【弁護士の法律雑誌フル活用による懲戒事例と残る違和感】

1 法律雑誌フル活用事件|背景・訴訟
2 法律雑誌フル活用事件|仕込み・自作自演|概要
3 法律雑誌|コメント提供
4 法律雑誌|掲載・出版
5 自作自演|訴訟上の主張
6 法律雑誌フル活用事件|日弁連・懲戒処分
7 法律雑誌フル活用事件|裁判所の判断|懲戒の裁量
8 法律雑誌フル活用事件|残る違和感

1 法律雑誌フル活用事件|背景・訴訟

弁護士は依頼を受けた訴訟の主張・立証活動を行います。
可能な限り依頼者に有利な結論獲得のために最善を尽くします。
『最善の活動・理想的業務』は『過激』という評価を受けることもあります。
熱意あふれる訴訟活動がペナルティを受けてしまったケースを紹介します。
まずは事案の背景をまとめます。

<法律雑誌フル活用事件|背景・訴訟>

複数の弁護士は依頼を受けた訴訟Lを遂行していた
懲戒対象となった弁護士3名が含まれる
3名を総称してAと呼ぶ
訴訟Lの判決が言い渡されることとなった

2 法律雑誌フル活用事件|仕込み・自作自演|概要

弁護士Aの訴訟活動は『有利な結果獲得への熱意』が強いものでした。

<法律雑誌フル活用事件|仕込み・自作自演|概要>

あ 法律雑誌|仕込み|判決前

Aは,法律雑誌5誌に次の事項を伝えた
伝達事項=訴訟Lの判決言渡期日が指定されたこと

い 法律雑誌|仕込み|判決後

Aは,法律雑誌に判決内容・コメントを提供した(※1)

う 雑誌|掲載・出版

法律雑誌3誌が訴訟Lのテーマを掲載した(※2)

え 自作自演|訴訟上の主張

Aは,訴訟Lにおいて,法律雑誌の記事を指摘した(※3)
※東京高裁平成27年6月18日;判例時報2284号p63〜

細かい内容については,続けて説明します。

3 法律雑誌|コメント提供

法律雑誌へのコメント提供の内容をまとめます。

<法律雑誌|コメント提供(上記※1)>

あ 執筆依頼・寄稿

Aは執筆依頼を受けた
Aは原稿を提供した
早期の掲載を希望する旨伝えた

い 提供内容

ア 訴訟Lの判決内容イ 判決の批判的内容のコメント A自身に不利な事項に対する批判である

う 批判|コメント内容|具体例

『理由付けには疑問がもたれる』
『理解が困難である』
『説得力を欠くのではないか』

え 匿名希望

コメントには氏名を出さないことを希望した
『編集部名での掲載として欲しい』希望を伝えた
※東京高裁平成27年6月18日;判例時報2284号p63〜

4 法律雑誌|掲載・出版

法律雑誌が記事を掲載・出版した内容をまとめます。

<法律雑誌|掲載・出版(上記※2)>

あ 出版

法律雑誌C・D・E誌
→訴訟Lの判決をテーマとした記事を掲載した

い 掲載内容|批判

C・D誌→判決の批判を掲載した
E誌→判決の批判は掲載しなかった
※東京高裁平成27年6月18日;判例時報2284号p63〜

5 自作自演|訴訟上の主張

弁護士は訴訟で法律雑誌の記事を効率的に活用しました。
これが『自作自演』という評価に至ってしまったのです。

<自作自演|訴訟上の主張(上記※3)>

あ 控訴状作成・提出

Aは訴訟Lの控訴状を作成し,裁判所に提出した
控訴状の中に『法律雑誌の指摘』を記載した

い 控訴状|法律雑誌の指摘

『既に公刊物(C誌◯◯号☓☓頁以下)においても指摘されているが,原判決は様々な矛盾点,疑問点を内包している』
※東京高裁平成27年6月18日;判例時報2284号p63〜

6 法律雑誌フル活用事件|日弁連・懲戒処分

以上の弁護士Aの頼もしい活動がペナルティの対象となってしまいます。

<法律雑誌フル活用事件|日弁連・懲戒処分>

あ 仮想批判

一方当事者の代理人が判決の批評記事を掲載した
公正中立な第三者や編集部を装った
→読者の信頼を裏切るものである

い 裁判所の誤判断誘発

控訴状にあたかも第三者が判決を批判しているかのように記載した
→裁判所の判断を誤らせかねない記載である

う 日弁連の判断|結論

『あ・い』の行為
→弁護士としての品位を失うべき非行に該当する
→懲戒として『戒告』処分とする
※弁護士法56条1項
※東京高裁平成27年6月18日;判例時報2284号p63〜

7 法律雑誌フル活用事件|裁判所の判断|懲戒の裁量

弁護士Aは,日弁連の判断に対して不服を申し立てました。
東京高裁が判断することとなりました。

<法律雑誌フル活用事件|裁判所の判断|懲戒の裁量>

あ 前提|判断基準|概要

弁護士会の判断が裁量権の逸脱・濫用に該当する場合に限り
→違法となる
(別記事『弁護士・懲戒|基本』;リンクは末尾に表示)

い 裁判所の判断|誤解の可能性

裁判官が次の『誤解』をすることが十分に考えられる
誤解内容=当事者以外の第三者も判決を批判している

う 裁判所の判断|裁判官への影響

公刊物の判例批評
→裁判官に影響を与えうるものである

え 裁判所の判断|結論

弁護士会の判断の評価
→裁量権の逸脱・濫用には該当しない
→取消請求を棄却する
=懲戒処分を維持する
※東京高裁平成27年6月18日;判例時報2284号p63〜

8 法律雑誌フル活用事件|残る違和感

前記のように,最終的に懲戒処分は維持されました。
判断内容は興味深いものもあります。
『裁判官が法律雑誌の影響を受ける』と名言しているのです。
法律雑誌の出版社の判断が判決を決めることにつながると認めたのです。
裁判官は独立性が強く保護されています。
法律・良心以外による拘束は受けないのです。
『法律雑誌の批判的指摘』に拘束されることはありません。
一方で『法律雑誌の批判的指摘』を流用することは禁止されていません。
理屈では分かりますが,不合理な感覚を覚えます。
なお,弁護士の業務への熱意が『過激』という評価につながるケースは多いです。
他のケースについても別記事で紹介しています。
詳しくはこちら|弁護士の過激な表現による賠償責任(民事責任)

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