【メール×証拠方法|書証・準書証・検証・鑑定|削除済み→再現】
1 デジタル証拠|メール|特性=改竄可能性・量の増大傾向など
2 デジタル証拠|メール|注意点=改竄・変造・違法収集証拠など
3 デジタル証拠|メール|提出方法・全体|バラエティが多い
4 メール×証拠方法の類型=書証・準書証・検証・鑑定
5 メール×書証・準書証|信用性
6 メール×記憶媒体の証拠調べ|準書証|再生容易性がポイント
7 メール×端末の検証|法廷で裁判官が端末を操作する
8 削除済みのメール×鑑定|『再現』が成功する可能性もある
9 相手のPC・スマホ内のデータ→取得=準文書提出命令+鑑定申立
1 デジタル証拠|メール|特性=改竄可能性・量の増大傾向など
メールを民事訴訟で証拠として使うことは多いです。
まずは,メールの証拠としての特性をまとめます。
<デジタル証拠|メール|特性>
あ 本文の内容の重要性
紙媒体の手紙などの書証と同様である
い 本文以外の重要性
ヘッダ情報などが重要となることも多い
う 複数箇所に残る
メールの送信者・受信者の両方の手元に情報が存在する
→改竄が困難となる
→送信者・受信者が結託すると変造が容易となる
え 量の増大傾向
個々のメールは断片的なことが多い
→量が膨大となる傾向が強い
このうち『ヘッダ情報の重要性』については有名な事件がありました。
<ヘッダ情報の重要性|ライブドア偽メール事件>
ヘッダー部分が黒塗りだった
→その後,真正なものではないことが明らかとなった
これは訴訟ではないですが,ヘッダの重要性としては訴訟でも同じことです。
2 デジタル証拠|メール|注意点=改竄・変造・違法収集証拠など
メールを証拠として使用する場合の注意点をまとめます。
<デジタル証拠|メール|注意点>
あ 全般的な注意点
次の事情により証拠力・証拠能力に大きな影響が生じる
ア 改竄・変造の可能性イ 違法収集証拠と判断される可能性
い Webメール
第三者管理のサーバー上に保存される方式
→比較的改竄の可能性が低い
う PCメール
その時点のデータファイルを別途保存するなどして保全する
え 携帯メール
ガラケーなどの『端末内部』にデータを保管する方式
→専用アプリ・ソフトでPCにデータを吸い出すことにより保全する
携帯そのもの・現物を確保した方がベターである
3 デジタル証拠|メール|提出方法・全体|バラエティが多い
実務上,メールを証拠として使う場合の具体的な方法をまとめます。
<デジタル証拠|メール|提出方法・全体>
あ メール本文のプリントアウト→書証
メールの作成者・日時などに争いがない場合
→簡易な方法で足りる
い 端末に表示されたメールの写真→『準書証』
携帯電話やスマートフォンの画面を撮影する方法
『あ』よりも『改竄可能性』を下げることができる
う ヘッダを含めたプリントアウト→書証
作成者などに争いがある場合
→ヘッダ情報も含めてプリントアウトする
主要なヘッダ情報=発信元・送信先・発信日時など
え データ媒体→『準書証』
作成者などに争いがあり,より正確な立証が求められる場合
→データ媒体自体を『準書証』として提出する
データ媒体の例=USBメモリ・DVD
お 端末自体→『検証or鑑定』
さらにより正確な立証が求められる場合
→端末自体を『検証or鑑定』の対象物として提出する
→裁判官or外部専門家=鑑定人が端末を操作して情報を確認する
それぞれの内容については順に説明します。
4 メール×証拠方法の類型=書証・準書証・検証・鑑定
メールを証拠として使う方法はいくつかのバラエティがあります(前述)。
証拠とする方法を訴訟法上のカテゴリに分けて整理します。
<メール×証拠方法の類型>
あ 書証
プリントアウトした書面を『文書』として証拠申請する
※民事訴訟法219条
い 準書証
