【メールを証拠にする時の「成立の真正」】
1 メールを証拠にする時の「成立の真正」
訴訟(裁判)の中でメールを証拠にすることがよくあります。訴訟手続の中で法的にどのような扱いとなるか、という問題がいろいろとあります。
詳しくはこちら|メール×証拠方法|書証・準書証・検証・鑑定|削除済み→再現
訴訟手続における問題の1つに、成立の真正があります。本当にメールの発信者が出したものに間違いないのか、ということです。
本記事では、メールに関する成立の真正を説明します。
2 文書の成立の真正の基本→本人の意思で作成されたこと
民事訴訟における証拠の中で『文書』は重要性・使用頻度が特に高いです。訴訟の中で文書を証拠(書証)として使うためには成立の真正の証明が必要です。簡単にいえば、本人の意思で作成されたことを示す、ということです。偽造したものではない、ともいえます。
メールのようなデジタル証拠もこれがあてはまります。
文書の成立の真正の基本→本人の意思で作成されたこと
あ 文書の成立の真正(概要)
民事訴訟で文書を証拠にする場合、成立の真正の証明が必要である
文書の成立の真正とは、本人の意思で作成された、ということである
※民事訴訟法228条
詳しくはこちら|文書の成立の真正の基本(民事訴訟法228条)
い アナログ文書
署名・押印により『成立の真正』が推定される
※民事訴訟法228条
詳しくはこちら|2段の推定|押印・サイン・コピー・FAXの証拠力
う デジタル文書
原則的に『推定』は適用されない
『電子署名』で信用性を高める工夫があり得る
ただし現行法では『法律上の推定』は適用されない
典型例=メール
3 実務におけるデジタル文書の成立の真正→相手の同意が多い
ところで、成立の真正について、文書を提出する当事者の相手方が認めれば、立証は不要となります。実際には、相手方が出したメールについて、相手方が成立の真正を認める、具体的には私が出したメールに間違いないと答えることが多いです。
逆に、偽造されたメールであれば当然ですが、相手方は成立の真正を認めない(争う)ことになります。
実務におけるデジタル文書の成立の真正→相手の同意が多い
あ 相手が『成立の真正』を争わない場合
『成立の真正』の立証は不要となる
実務上は『成立の真正を争わない』ケースがとても多い
不当に『成立の真正を争った』場合には一定のペナルティがある(後記)
い 相手が『成立の真正』を争う場合
証拠申出をする側が『成立の真正』を争う必要がある
4 メールの成立の真正の立証の典型例
メールの成立の真正を立証するにはどうしたらよいでしょうか。要するに偽造したものではない、ということの裏付けです。確実に偽造ではないと分かるようにするためには、プロバーダーの通信記録をとりよせる、ということになります。
メールの成立の真正の立証の典型例
あ 人証
メールの受信者・発信者の証人尋問・当事者尋問
い 客観的資料・情報の例
通信記録をプロバイダーから取り寄せる
→メールのヘッダ情報との整合性を主張する
う 通信記録取得×注意点
一般的にプロバイダー・通信キャリアーの記録保管期間は短い
数か月〜6か月程度ということが多い
詳しくはこちら|発信者情報開示請求|具体的手続|開示・消去禁止×仮処分・本訴
5 文書の成立の真正を不当に争うことの不利益→信用性低下+過料
原告Aがメールなどの文書を提出した場合に、被告Bとしては、とにかく成立の真正を否定しておけば、Aはプロバイダーに記録の取り寄せをするなど、時間、労力、経済的コストがかかります。対立しているのであるから協力せず、手間をかけさせてやろう、という発想もあります。しかし、真正な文書である(成立の真正が認められる)にもかかわらず認めない場合には、信用性が低下する、また過料を課されるという不利益を受けます。
文書の成立の真正を不当に争うことの不利益→信用性低下+過料
あ 前提事情
原告Aが『被告Bが作成・送信したメール』を証拠申請した
実際にBが作成、送信したメールである
Bは「そのメールは私Bが送信したものではない、そのメールはAが捏造したものである」と回答した
い 成立の真正に関する虚偽の回答による不利益
ア 信用性低下
Bが虚偽の主張をしたことが判明する
→Bの主張・立証の全体の信用性が落ちる
イ 過料
故意または重過失によって文書の成立の真正を争った場合、過料10万円以下が課せられることがある
※民事訴訟法230条
6 メールの改竄可能性が問題となった裁判例
メールでも証拠能力をクリアすれば証拠として認められます。実際の訴訟でも頻繁に証拠として使われています。
ただし証拠にできることになったとしても、その重さ(信用性・証拠力の高さ)は別問題です。メールの信用性が問題となった裁判例を1つ紹介します。
メールの改竄可能性が問題となった裁判例
あ 事案
出版社=被告の週刊誌に次の内容の記事が掲載された
『大学教授=原告が学生に対してセクハラをした』
大学教授が出版社に対して損害賠償を請求した
い 証拠提出
別の教授Bの陳述書が提出された
陳述書には次の資料が添付されていた
『被害学生発信とされるメールのプリントアウト』
う 争点
メール内容の信用性
→裁判所が判断することとなった
※大阪高判平成21年5月15日
7 メールの成立の真正の判断基準
前記の裁判例は、メール(を含む電子記録)の成立の真正を認めるには、本人によって作成されたこと、と、作成後に改ざんされていないこと、の2つを示す必要がある、という基準を示しました。
このことは紙の文書でも同じですが、紙の文書では肉筆、筆跡があり、また、後から改ざんすると痕跡が残りやすいです。
一方、受信したメールは基本的にテキスト情報なので、用意に改ざんできる、という特徴があります。そこで、この2つを十分に確認する必要があるのです。
メールの成立の真正の判断基準
あ 判断基準
・・・電子記録はその性質上改ざんしやすいものであるから、これを証拠資料として採用するためには、その記録が作成者本人によって作成され、かつ、作成後に改ざんされていないことを確認する必要がある。
※東京高判平成21年5月15日
い 成立の真正の立証方法の例
ア 作成者の尋問イ 客観的な改竄防止措置 例=ハッシュ関数などを用いた暗号化
本記事では、メールを証拠にする時の「成立の真正」について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に訴訟(裁判)手続におけるメールなどの電子記録の証拠に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。