【養育費の支払の終期(未成熟子の意味と持病・障害・大学進学による影響)】
1 養育費の支払の終期
2 養育費の支払の終期(基本)
3 未成熟子(養育費支払の終期)と未成年(年齢)との関係
4 実務における養育費の支払の終期の傾向
5 養育費と扶養料(請求)の関係(概要)
6 離婚協議書における養育費の終期の記載例
1 養育費の支払の終期
離婚した後に,子供の生活費を父と母(元夫婦)が分担します。そこで,子供を引き取った親は他方の親に養育費として請求することになります。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用の請求の全体像(家裁の手続や管轄・金額計算・始期と終期)
ここで,養育費はいつまで支払うのか(支払の終期)ということについては一律に決まったものはありません。
本記事では,養育費の支払の終期について説明します。
2 養育費の支払の終期(基本)
養育費を支払う終期を簡単に言えば,子供が独立して生活できるようになった時です。専門用語では,未成熟子でなくなった時(成熟子に変わった時),といいます。
いつ独立して生活できるようになるのか,つまり未成熟子から成熟子に変わるのか,については,個別的な事情を元に判断されるので,一律の年齢が決っているわけではありません。
<養育費の支払の終期(基本)>
あ 抽象的な基準
養育費分担の終期は,子が未成熟子でなくなった時である
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定』新日本法規出版2018年p15
い 未成熟子の意味
ア 基本的な解釈
未成熟子とは独立して生活する能力のない子をいう
※『注釈民法(23)』p391
イ 詳細な解釈
未成熟子とは,『経済的に自ら独立してみずからの生活費を獲得することを期することが適当でない状態にある間』すなわち『身体的・精神的・社会的になお成熟化の過程にあって労働に従事すればその健全な心身の発育を害されるおそれがあるため労働就労を期待しがたく,そのため第三者による扶養を必要とするような期間』にある子である
※小川政亮稿/中川善之助ほか編『実用法律事典2 親子』1969年p278
う 総合的な判断という特徴
(両親の収入や学歴に加え)子の持病や障害の程度に基づく子自身の稼働能力が考慮され,養育費(婚姻費用)継続の相当性が判断される
※森公任編著『簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集』新日本法規出版2015年p162
3 未成熟子(養育費支払の終期)と未成年(年齢)との関係
ところで,民法では成年という用語があり,(現在では)20歳以上のことをいいます(民法4条)。そして成年に達しない子は親権の対象となります(民法818条1項)。親権の中には監護(権)が含まれます(民法820条)。監護とは要するに子供の面倒をみることであり,当然,経済的な負担も含みます。
そうすると,養育費の支払が続くのは子供が20歳になるまでではないか,という発想が出てきます。
しかし,理論的に,成人と成熟(未成年と未成熟子)は別のものであると考えられています。とにかく現実に独立して生活できない状況であれば年齢に関係なく未成熟子となります。
つまり,成年だけど未成熟子という状況もありますし,逆に未成年だけど成熟子という状況もあるのです。
<未成熟子(養育費支払の終期)と未成年(年齢)との関係>
あ 年齢(成人)との関係
一般に未成熟子の語は未成年者と同義的に使われるけれども,厳密には両者は同じではない
一般的には,一定の年齢になって稼働能力があれば未成熟子とはいえない
未成熟子を脱する時期(養育費の支払の終期)は,必ずしも成年年齢とは一致しない
い 成人であるが未成熟子である具体例
病弱である,大学進学などの理由で就労できない場合は,成年に達していても未成熟子と扱う
※福岡家裁小倉支部昭和47年3月31日(貧血による就労困難)
※名古屋高裁昭和52年1月28日(同趣旨・婚姻費用・原審に差戻)
う 未成年であるが成熟子である具体例
未成年者でもプロ野球選手などは成熟子といえる
※村崎満稿『扶養義務は何時までと定めなければならないか』/『ケース研究76号』p25
※『注釈民法(23)』p391
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定』新日本法規出版2018年p15
※『注解判例民法親族法相続法』p526参照
4 実務における養育費の支払の終期の傾向
以上のように結局,年齢(成人)とは関係なく,子供自身が経済的に独立するまでは未成熟子であって,養育費の支払が続くのです。
子供や親の状況によって具体的な終期は違ってきます。実務の傾向では,現在では,20歳まで,や,大学卒業まで,ということが多いです。
<実務における養育費の支払の終期の傾向>
あ 過去の考え方
調停実務上は,かつては18歳まで,高校卒業まで,成人に達するまでとするのが一般的であった
※熊本家裁昭和39年3月31日(婚姻費用・成人到達まで)
※神戸家裁昭和41年8月10日(子からの扶養料請求・成人到達まで)
い 現在の考え方(概要)
最近では,高学歴時代を迎えて大学卒業まで支払義務を認める判例や調停実務が多くなってきた
具体例=大学進学が通常といえる家庭環境にある子
→結局,18歳,20歳,22歳までのいずれかが選択されることが多い
詳しくはこちら|子供の大学進学の養育費・婚姻費用・扶養料への影響(金額加算・終期の延長)
5 養育費と扶養料(請求)の関係(概要)
以上の説明では主に養育費の請求を前提としていました。しかし,子供自身が父または母に対して扶養料を請求する場合の支払の終期も同じです。
実際には,決まった養育費の支払が完了した後に,子供自身が扶養料を請求するということが可能なのです。逆にいえば,養育費として決めた支払期間が終わっても子供の生活費や学費の負担が終わったとはいえないのです。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|父母間の養育費と子供自身による扶養料請求の関係(子供の大学の学費など)
6 離婚協議書における養育費の終期の記載例
以上のように,養育費の支払の終期については統一的な決まりはありません。逆にいえば,当事者で取り決めることができるということになります。
一般的に,離婚が成立した時に離婚協議書としていろいろな条件などを記録しておくことが望ましいです。
詳しくはこちら|離婚の条件が合意に達した時点で離婚協議書の調印+離婚届提出をすると良い
離婚協議書の条項の1つとして,養育費の支払の終期を決めておけば,後からいつまで支払が続くかということで意見の対立(トラブル)が発生することを予防できるのです。条項のサンプルを紹介しておきます。
<離婚協議書における養育費の終期の記載例>
あ 20歳までとする条項の例
◯◯(子供)が20歳に達する日の属する月まで養育費を支払う
い 大学卒業までとする条項の例
◯◯(子供)が大学を卒業する日が属する月まで養育費を支払う
本記事では,養育費の支払が終わる時期(終期)について説明しました。
実際には,具体的な事情や,主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際に養育費についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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