【プライバシー権×前科|基本|忘れられる権利|報道以外】
1 前科に関するプライバシー情報
2 プライバシー権×前科|公共の利害|全体
3 プライバシー権×前科|有罪判決後・執行終了後
4 プライバシー権×前科|過去の公表記事の引用
5 プライバシー権×前科|忘れられる権利・削除権
6 プライバシー権×前科|有罪判決言渡後・確定前|判例
7 プライバシー権×前科|有名判例|前科照会事件
8 プライバシー権×前科|有名判例|『逆転』事件
9 プライバシー権×前科|報道による公表
1 前科に関するプライバシー情報
一般的に『前科』の公表はプライバシー侵害になります。
本記事では前科公表によるプライバシー侵害の基本的事項を説明します。
まずは『プライバシー情報』として保護される内容を整理します。
<前科に関するプライバシー情報>
次の情報は『プライバシー情報』に当たる
ア 被告人(受刑者)の氏名イ 起訴された事実ウ 刑事裁判(公判)を受けた事実エ 有罪判決を受けた事実オ 服役したという事実
2 プライバシー権×前科|公共の利害|全体
前科については『知られたくない』程度が特に高い情報です。
一方で『知られるべき』という性格もあります。
『公共性』についてまとめます。
<プライバシー権×前科|公共の利害|全体>
あ 判決言渡まで
刑事事件・刑事裁判は,社会一般の関心・批判の対象となる
→原則的に『公共の利害』に該当する
=公表はプライバシー権侵害にならない
い 有罪判決後・執行終了後
社会一般の利益よりも被告人個人の『更生』が尊重される
→原則的に『公共の利害』に該当しない
=公表はプライバシー権侵害となる
3 プライバシー権×前科|有罪判決後・執行終了後
前科の公表の扱いは『過去のこと』になると大きく変わります。
<プライバシー権×前科|有罪判決後・執行終了後>
あ レッテル解消の利益(※1)
被告人は一市民として社会に復帰することが期待される
前科の公表は,新しく形成している社会生活の平穏を害する
→更生を妨げる
対象者はこのような侵害を受けない,という利益を有する
い 公共の利益|原則
『公共の利害』に関わるものとは言えない
=公表はプライバシー権侵害となる
う 公共の利益|例外
事件を公表することに歴史的or社会的な意義が認められる場合
→『公共の利害』に該当する
=公表はプライバシー権侵害にならない
※和歌山地裁昭和41年4月16日;刑事(名誉毀損被告事件);夕刊和歌山時事事件;第1審
※最高裁平成6年2月8日;ノンフィクション『逆転』訴訟・上告審
4 プライバシー権×前科|過去の公表記事の引用
前科の公表では『方法』に特徴があります。
内容が『過去に知れ渡ったこと』であることが多いのです。
『公表の方法』に関する判例の指摘をまとめます。
<プライバシー権×前科|過去の公表記事の引用>
あ 基本的理論
過去に公表された前科を事後的に改めて公表した場合
→プライバシー権侵害となることがある
い 具体例
ア 過去の公表
公的機関・私人・私的団体のいずれかが前科を公表した
イ 事後的公表
『ア』を引用することによって公表した
う 裁判所の判断
過去の新聞記事の抜すいにより犯罪を公表した
→プライバシー権侵害を認める
※最高裁平成6年2月8日;ノンフィクション『逆転』訴訟・上告審
5 プライバシー権×前科|忘れられる権利・削除権
『過去の犯罪の報道』を後から公表することは違法となるのです(前記)。
最近では『公表の方法』に『検索エンジンの結果表示』もあります。
さらに『サジェストワードの表示』ということもあります。
検索エンジンに関する判例の中で新しい法的構成が登場しています。
理論的な法的構成を整理します。
<プライバシー権×前科|忘れられる権利・削除権>
あ 前科×更生・平穏な生活
前科の公表により対象者の更生が害される(前記※1)
い 法的構成|通常
通常は『プライバシー権侵害』に該当する
う 法的構成|忘れられる権利
『忘れられる』こと自体を保護する考え方もある
→『忘れられる権利』と呼ばれている
え 忘れられる権利×判例|概要
『忘れられる権利』の趣旨を示す裁判例も登場している
※東京地裁平成26年10月9日
お 法的構成|削除権
現在では『削除権』と位置付ける見解が有力である
※『月報司法書士2015年5月』日本司法書士会連合会p13〜
詳しくはこちら|検索エンジン×プライバシー|検索結果・サジェストワード・削除リクエスト
か 社会復帰のための名の変更(参考;概要)
社会復帰・更正のために名前を変更するという発想がある
『忘れられる権利』と同様の考え方である
→ただし,家裁は名の変更を許可しない傾向がある
詳しくはこちら|前科の清算のための名の変更(許可基準と裁判例)
6 プライバシー権×前科|有罪判決言渡後・確定前|判例
前科の公表の扱いは『有罪判決』の前後で変わります(前記)。
この中間部分と言える情報の公表が問題となった判例があります。
<プライバシー権×前科|有罪判決言渡後・確定前|判例>
あ 事案|全体
1審で有罪判決が言い渡された
報道機関がこれを公表した
その後,控訴審で無罪判決が言い渡された
い 公表した内容
刑事第1審の判決における次の記載事項
ア 『罪となるべき事実』として示された犯罪事実イ 『量刑の理由』として示された量刑に関する事実ウ その他判決理由中において認定された事実エ 判決を資料として信じた『認定事実と同一性のある事実』
う 裁判所の判断
『真実と信ずるについて相当の理由』がある
→公表は適法である
※最高裁平成11年10月26日
7 プライバシー権×前科|有名判例|前科照会事件
前科の公表についての有名な判例を紹介します。
自治体が情報を開示した,というケースです。
<プライバシー権×前科|有名判例|前科照会事件>
あ 事案概要
弁護士会が地方自治体(区)に弁護士会照会を行った
地方自治体が前科記録を開示した
い 裁判所の判断
プライバシー権侵害を肯定した
※最高裁昭和56年4月14日
8 プライバシー権×前科|有名判例|『逆転』事件
『小説中の記述』に前科が含まれていたというケースもあります。
<プライバシー権×前科|有名判例|『逆転』事件>
あ 事案概要
ノンフィクション小説で実名で犯罪行為を描写
い 裁判所の判断
プライバシー権侵害を肯定した
※最高裁平成6年2月8日
9 プライバシー権×前科|報道による公表
前科の公表が問題なるのは『報道』が非常に多いです。
報道については特殊性を考慮する必要があります。
報道による前科の公表については別に説明しています。
詳しくはこちら|プライバシー権×前科|報道|違法性阻却・判断基準