【データ消失事件・メンテナンス作業ミス|判例】

1 メンテナンス作業ミス事件|背景
2 メンテナンス作業ミス事件|メンテナンス
3 メンテナンス作業ミス事件|データ消失
4 メンテナンス作業ミス事件|訴訟提起に至る経緯
5 メンテナンス作業ミス事件|責任の有無・判断
6 損害|再構築費用
7 損害|逸失利益|概要
8 逸失利益|算定内容
9 過失相殺|過失割合
10 レンタルサーバー事件|賠償金額算定|まとめ

1 メンテナンス作業ミス事件|背景

サーバー上のデータが消失する事故が生じることはあります。
責任が判断された判例の1つを紹介します。
まずは事案をまとめます。

<メンテナンス作業ミス事件|背景>

あ サーバーレンタル契約

共用サーバーのレンタル契約が締結された

い メンテナンス実施|背景

当時,官庁関係のホームページにハッキングが多発していた
保管業者はセキュリティ強化のためのメンテナンスを行った
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

2 メンテナンス作業ミス事件|メンテナンス

行われたメンテナンス作業の内容をまとめます。

<メンテナンス作業ミス事件|メンテナンス>

あ メンテナンス|作業内容

メンテナンス作業の一環として,ファイルの移動を行った
ファイルの移動=別のディレクトリに移動すること

い メンテナンス|対象ファイル

多くの利用者のファイル
合計約百数十個

う メンテナンス|作業詳細

ファイルのバックアップは行わなかった
作業完了後,業者はファイルの自動チェックを行った
→異常は感知されなかった
確認事項=各ファイルが正常に残っているかどうか
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

3 メンテナンス作業ミス事件|データ消失

メンテナンス作業中にデータ消失が生じました。

<メンテナンス作業ミス事件|データ消失>

あ データ消失|発覚

ユーザーのデータが消失したことが発覚した

い 復元不可能

通常は定期的なバックアップが行われていた
しかし,この時にはバックアップファイルが見つからなかった

う 通常フロー|定期的バックアップ

サーバー内のファイルをバックアップする作業
→1週間に1度の割合で実施していた
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

バックアップデータが残っていれば回復は容易でした。
しかし,これが残っておらず,回復不能という状態になったのです。

4 メンテナンス作業ミス事件|訴訟提起に至る経緯

上記事故の発覚後,結局訴訟が提起されるに至ります。
その経緯をまとめます。

<メンテナンス作業ミス事件|訴訟提起に至る経緯>

あ 暫定支払

保管業者は顧客に3000万円を暫定的に支払った

い 訴訟提起

両方が次の内容の請求について訴訟を提起した
ア ユーザー 『不足する損害金』を請求した
イ 保管業者 『賠償責任のある金額と暫定支払金の差額』の返還請求をした
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

5 メンテナンス作業ミス事件|責任の有無・判断

メンテナンス作業についての責任判断をまとめます。

<メンテナンス作業ミス事件|責任の有無・判断>

あ バックアップ懈怠

メンテナンス作業時にバックアップは可能であった
保管業者はバックアップ作業を行わなかった

い 裁判所の判断

保管業者の対応によってはデータ消失を防げた
→保管業者には過失がある
→賠償責任を認めた
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

保管業者には過失が認められました。
次に,賠償すべき『損害』の算定について説明します。

6 損害|再構築費用

賠償すべき損害として『再構築費用』が認められました。

<損害|再構築費用>

あ 基本的事項

ホームページを再構築するのに必要かつ相当な費用
→損害として認められた

い 再構築|内容

ア テンプレート制作 8点 マスターデザインのことである
イ テンプレート利用での制作 38ページウ メールフォーム制作 4ページ カタログ請求・見学予約・リクルート部分メール送信機能

う 再構築|費用見積もり

404万円(※1)
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

7 損害|逸失利益|概要

『逸失利益』も,損害として認められました。

<損害|逸失利益|概要>

あ 基本的事項

逸失利益
→損害として認められた

い 逸失利益|算定

事故による利益減少金額を算定した(後記)
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

8 逸失利益|算定内容

逸失利益は算定がちょっと複雑です。

<逸失利益|算定内容>

あ 売上減少期間

営業が従来どおりに正常化するまでの期間
→3か月と認められた

い ホームページによる集客割合

事故前には8割程度がホームページ経由であった

う 売上減少額

1年の売上 × 3か月/12か月 × 8割
=約7000万円
これがそのまま『逸失利益』となるわけではない

え 逸失利益

売上総利益(粗利益)の減少分
=事故前の『利益』 − 事故後の『利益』
=1069万円(※2)
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

9 過失相殺|過失割合

この事故については『被害者の過失』も認められました。
『過失相殺』による賠償額減額が適用されました。

<過失相殺|過失割合>

あ 考慮事情

顧客の営業においてホームページは非常に重要であった
顧客はバックアップ実行が可能・容易であった
顧客は常時バックアップを取ることをしていなかった
事故の前からリスクが表面化していた
内容=ホームページに対するハッキングの事故が多発していた
事故後に保管業者が復元を申し出たが顧客が拒否した

い 過失割合

5割と算定された(※3)
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

10 レンタルサーバー事件|賠償金額算定|まとめ

この事案についての賠償金算定をまとめます。

<レンタルサーバー事件|賠償金額算定|まとめ>

あ 損害額合計

1473万円(上記※1・※2の合計)

い 過失相殺後の金額

1473万円×(10割−5割(上記※3))
=736万5000円

う 結論|暫定支払の清算

保管業者は顧客に対し既に3000万円を支払っている
→顧客は差額を保管業者に返金すべき
3000万円−736万5000円
=2263万5000円
※東京地裁平成13年9月28日レンタルサーバーデータ消失事件

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【機器の経年劣化によるデータ消失事故の裁判例(ねこじゃらし事件)】
【ファーストサーバー事件・データ消失|公表判例以外】

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