【デオデオ・HDDデータ消失事件|データ消失・損害算定|過失相殺】

1 デオデオ・HDDデータ消失事件|事案
2 フォーマット→データ消失|過失の有無
3 損害|データの財産的価値
4 損害|精神的苦痛=慰謝料
5 データ消失|過失相殺
6 HDDデータ消失事件|損害賠償|まとめ
7 データ消失事故|一般化・比較

1 デオデオ・HDDデータ消失事件|事案

データの消失という損害について金額を算定した判例があります。
オンラインでのサーバーではなく,個人の端末という事例です。
まずは事案の概要をまとめます。

<デオデオ・HDDデータ消失事件|事案>

あ HDD増設|背景

パソコンのHDD容量を増大させる必要が生じた
Aは販売店でHDDを購入した
Aは販売店の長年の得意先であった
デオデオは増設作業を無償サービスとして行った

い データ消失事故

作業員は説明書を読んでいなかった
作業員が誤って既存のHDDを初期化してしまった

う 消失したデータ内容

海難審判検索システムなど
Aは海事補佐人であった
専門的知識を駆使してシステムを構築した
※広島地裁平成11年2月24日デオデオ・HDDデータ消失事件

2 フォーマット→データ消失|過失の有無

まずは誤操作についての『過失』が認定されています。

<フォーマット→データ消失|過失の有無>

誤操作の過失がある
『無償での作業』でも変わりはない
※広島地裁平成11年2月24日デオデオ・HDDデータ消失事件

『無償』の作業ではあるけれど『責任なし』となるわけではありません。

3 損害|データの財産的価値

失われたデータの『金額的評価』について裁判所が判断しています。
まずは『データ自体の価値』についての判断をまとめます。

<損害|データの財産的価値>

あ 基本的枠組み

海難審判検索システムの利用価値を算定する

い システムの状況

ア 未完成であったイ 商品化の段階にもなかった

う 裁判所の評価

財産的価値は皆無とは言えない
しかし,算定困難である

え 裁判所の判断|結論

単独では損害額として計上しない
慰謝料算定の1つの事情として考慮する(※1)
※広島地裁平成11年2月24日デオデオ・HDDデータ消失事件

ちょっと分かりにくい判断となっています。
『ゼロではない』けれど『金額にはしない』というものです。
その分,慰謝料の中で加算する,という方法が取られました。
慰謝料については次に説明します。

4 損害|精神的苦痛=慰謝料

データ消失によって『精神的な苦痛』が生じたことになりました。
いわゆる『慰謝料』のことです。
金額的な算定をまとめます。

<損害|精神的苦痛=慰謝料>

あ 愛着|海難審判検索システムの状況

Aが長年にわたり独自に開発し完成間近な段階にあった
一定の経済的な価値があるものであった(上記※1)

い 喪失感

システムが瞬時に消失した

う 裁判所の判断

Aが精神的苦痛を被った
慰謝料は100万円とする
※広島地裁平成11年2月24日デオデオ・HDDデータ消失事件

なお,財産的な損害について『精神的苦痛』を認めるのはややレアケースです。
この判例ではある意味原則的処理の逆の手法が取られたのです。
慰謝料の中で『財産的損害も含めて』算定されたのです。

5 データ消失|過失相殺

一般的に,被害者に過失がある場合,損害賠償はディスカウントされます。
過失相殺と呼ばれる制度です。
この判例でも過失相殺が使われました。

<データ消失|過失相殺>

あ 背景

Aには,次のような状況があった
ア 十数年以上パソコンなどの電子機器を扱っていたイ 自ら検索システムを構築する業務を行っていた データベースの専用ソフトを使用していた

い リスクの認識

Aは,パソコンの利用方法に習熟していた
相当詳しい知識を有していた
次のリスクを十分予見できた

う リスク|内容

HDDの設置作業に伴いデータが消失する危険

え データの重要性

HDDに保管されていたデータ
→必要不可欠なものであった

お バックアップ懈怠

Aは,バックアップの必要性を認識できた
→バックアップを怠ったことは過失である

か 過失割合

5割とする
※民法722条2項類推適用
※広島地裁平成11年2月24日デオデオ・HDDデータ消失事件

6 HDDデータ消失事件|損害賠償|まとめ

以上の判断をまとめます。

<HDDデータ消失事件|損害賠償|まとめ>

あ 損害内容
項目 金額
データの財産的価値 ゼロ
慰謝料 100万円
損害合計 100万円
い 過失相殺

50%をディスカウントする

う 賠償額|結論

50万円
※広島地裁平成11年2月24日デオデオ・HDDデータ消失事件

7 データ消失事故|一般化・比較

上記判例は,データ消失事故の損害の算定の一例です。
これを一般化すると次のように整理できるでしょう。

<データ消失事故|一般化・比較>

あ 前提事情

ア 多くのデータが消失した 次の場合でも『完全な状態ではない』ので同じと言える
・一部のデータの消失
・一部が復元された
イ 業務関連性 消失したデータは業務に関するものである
→一定の経済価値がある
ウ 評価困難性 価値の評価が難しい

い 損害の算定

慰謝料が認められる
金額は100万円が標準である

う 過失相殺|被害者の過失プラス事由

被害者が端末を『業務として日常的に利用』していた
例;プログラム作成→端末での作業が業務の中心である
→被害者の過失50%程度になる

え 過失相殺|被害者の過失マイナス事由

被害者が端末を『個人的に利用』していた
例;業務も含むが日常的なメインの端末ではない
→被害者の過失は否定される方向性

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