【共有と法定地上権の成否(全体像と共有者全員による抵当権設定)】
1 共有と法定地上権の成否(全体像と共有者全員による抵当権設定)
競売の際、一定の状況があると法定地上権が発生します。
詳しくはこちら|法定地上権の基本的な成立要件
土地や建物が共有になっている場合には、法定地上権の成立要件を満たすかどうかがはっきりしません。これについては多くのバリエーションについて解釈論があります。
本記事では、共有が関係する場合の法定地上権の成否に関する全体像と、バリエーションのうち、共有者全員が抵当権を設定したというパターンについて説明します。
2 共有と法定地上権の全体像(分類)
共有が関係するケースの法定地上権の解釈(考え方)については、3つのパターンに分けると考えやすいです。3つのパターン(分類)をまとめます。
共有と法定地上権の全体像(分類)
あ 基本
抵当権設定時において
土地・建物のいずれかor両方が共有の場合
→法定地上権の成否が問題となることがある
※民法388条
大きく『い〜え』のように分類できる
い 共有者全員による抵当権設定
共有者全員によって抵当権を設定したケース
=共有物全体に抵当権が及んでいる状態
この中では最も単純な解釈となる(後記※1)
う 持分への抵当権設定
共有持分について抵当権を設定したケース
詳しくはこちら|共有×法定地上権|共有持分への抵当権設定
え 単独所有への抵当権設定
ア 具体例
単独所有の土地に抵当権を設定した
建物が共有である
イ バリエーション
『ア』の逆ということもある
詳しくはこちら|共有×法定地上権|単独所有への抵当権設定
3 共有と法定地上権の全体像(結論のまとめ)
共有が関係する場合の法定地上権の成否の判断(考え方)は複雑ですが、結論だけを整理すると(前述の考え方の3パターンとは違う)3つのパターンに分けられます。少し違和感がありますが、結論を判定する上では抵当権設定の対象は関係ないことになっています。ここでは結論のまとめだけを示しておきます。
なお、土地の所有者(共有者)が建物の所有者(共有者)に包含されている、またはその逆であることを前提としています。
共有と法定地上権の全体像(結論のまとめ)
あ 土地建物の共有者が完全一致
土地の共有者と建物の共有者が完全に同一である
土地、建物の一方または両方の全体に抵当権が設定されている
→法定地上権は成立する
い 土地単独所有
土地が単独所有の場合
→法定地上権は成立する
う 土地共有
ア 原則
土地が共有の場合は、原則として法定地上権は成立しない
イ 例外
例外的に、建物を所有(共有)しない土地共有者が、法定地上権の発生をあらかじめ容認していたとみることができるような特段の事情がある場合には法定地上権が成立する
※鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p185、186、201参照
4 共有者全員による抵当権設定と法定地上権(まとめ)
共有者全員によって抵当権を設定するケースがあります。
共有物全体に抵当権が及びます。
法定地上権の考え方全体をまとめます。
共有者全員による抵当権設定と法定地上権(まとめ)(※1)
あ 前提事情
共有者全員により抵当権が設定された
対象=土地or建物のいずれかのみ
担保競売がなされた
い 法定地上権(原則)
原則的に法定地上権が成立する
※我妻栄『新訂担保物権法 民法講義Ⅲ』有斐閣p360
※畑郁夫『法定地上権 不動産法体系Ⅱ担保 改訂版』p285
う 法定地上権(例外)
法定地上権の成立により不測の損害を受ける共有者or抵当権者or買受人がいる場合
→法定地上権が成立しないこともある(後記※2)
ケース別の解釈論は次に説明します。
5 土地共有・全体への抵当権設定における法定地上権
共有の土地全体へ抵当権を設定したケースです。法定地上権が成立するかどうかは、統一的な見解はありません。大きな流れとしては、平成6年判例が出る前は肯定する方向性でした。土地の共有者の全員が土地を建物の敷地として利用されることを了解(容認)している、という考え方がベースになっています。
この点、平成6年判例は、土地の利用を容認していることと、地上権発生を容認していることは違う(負担の大きさが大幅に異なる)ということを指摘します。そのため、実務では、法定地上権は成立しないという解釈を取る傾向が出てきています。
ただ、平成6年判例は、土地と建物が共有であることがはっきりと記載されており、建物は単独所有であるケースについては判断していません。平成6年判例を建物が単独所有のケースにも流用することはできない、その結果、現時点では両方の考え方がある(確定的判断はできない)という指摘もなされています。
土地共有・全体への抵当権設定における法定地上権
あ 事案
建物 | A単独所有 | 抵当権設定なし |
土地 | A・Bの共有 | 全体に抵当権設定 |
い 法定地上権成立を肯定する見解
抵当権設定の時点で建物への設定が可能であった
→抵当権者は法定地上権成立を覚悟すべきである
→法定地上権が成立する
※柚木馨ほか『新版 注釈民法(9)物権(4)』有斐閣p565
う 法定地上権成立を否定する見解(実務の傾向)
平成6年判例は、容認を制限的に認定する
詳しくはこちら|共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立とその判断基準
Bにとっては、法定地上権が成立しないとされ、Bの土地共有持分が高価に売却される方が有利である
最判平成6年12月20日を踏まえ(射程が及ぶ)、法定地上権の成立を否定する扱いが有力となっている
