【借地権の分割譲渡・一部譲渡を裁判所が許可しない傾向とその例外】
1 借地権の分割譲渡・一部譲渡を裁判所が許可しない傾向とその例外
借地権の譲渡(借地上の建物の譲渡)をする際には、地主の承諾が必要です。地主が承諾してくれない場合、その代わりに裁判所の許可をもらう手続があります。
通常、借地権を譲渡しても地主に不利になるおそれはないといえるので、裁判所は原則的に許可をします。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の形式的要件・実質的要件(判断基準)の基本
しかし、借地権が2つ(以上)に分かれる場合には許可しないことがあります。本記事ではこのことについて説明します。
2 借地人の増加することによる影響(基本)
借地権が2つに分かれることになるのはどのような場合でしょうか。
1つの借地権のうち一部(東側半分)だけを第三者に譲渡するケースと、1つの借地権を2つの部分に分けてそれぞれを別の第三者に譲渡する(東側半分をAに、西側半分をBに譲渡する)ケースがあります。
どちらのケースでも、借地権譲渡によって借地人が増加することになります。一般論としてこれだけで地主に不利になります。仮に、無接道の土地が生じる場合は地主に、深刻なレベルの不利益が生じます。まさに地主に不利になるおそれがあることになり、裁判所は借地権譲渡を許可しない方向に働きます。
借地人の増加することによる影響(基本)
あ 一般的な影響→地主に不利
借地の利用に関しては、前述した、借地の一部譲渡ないし分割譲渡の適否が重要である。
そもそも、賃借人の数が増えることは、(借地権の共同相続の場合はやむを得ないものの)賃貸人にとって従来より事務量が増え、わずらわしくなる点で、一般に不利といえる。
い 不利が著しいケース
また、土地の分割方法によっては、残存地の価値が下がる場合(例えば、借地の道路に面する部分と、道路に面しない奥地とに分割して、前者だけを賃借権譲渡の対象とするような場合)には、明らかに賃貸人に不利といえる。
う 転貸借→不利ではない
・・・借地の一部の転貸許可申立ての場合には、転貸に係る土地が借地のどの部分であれ、一般には、賃貸人に不利となることはほとんどないと思われる。
※澤野順彦編『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p254
3 借地の一部譲渡を許可しなかった裁判例
借地の一部だけを第三者に譲渡することについて許可が求められたのに対して、裁判所が許可しなかった実例を2つ紹介します。却下にしたものと棄却にしたものがあります。形式は違いますが、許可しなかったという結論は同じです。
借地の一部譲渡を許可しなかった裁判例
あ 共通・前提事情
譲渡許可の申立の対象が借地の一部であった
い 申立→却下
→地主への不利益が大きい
→不適法とした
※東京地決昭和46年7月15日
う 棄却
申立は適法である
貸地の残存部分の利用価値が著しく減少する
→棄却した
※東京地決昭和45年9月11日
4 例外的に借地の分割譲渡を許可した裁判例
借地を物理的に2つに分けてそれぞれを別の第三者に譲渡する場合(分割譲渡)でも、一部譲渡と同じように、借地人が2人になる(借地が2個になる)ので、地主に不利になるので、許可されない傾向があります。
この点、特殊な事情があったため、裁判所が分割譲渡を許可した実例があります。
借地人Bが、借地を2つに分けて一方をC、他方をDに譲渡するという内容でした。ここで、隣接地も同じ地主(A)の貸地となっていて、借地人は(最初から)Cでした。分割譲渡だけども、隣接地も含めると、譲渡前の借地人はBとCであり、譲渡後の借地人はDとCになる、つまり借地人の人数・(実質的な)借地の個数は変わらない、という状態だったのです。
そこで、裁判所は借地権の分割譲渡を許可したのです。ただし、対価(実質的な承諾料)は、通常の借地権の10%よりも2%アップして12%としました。
承諾料の相場(10%がノーマル)ということについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|借地権譲渡の承諾料の相場(借地権価格×10%)と借地権価格の評価法
例外的に借地の分割譲渡を許可した裁判例
あ 事案内容(特殊性)
ア 土地の位置関係
地主A
借地人Bの借地b
借地人Cの借地c
土地bとcが隣接していた
イ 予定する譲渡の内容
借地人Bが次のようにCとDに借地権を譲渡する
借地bの一部b1の借地権をBがCに譲渡する
借地bの一部b2の借地権をBがDに譲渡する
b1とcは隣接している(この2つとも借地人はCとなる)
物理的に一体となる形状である
い 裁判所の判断(引用)
ア 特殊性の反映→分割するが実質的には借地人が増えない)
・・・一部分割して各両名に譲渡しても相手方(注・地主)に不利となる虞れがないことが認められる。(右Kに譲渡予定部分は、賃借地の分割により借地が不整形になるが、Kは、隣接地を相手方から賃借中であり、右土地と一括してみるかぎり、分割が、相手方に不利となることはない。)
そこで、本件譲渡は後記の条件の下にこれを許可するのが相当である。
イ 附随の処分→対価は借地権の12%
鑑定委員会は、本件土地の更地価格を3.3平方米当り金二〇万円、借地権価格をその七〇%としたうえ、本件譲渡につき、申立人にその一二%にあたる金六一五、〇〇〇円を支払わせ、賃料を3.3平方米当り金五〇円とするのが相当である、としている。
当裁判所も、右意見(但し、千以下切捨てる)を相当と認める。・・・
※東京地判昭和46年6月16日
本記事では、借地権の一部譲渡・分割譲渡について裁判所が許可しない傾向やその例外について説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に借地権の譲渡に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。