【共有と法定地上権の成否(共有持分への抵当権設定)】
1 共有持分への抵当権設定×法定地上権|まとめ
共有持分に抵当権を設定することは、通常行われません。しかし、法律上可能です。
この場合に法定地上権が成立するかどうかの判断はちょっと難しいです。
最初に全体をまとめます。
<共有持分への抵当権設定×法定地上権|まとめ>
あ 前提事情|所有状態
土地or建物が共有である
い 前提事情|抵当権設定
土地or建物の『共有持分権』に抵当権を設定した
う 法定地上権
議論が多い
傾向=抵当権が保護される方向性
保護されないこともある
ケース別の解釈論は次に説明します。
2 土地共有|持分に抵当権設定×法定地上権
土地が共有となっている状態を前提にします。
土地の共有持分に抵当権を設定したケースです。
<土地共有|持分に抵当権設定×法定地上権>
あ 事案
建物 | A単独所有 | 抵当権設定なし |
土地 | A・Bの共有 | A持分に抵当権設定 |
い 法定地上権の成否の判例(概要)(※1)
法定地上権の成立を認めると、Bの土地持分権を不当に害することになるので、法定地上権は成立しない
(抵当権にはプラス効果である)
※最高裁昭和29年12月23日
※福岡高裁平成19年3月27日;形式的競売について・同趣旨
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p268
詳しくはこちら|共有者の『容認』による例外的な法定地上権の成立とその判断基準
う 反対説(※2)
法定地上権成立を肯定する学説もある
※我妻栄『新訂担保物権法 民法講義Ⅲ』有斐閣p360〜
※川井健『担保物権法』青林書院p92
3 建物共有|持分に抵当権設定×法定地上権
建物が共有となっている状態を前提にします。
建物の共有持分に抵当権を設定したケースです。
<建物共有|持分に抵当権設定×法定地上権>
あ 事案
建物 | A・Bの共有 | A持分に抵当権設定 |
土地 | A単独所有 | 抵当権設定なし |
い 法定地上権
最高裁昭和46年12月21日(建物AB共有、土地A単独所有、土地所有権に抵当権設定においてAは自己とBのために土地の利用を認めているから法定地上権が成立する)のと同じ状況である
→法定地上権は成立する
(抵当権にはプラス効果である)
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p277
※我妻栄『新訂担保物権法 民法講義Ⅲ』有斐閣p361〜
※我妻栄『判例コンメンタールⅢ担保物権法』日本評論社p442
※松坂佐一『民法堤要物権法 第4版』有斐閣 p344
※近江幸治『担保物権法 新版』弘文堂p190
う 実務的対応策
自己借地権の設定が可能である(借地借家法15条)
4 両方共有|土地の持分に抵当権設定×法定地上権
土地・建物の両方が共有となっている状態を前提にします。
土地の共有持分に抵当権を設定したケースです。
<両方共有|土地の持分に抵当権設定×法定地上権>
あ 事案
建物 | A・B共有 | 抵当権設定なし |
土地 | A・B共有 | A持分に抵当権設定 |
い 法定地上権|判例理論
法定地上権が成立した場合にはBの共有持分を不当に害することとなる
→法定地上権は成立しないと解すべきであろう
(抵当権にはプラス効果である)
※最高裁平成6年4月7日参照
※最高裁昭和29年12月23日参照(前記※1)
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(上)』法曹会2003年p282
う 法定地上権|下級審裁判例
民事執行法81条による法定地上権について
→裁判例は法定地上権成立を否定する
※東京高裁平成3年9月19日
え 反対説
反対する学説もある(前記※2)
5 両方共有|建物の持分に抵当権設定×法定地上権
土地・建物の両方が共有となっている状態を前提にします。
建物の共有持分に抵当権を設定したケースです。
<両方共有|建物の持分に抵当権設定×法定地上権>
本記事では、土地または建物の共有持分に抵当権が設定されたケースにおける担保権実行によって法定地上権が成立するかどうか、を説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な解決策が違ってくることがあります。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。