撮影した写真を『準文書』として証拠申請する
※民事訴訟法231条
う 検証
裁判官が直接確認する(後述)
※民事訴訟法232条
え 鑑定
裁判所から選任された『鑑定人』が判断する(後述)
5 メール×書証・準書証|信用性
メールを書証・準書証として使う場合は『信用性』への配慮が必要です。
<メール×書証・準書証|信用性>
あ 信用性の争い|具体的主張
相手方に『自分で作った文章を印刷しただけだ』と主張される
→『成立の真正』を証明する必要がある
(別記事『成立の真正』;リンクは末尾に表示)
6 メール×記憶媒体の証拠調べ|準書証|再生容易性がポイント
メールをデータとして証拠にする方法があります。
記憶媒体に複製して,その媒体を証拠調べの対象とする方法です。
この方法についてまとめます
<メール×記憶媒体の証拠調べ|準書証>
あ 具体的な証拠調べ方法
メールをデータとしてUSBメモリやDVDに複製・保存する
これらの記憶媒体を裁判所に『準文書』として提出する
い 『準書証』のハードル
準書証は『再生(再現)容易』であることが前提とされている
『メールの内容』は『再生容易ではない』と判断される可能性がある
→NGの場合,他の証拠方法を選択することも可能である
う 媒体×再生容易性
ア 一般論
媒体の普及度が高くない場合
→『再生容易ではない』と判断される傾向がある
例;Blu-ray Disc・HDD・SSD
イ 裁判所の特性
裁判所はテクノロジー対応が遅い役所である
→新しい媒体は『再生容易ではない』と判断される傾向がある
7 メール×端末の検証|法廷で裁判官が端末を操作する
メールを『検証』によって証拠調べをする具体的内容をまとめます。
<メール×端末の検証|具体的方法>
受信メールがパソコン・スマートフォンなどに保存されている
証拠提出者が,これらの端末を法廷に持って行く
法廷で裁判官が直接操作して内容を閲覧する
8 削除済みのメール×鑑定|『再現』が成功する可能性もある
メールを端末上『削除してしまった』ということもあります。
この場合にも『再現して証拠にする』ことが成功するケースもあります。
法的な手続をまとめます。
<削除済みのメール×鑑定>
あ 前提事情
メールを受信した
その後,メールを削除してしまった
後から,削除したメールを証拠に使いたい状況となった
い テクノロジー
HDDに特殊な処理を行い,再現にトライする方法がある
状況により『重要・貴重な情報が出てくる』ということもよくある
ヘッダー情報含めて,詳細な再現が実現することもある
う 証拠方法=『鑑定』
特殊な専門技術を用いた専門機関によるHDDの分析が実施される
→『印刷して書面として証拠にする』という方法が使えない
→『鑑定』を申し出る方法が適している
え 鑑定|具体的方法
裁判所が専門業者を『鑑定人』として選任する
『鑑定人』が対象の媒体を調査・分析する
9 相手のPC・スマホ内のデータ→取得=準文書提出命令+鑑定申立
メールのデータが『相手の保有するPC・スマホ』に入っていることもあります。
この場合に『証拠にすることにトライする』方法があります。
<相手のPC・スマホ内のデータ×取得方法>
あ 前提事情
相手が保有している端末に証拠となるメールが入っているはず
例;パソコン・スマートフォン
既に削除されているかもしれない
い 証拠にするためのトライ
『準文書提出命令+鑑定』を申し立てる
う 裁判所が提出命令を発令するポイント
相手の端末に『審理に影響を与えるデータ』が入っている
→この可能性がある程度高いことを証拠で示す必要がある
え 具体的な証拠化のプロセス
裁判所が相手に端末の提出を命じる
提出された端末を『専門業者=鑑定人』が分析する
HDD・SSDなどの端末内部のデータを再現する
※民事訴訟法219条〜,231条