【弁護士の懲戒制度の基本(懲戒事由・処分の種類・弁護士会の裁量)】
1 弁護士自治と懲戒制度
2 弁護士・懲戒|対象者・判断権者
3 弁護士・懲戒事由
4 弁護士・懲戒|処分の種類
5 弁護士・懲戒|判断×裁量
6 弁護士・懲戒|裁量×違法|基準
7 弁護士懲戒|判例|懲戒処分取消・認容
1 弁護士自治と懲戒制度
弁護士の行動が法的責任を生じることもあります。その1つが懲戒という責任です。一般の事業者であれば『監督行政庁による行政処分』に相当するものです。弁護士の場合は自治の制度があり,監督機関は弁護士会となっています。
<弁護士自治と懲戒制度>
あ 弁護士会の目的
弁護士会は次の業務を目的とする
弁護士・弁護士法人の品位を保持し,事務の改善進歩を図る
弁護士・弁護士法人の指導・連絡・監督に関する事務を行う
※弁護士法31条
い 懲戒制度の概要
弁護士会が弁護士・弁護士法人に制裁を加える
弁護士自治の内容の1つである
う 一般事業者の監督(比較)
一般の事業者の監督機関は『監督行政庁』である
監督の具体的内容は『行政処分・行政指導』である
え 弁護士の懲戒の位置付け
弁護士の懲戒は『行政処分』に相当する
→行政責任に準じるものである
2 弁護士・懲戒|対象者・判断権者
弁護士の懲戒に関する対象者と懲戒処分の判断権者をまとめます。
<弁護士・懲戒|対象者・判断権者>
あ 懲戒の対象者
弁護士・弁護士法人
い 懲戒の判断権者
所属弁護士会
※弁護士法56条1項,2項
3 弁護士・懲戒事由
弁護士が懲戒となる対象行為をまとめます。
<弁護士・懲戒事由>
あ 懲戒事由|基本
行為が次の『い〜え』のいずれかに該当する
職務の内外を問わない
い 品位失墜非行
弁護士としての品位を失うべき非行があった
う ルール違反
弁護士法or日本弁護士連合会の会則に違反した
え 秩序・信用失墜
所属弁護士会の秩序or信用を害した
※弁護士法56条1項
このようにルール自体が非常に曖昧です。
4 弁護士・懲戒|処分の種類
懲戒処分の種類は4つあります。
<弁護士・懲戒|処分の種類>
あ 戒告
反省を求め,戒める
い 業務停止
期間=2年以内
弁護士業務を行うことを禁止する
う 退会命令
弁護士たる身分を失う
弁護士としての活動ができなくなる
弁護士となる資格は失わない
え 除名
弁護士たる身分を失う
弁護士としての活動ができなくなる
弁護士となる資格を失う
※弁護士法57条1項,2項
5 弁護士・懲戒|判断×裁量
弁護士の懲戒に関しては弁護士会に大きな裁量があります。
<弁護士・懲戒|判断×裁量>
あ 裁量|基本
弁護士会の合理的な裁量に委ねられている
裁量の対象の事項は次の『い〜え』である
例外的に処分が違法となることもある(※1)
い 該当性判断
懲戒事由に該当するかどうか
う 処分の有無
懲戒するか否か
懲戒事由に該当する場合が前提である
え 処分の種類・選択
どの処分を選択するか
懲戒する場合が前提である
※最高裁平成18年9月14日
6 弁護士・懲戒|裁量×違法|基準
弁護士会の懲戒処分の裁量には一定の限界があります。
<弁護士・懲戒|裁量×違法|基準(上記※1)>
あ 違法判断|基本
次の『い・う』のいずれかに該当する場合
→弁護士会の懲戒に関する処分は違法となる
違法となるのはこれらに限られる
い 違法|事実がない
懲戒対象行為が,全く事実の基礎を欠く
う 裁量権の逸脱or濫用
判断が社会通念上著しく妥当性を欠く
→裁量権の範囲を超えたor裁量権を濫用した
※最高裁平成18年9月14日
弁護士会の判断の裁量はとても大きいのです。
その一方で一定の限界があるのです。
弁護士会が限界を超える,つまり違法と判断される実例もあります。
次に説明します。
7 弁護士懲戒|判例|懲戒処分取消・認容
実際に弁護士会の懲戒処分が『違法』とされた判例を紹介します。
<弁護士懲戒|判例|懲戒処分取消・認容>
あ 懲戒処分の経緯
弁護士Aについて懲戒の手続が行われた
弁護士会は,業務停止1か月の懲戒処分を行った
Aは日本弁護士連合会に審査請求を行った
日本弁護士連合会は審査請求を棄却した
Aは東京高裁に処分取消請求訴訟を提起した
い 裁判所の判断
重要な事実関係について全く事実の基礎を欠く
→懲戒処分は違法である
→懲戒処分を取り消す
※東京高裁平成24年11月29日