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p270、271
え 肯定・否定の両方があり得るという見解(概要)
建物の単独所有者の債務を担保するために共有の土地全体に抵当権が設定された場合について
最判平成6年12月20日の射程は及ばない
法定地上権の成否については、肯定、否定いずれの考え方も成り立ちうる
このような事案についての最高裁判所の判断を最判平成6年12月20日から軽軽に予測することは慎まなければならない
※瀬木比呂志稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成6年度』法曹会1997年p638
詳しくはこちら|共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立とその判断基準
6 建物共有・全体への抵当権設定における法定地上権
共有の建物全体に抵当権を設定したケースです。
建物共有・全体への抵当権設定における法定地上権
あ 事案
建物 | A・Bの共有 | 全体に抵当権設定 |
土地 | A単独所有 | 抵当権設定なし |
い 法定地上権
Aは土地に法定地上権の負担が生じることを想定していた
→法定地上権が成立する
※柚木馨ほか『新版注釈民法(9)物権(4)』有斐閣p565
最高裁昭和46年12月21日(土地のみの競売)と同様の状況である
→法定地上権は成立する
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p278
7 両方共有・土地または建物全体への抵当権設定における法定地上権
土地・建物の両方が共有という状態を前提にします。
抵当権を『土地・建物のどちらか一方』に設定したケースをまとめます。
両方共有・土地または建物全体への抵当権設定における法定地上権
あ 事案|建物全体への抵当権設定
建物 | A・Bの共有 | 全体に抵当権設定 |
土地 | A・Bの共有 | 抵当権設定なし |
い 事案|土地全体への抵当権設定
建物 | A・Bの共有 | 抵当権設定なし |
土地 | A・Bの共有 | 全体への抵当権設定 |
う 法定地上権
『あ・い』のいずれについても
→土地・建物ともに同一人の単独所有、と同様の状態である
→法定地上権が成立する(民法388条がそのまま適用される)
※生熊長幸稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)改訂版』有斐閣2015年p378、380
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p283、284
8 両方共有・土地+建物全体への抵当権設定における法定地上権
土地・建物の両方が共有という状態を前提にします。
抵当権を『土地・建物の両方』に設定したケースをまとめます。
両方共有・土地+建物全体への抵当権設定における法定地上権
あ 抵当権設定
建物 | A・Bの共有 | 全体に抵当権設定 |
土地 | A・Bの共有 | 全体に抵当権設定 |
い 競売
土地or建物のいずれか一方についてのみ担保競売がなされた
う 法定地上権
土地or建物全体への抵当権設定と同じ状態である
→法定地上権が成立する
※生熊長幸稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)改訂版』有斐閣2015年p378
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p285〜287
え 実務的扱い
通常は土地・建物両方の競売申立→一括売却がなされる
詳しくはこちら|不動産競売における一括売却の基本(複数不動産をまとめて売却)
→法定地上権の問題は表面化しない
※民事執行法188条、61条
9 不測の損害が生じる法定地上権の否定(概要)
以上で説明したケースは、法定地上権が成立しても、どの共有者にも不測の損害が生じないものでした。
しかし、権利の状態によっては、法定地上権が成立すると一部の者に想定外の損害が生じることがあります。
その場合は法定地上権が成立しないということもあります。
不測の損害が生じる法定地上権の否定(概要)(※2)
あ 権利関係
建物 | A・他の8人 | 抵当権設定なし |
土地 | A・B・Cの共有 | 全体に抵当権を設定した |
抵当権が実行された
い 抵当権者の立場
抵当権設定の時点でA・B・Cだけでは『建物への設定』は不可能であった
→抵当権者は法定地上権成立を覚悟すべきとはいえない
う 共有者・買受人の立場
法定地上権が成立したと仮定すると
土地の共有者B・C、買受人に不測の損害が生じる
え 法定地上権の成否
→原則として法定地上権は成立しない
ただし一定の例外もある
※最高裁平成6年12月20日
詳しくはこちら|共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立とその判断基準
本記事では、共有と法定地上権の全体像と、土地または建物の全体に抵当権が設定され、売却されたケースにおいて法定地上権が成立するかどうか、を説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な解決策が違ってくることがあります。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。