【離婚の条件が合意に達した時点で離婚協議書の調印+離婚届提出をすると良い】
1 協議離婚の際は「離婚届」以外の条件を離婚協議書に調印しておくと良い
2 協議離婚成立のためには親権者の決定が前提となる
3 誤って離婚届が受理されても「離婚成立」は有効
4 万一離婚時に親権者が決まっていない場合,離婚成立後に親権者を定める
5 協議離婚の際は,条件を離婚協議書にまとめておくとベター
6 協議離婚届出を済ませた後に,条件の交渉をすると長期化のおそれがある
7 離婚条件の交渉の長期化では時効,相続に注意
8 離婚届出先行の方法を活用できる場面がある
1 協議離婚の際は条件を離婚協議書に調印しておくと良い
日本の制度では,夫婦で離婚することに合意すれば,離婚ができます。
「協議離婚」です。
別項目;夫婦で離婚に合意し,離婚届を役所に提出すれば「協議離婚」が成立する
詳しくはこちら|離婚原因の意味・法的位置付け
協議離婚の際は,離婚届に記入して,役所に提出します。
また,離婚届の用紙上は要求されていない事項も協議して決めておくと良いです(後記)。
協議する事項をまとめておきます。
<離婚の際に協議・決定する事項>
あ 子供の親権者,監護権者
これだけは『離婚届』の記載事項です。
い 子供の氏(苗字)
う 子供との面会交流の実施方法
詳しくはこちら|子供と親の面会交流の実施方法(合意書の条項サンプルや審判の内容)
面会方法,面会頻度,面会場所など
え 養育費
月額,終期(いつまで払うのか)
詳しくはこちら|養育費の支払の終期(未成熟子の意味と持病・障害・大学進学による影響)
再婚時の通知義務
別項目;合意されていれば再婚の通知義務がある
一括請求の場合;追加請求について
別項目;離婚協議書の記載を工夫すれば,養育費の一括払い後の追加請求を低減できる
お 財産分与
か 慰謝料
『あ』だけは,離婚届出をするために必須なので『決め忘れた』ということはないはずです。
他の離婚の条件については,離婚届の後で話し合うとすると決まらないままとなることが多いです。
精神的にも,現実的にも「放置しておいてもあまり困らない」状態となるからです(後記)。
2 協議離婚成立のためには親権者の決定が前提となる
協議離婚の際には,親権者を指定しなくてはなりません(民法819条1項)。
また,役所への離婚届に際しても,親権者を記入する必要があります(戸籍法76条1号)。
先に離婚だけ成立させて,後で親権者の話し合いをするということは制度上はできないことになっています。
3 誤って離婚届が受理されても離婚成立は有効
レアケースですが,親権者が決まっていないまま協議離婚が成立する,ということがあります。
(1)受理のチェック
親権者を決めるべき夫婦が,「親権者欄が空欄」という状態で離婚届を提出しても,受理されないはずです。
当然,役所の戸籍係は,届出をしっかりとチェックしてから受理するのです(民法765条1項)。
しかし,レアケースですが,誤りが生じます。
実際に,役所の職員が子供がいないと誤解して受理してしまうこともあります。
(2)誤った受理でも無効とはしない
誤った受理,なので,この届出は無効になるという発想もあります。
しかし届出自体は有効です。
条文上(離婚の)『効力を妨げられない』と明記されているのです(民法765条2項)。
法的には離婚は有効ということです。
このような本来認められない手続を積極的に有効とする規定は家族法の特徴の1つです。
親権者の指定は協議離婚の効力要件ではないとも言えます。
結論として,離婚は成立したが親権者は一方に定められていないという非常に珍しい状態に陥るのです。
4 万一離婚時に親権者が決まっていない場合,離婚成立後に親権者を定める
親権者が決まってないまま,離婚が成立する,というレアケースにおける対処法を説明します。
まずこの状態では(元夫婦の)共同親権ということになります。
条文上,「共同親権」は『婚姻中』と明記されています(民法818条3項)。
ですから離婚後は「共同親権」はストレートには適用されません。
ただし,親権者の指定がされていないまま離婚が成立してしまったというレアケースの場合は,法律の想定外です。
例外的に,引き続き共同親権が適用されると解釈されます。
その後は,(元)夫婦の協議により,親権者を一方に定めるのが原則です。
