【売買契約解消×仲介手数料|全体|報酬請求権・相当額・算定】
1 契約解消の種類×仲介手数料|全体
2 ローン特約・その他特約による解除→仲介手数料はゼロになる
3 サービスの報酬|一般論|商法による報酬請求権
4 仲介手数料についての『相当の報酬額』|算定要素
5 手付解除→仲介手数料の『相当額』|判例
6 債務不履行解除・合意解除×仲介手数料|概要
7 『仲介抜き行為』×仲介手数料→みなし報酬|概要
8 仲介業者の義務違反×仲介手数料|判例
1 契約解消の種類×仲介手数料|全体
不動産取引が成約すると仲介手数料が発生します。
詳しくはこちら|不動産売買・仲介手数料|上限|媒介・代理|追加できる/できない費用
ところが,途中で契約が解消されるケースもあります。
この場合に,仲介手数料がどうなるか,が問題となります。
最初,全体的な扱いをまとめます。
<契約解消の種類×仲介手数料|全体>
契約解消の種類 | 仲介手数料の有無 | 実質的要因の性格 |
無効 | なし | 当初から存在した要因 |
取消 | なし | 当初から存在した要因 |
ローン特約による解除 | なし | 当初から想定できた要因 |
手付解除 | あり(相場=半額) | 通常想定されない要因 |
債務不履行解除 | あり(相場=満額〜8割) | 通常想定されない要因 |
合意解除 | あり(実質的な『理由』による) | 通常想定されない要因 |
『抜き』行為 | みなし報酬(相場=満額〜5割) | 意図的な『仲介』からの潜脱 |
それぞれの内容については,以下説明します。
2 ローン特約・その他特約による解除→仲介手数料はゼロになる
売買契約に『ローン特約』が付けられることが多いです。
融資の審査に通らないと『売買契約が解除』されるものです。
解除された場合に『仲介手数料』の扱いが問題になります。
判例では原則的に『仲介手数料も発生しない』と判断されています。
またローン特約以外の『解除できる特約』を付けるケースもあります。
この場合の仲介手数料の扱いも問題になります。
これらについては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|ローン特約×仲介業者の責任|仲介手数料ゼロ・減額・損害賠償
3 サービスの報酬|一般論|商法による報酬請求権
実際に,不動産売買契約締結後,売主・買主のいずれかから『手付解除』がなされることがよくあります。
『契約締結は完了したけど,目的が達成できていない』という状態になります。
仲介手数料は,法律上『報酬請求権』の1つです。
商法で一定のルールがあります。
<サービスの報酬|一般論|商法による報酬請求権>
『営業の範囲内』における業務について
→『相当額』の報酬が発生する
※商法512条
このように,法律上は『相当(額)』とだけ規定されています。
仲介手数料について言えば『売買契約が手付解除』となった場合『全額ではないけど相当額』だけが発生する,ということです。
4 仲介手数料についての『相当の報酬額』|算定要素
次に,『相当額』の内容について,判例で基準が作られています。
<仲介手数料についての『相当の報酬額』|算定要素>
ア 取引額イ 媒介の難易ウ 期間エ 労力オ その他諸般の事情 ※最高裁昭和43年8月20日
5 手付解除→仲介手数料の『相当額』|判例
売買契約が手付解除された場合の『相当額』を算定した判例を紹介します。
<手付解除→仲介手数料の『相当額』|判例>
あ 媒介契約
売主(所有者)と仲介業者が媒介業者締結
ア 手付放棄があった場合の扱いについて規定なしイ 報酬支払期日は『売買代金精算日』と規定していた
い 不動産売買契約
仲介業者によって買主が見つかった
不動産売買契約締結
ア 売買代金5億2455万円イ 手付金2000万円ウ 媒介報酬額1658万円
う 買主による手付解除
買主が手付解除を行った
手付金は放棄され,売主が受け取ったままとなった
え 裁判所の判断
ア 報酬の相当額=1000万円イ 理由
・売主が実質的に得た手付金2000万円の半額
・仲介手数料相当額1658万円の約6割
※福岡高裁那覇支部平成15年12月25日
大雑把な『相当額』の相場としては,仲介手数料の『半額』程度と言えます。
6 債務不履行解除・合意解除×仲介手数料|概要
契約の解消の典型例は『解除』です。
解除の中に債務不履行解除・合意解除があります。
これらの解除があった場合の仲介手数料の扱いは別に説明しています。
詳しくはこちら|売買契約解消×仲介手数料|債務不履行解除・合意解除
7 『仲介抜き行為』×仲介手数料→みなし報酬|概要
仲介手数料を逃れるために仲介を『抜く』悪質な手法があります。
当事者が『仲介業者抜き』で売買契約を締結するというものです。
この場合,本来の仲介業務の対価が,形式的には発生しません。
法律上,みなし報酬が発生することになります。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|不動産売買の仲介抜き行為の責任(みなし報酬・損害賠償)
8 仲介業者の義務違反×仲介手数料|判例
以上のとおり,売買契約が締結された後に解消された場合でも,仲介手数料を請求できる場合もあります。
しかし,契約解消の理由が『仲介業者の義務違反』にあることもあります。
このような場合は,当然ですが,仲介手数料の請求は認められません。
<仲介業者の義務違反×仲介手数料|判例>
あ 事案
売買契約が締結された
仲介業者は『緑地保全地域の指定』を説明しなかった
契約当事者で合意解除がなされた
い 裁判所の判断
仲介手数料(『相当額』)は認めない
理由;仲介業者には調査義務・説明義務違反がある
※東京地裁平成16年4月6日