなる
い ありがちな誤解
婚姻中の『妻』が妊娠→出産した場合
→『夫』が自動的に『父』となり覆せない(←誤り)
う 正しい理解=救済を受ける方法
1年以内に嫡出否認の手続を行えば『父』にならなくて済む
8 嫡出否認|申立期間|判例|波及効果
前記の平成26年の最高裁判例の波及効果も生じているようです。
<嫡出否認|申立期間|判例|波及効果>
あ 波及効果=後からでは遅い
判例により『後から発覚したのでは遅い』ことになった
→早めに『判明』させておく要請が高まった
い DNA鑑定の低額化・簡易作業
DNA鑑定の具体的な方法・作業も難しいものはない
方法=子供・『夫』の口内から唾液をすくう→民間検査機関に郵送する
『妻にばれないで実施』が容易である
『セルフ』採取の鑑定費用は約2万円程度まで下がっている
う DNA鑑定・密かなブーム化
子供の誕生時に『夫』が『疑惑』を感じた場合
→『夫』が,こっそりとDNA型鑑定を実施するケースが増えている
DNA鑑定の提供業者のセールスでも判例理論が活用されている
9 3種の親子関係否定の手続の申立期間制限の有無
親子関係を否定する家裁の手続は3種類に分けられます。この3種類全体の申立期間制限の有無についてまとめておきます。
<3種の親子関係否定の手続の申立期間制限の有無>
手続の種類 | 期間制限の有無 | 条文・理由 |
嫡出否認 | あり・1年(後記※2) | 民法777条 |
親子関係不存在確認 | なし | 条文規定がない |
認知無効確認 | なし | 条文規定がない(後記※3) |
10 3種の親子関係否定の手続の申立期間制限の内容と判例
親子関係を否定する家裁の3種類の手続の期間制限の規定の内容と解釈を示した判例をまとめておきます。
<3種の親子関係否定の手続の申立期間制限の内容と判例>
あ 嫡出否認の期間制限(※2)
『夫』が子の出生を知ってから1年間
※民法777条
い 親子関係不存在確認の期間制限
親子関係不存在確認の手続の期間制限の規定はない
詳しくはこちら|親子関係・手続|基本・まとめ|背景・実情・法的根拠
う 認知無効確認の期間制限(※3)
申立期間を制限する規定がない
最高裁判例も『制限なし』と判断した
※最判平成26年1月14日
※最判平成26年3月28日
<→詳しくはこちら|虚偽の認知をした父からの認知の撤回(無効確認)を認めた平成26年判例>
https://www.mc-law.jp/rikon/21405/
本記事では,嫡出否認の訴えの申立期間制限について説明しました。
実際には,個別的な事情によって最適な手段は異なりますし,手段の選択や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に親子関係に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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