当然,協議がまとまらない,というケースもあり得ます。
その場合は,通常の離婚の場合と同様に,家庭裁判所へ調停や審判を申し立てるということになります(民法766条1項)。
最終的には,家庭裁判所により,(元)夫婦のどちらかが親権者として定められることになります。
5 協議離婚の際は,条件を離婚協議書にまとめておくとベター
(1)離婚の条件を書面化しなくても離婚は成立する
離婚時のいろいろな条件について,書面に調印しておくことは,法律上は義務とされていません。
しかし,約束内容の明確化・記録化という趣旨で書面にしておくことが望ましいです。
(2)離婚の条件を書面にする場合「離婚協議書」のタイトルがポピュラー
書面調印をする場合,そのタイトルについても,特に決まりはありません。
一般的には「離婚協議書」と称することが多いです。
なお,タイトルによって合意内容や証拠としての効果が違ってくるわけではないです。
(3)公正証書にすると「執行力」がある
書面にする場合,一般的な書面に調印するということでも問題ありません。
この点,さらにしっかりとしたものにしたい場合は,公正証書にしておく方法もあります。
また,裁判所による「訴え提起前の和解」を活用する方法もあります。
公正証書(執行証書)や裁判所の和解調書であれば,債務不履行の際に「差押」などが可能です。
例えば,養育費などの支払が滞った場合に,すぐに相手方の財産を差し押さえることができるのです。
このような「強制執行」できる書面を「債務名義」を言います。
詳しくは別に説明しています。
別項目;強制執行;債務名義
6 協議離婚届出を済ませた後に,条件の交渉をすると長期化のおそれがある
離婚届の提出だけは先にしておいて,後から財産分与や慰謝料などの条件の協議をすることも法律上可能です。
協議離婚の届出の提出後に,財産分与,慰謝料,養育費について,交渉や調停・訴訟などを行うケースも実際にあります。
ただし,次のように,交渉が進みにくくなる,交渉が長期化するという現象があります。
<離婚成立前後での条件交渉のスムーズさが違う根本的理由>
離婚成立前は,法的に「夫婦」なので,法的,精神的に負担がある
離婚成立後は,このような「負担」が解消される
別項目;婚姻費用分担金
別項目;結婚債権評価額;算定式
7 離婚条件の交渉の長期化では時効・相続に注意
離婚すること自体では見解が一致しても,条件について合意に達しない,ということは多いです。
このような場合,交渉が長期化することがあります。
通常は,交渉が進まないような場合,離婚調停や訴訟を利用します。
「交渉で済む」のと比べると,時間的,費用的,精神的な負担が大きくなります。
別項目;離婚;4種類とその概要
(1)消滅時効に注意
ここで,長期化した場合のリスクとして期間制限(消滅時効)があります。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|離婚に伴う金銭請求(清算)の期間制限(財産分与・慰謝料・養育費)
(2)相続への配慮
具体的なリスクとは別に,一般論として離婚に向けた手続中に相続を意識することもあります。
別に説明しています。
別項目;離婚に向けた対立中には相続を意識しておくこともある
8 離婚届出先行の方法を活用できる場面がある
一般的に大きな婚姻費用を負担する立場の場合は離婚届出先行だと,非常に有利になります。
当然ですが,婚姻費用の負担から解放されるからです。
これを応用して,夫婦間のごく一般的な協議の中で活用するケースもあります。
<離婚届出のタイミングを調整する具体例>
・夫の収入が大きい
・妻は専業主婦
・妻の浮気が発覚した
・夫としては↓のように考えている
《夫の考え》
・妻が反省しているので許して今後も同居を続ける
・事情の変化により別れたいと思った時に「多大な経済的負担」を負うのを避けたい
・お互いに今後の方針をどうするかを検討する時間を欲しい
別項目;結婚債権評価額;算定式
別項目;MCコラム;あ,性格の一致,とかいらないんで,とりあえずコンピ1億2000万円ください。
↓
対抗策の1つ
離婚届を提出し,同居は継続する
ただし,「内縁」として,夫婦間の扶養義務が認められる可能性はあり得ます。
別項目;内縁関係の成立要件
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