【ジェイコム株式誤発注事件|判例】

1 株式発注ミス事件|事案
2 株式発注ミス事件|要因
3 責任|債務不履行|基本
4 重過失|解釈・概要
5 責任|債務不履行|判断
6 責任|不法行為|基本
7 責任|不法行為|判断
8 過失相殺|過失割合
9 株式発注ミス事件|賠償責任|結論

1 株式発注ミス事件|事案

オンラインサービスの提供事業者は思わぬ責任を負うことがあります。
代表的な事例として『ジェイコム株式誤発注事件』を紹介します。
まずは事案をまとめます。

<株式発注ミス事件|事案>

あ 株式売り注文

ジェイコム株について売り注文を行った
顧客は注文の操作を誤った

い ミス|内容

ア 真意 61万円1株イ ミス 1円61万株

う 注文取消×バグ

顧客はその後,ミスに気付いた
売り注文の取消の操作をした
しかし注文の取消ができなかった

え 訴訟提起

顧客は証券取引所に対する損害賠償請求訴訟を提起した
原告=みずほ証券株式会社
被告=株式会社東京証券取引所
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

2 株式発注ミス事件|要因

注文取消ができなかった要因についてまとめます。

<株式発注ミス事件|要因>

取引システムに不具合があった
その原因はプログラム上の不備である
=いわゆるバグ
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

3 責任|債務不履行|基本

この事件の法的責任について説明します。
責任は『債務不履行』と『不法行為』に分類できます。
まずは債務不履行責任から説明します。
最初に債務不履行責任の基本的事項をまとめます。

<責任|債務不履行|基本>

あ 証券取引所の義務

適切に取消処理可能なシステムを提供する義務がある

い 債務不履行

『あ』の義務の不履行が認められる

う 免責規定

『重過失』以外は免責される
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

結局『重過失』が認められるかどうかで責任の有無が決まるのです。
『重過失』については次に説明します。

4 重過失|解釈・概要

『重過失』の一般的な解釈論の概要をまとめます。

<重過失|解釈・概要>

次の3つに該当する場合
→重過失が認められる
ア 結果の予見が可能かつ容易であるイ 結果の回避が可能かつ容易であるウ 回避を怠った=著しい注意義務違反である ※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

この解釈・基準を前提にして,判断内容の説明を続けます。

5 責任|債務不履行|判断

債務不履行について『重過失』の有無の判断をまとめます。

<責任|債務不履行|判断>

あ 結果の予見・回避|内容

バグの存在を排除・回避すること
バグの発見・修正をすること

い 回避可能性・容易性

『あ』の実現は可能・容易ではない
→重過失には該当しない

う 責任|結論

免責規定が適用される
→責任は生じない
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

債務不履行責任は,結果的に認められませんでした。
もう1つの『不法行為責任』について,次に説明します。

6 責任|不法行為|基本

不法行為責任の基本的事項をまとめます。

<責任|不法行為|基本>

あ 不法行為|内容

売買停止義務に違反したこと
→違法性が高い
→不法行為に該当する

い 免責規定

『重過失』以外は免責される
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

7 責任|不法行為|判断

不法行為責任の判断についてまとめます。

<責任|不法行為|判断>

あ 発注ミスの結果

・公益を害する
・投資家の一部に損害が生じる

い 回避可能性・容易性

一定時刻以降は売買停止措置実行は可能かつ容易であった
→重過失に該当する

う 責任|結論

免責規定は適用されない
→責任が生じる
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

8 過失相殺|過失割合

上記のように不法行為責任が認められました。
次に過失相殺が考慮されます。

<過失相殺|過失割合>

発注者にも過失があった
過失割合は3割とする
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

9 株式発注ミス事件|賠償責任|結論

裁判所の個々の項目の判断は以上のとおりです。
最終的な賠償額の算定についてまとめます。

<株式発注ミス事件|賠償責任|結論>

あ 損害|全体

一定時刻以降の取引によって生じた損害
約150億円

い 過失相殺

被害者の過失割合3割を減額する
→約105億円

う 弁護士費用

2億円を相当と認めた

え 合計

約107億円の賠償責任を認めた
※東京高裁平成25年7月24日ジェイコム株式誤発注事件
※最高裁平成27年9月3日;上告棄却

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