【共有物と共同訴訟形態(損害賠償・筆界確定・地役権設定登記請求)】
1 共有物と共同訴訟形態
共有が関係する場合、法律関係が複雑になりがちです。そのような法律問題の1つが共同訴訟形態です。つまり、訴訟を申し立てる場合、当事者(原告や被告)を共有者全員にしないとならないのか、一部を除外してもよいのか、という問題です。
本記事では、共有が関係するケースについての共同訴訟形態を説明します。
2 共有物侵害による第三者への損害金請求→可分
共有物が侵害された場合、妨害排除請求ができます。
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求)
一方、金銭の賠償を請求することもできます。
損害金請求についての法的性質をまとめます。
共有物侵害による第三者への損害金請求→可分
あ 不法占有
共有の不動産を第三者Aが権原なく占有している
い 賠償請求の可分性
各共有者はAに対して不法行為による損害賠償を請求できる
請求額=各共有者の共有持分の割合に応じて算出する
この割合を超えて請求することはできない
※最高裁昭和51年9月7日
※最高裁昭和41年3月3日
3 共有地の境界確定訴訟の共同訴訟形態(要点)
土地の境界(筆界)が不明確である場合の解決方法のひとつが、境界確定訴訟(筆界確定訴訟)です。境界確定訴訟の当事者は、不明となった境界に接するふたつの土地の所有者です。
詳しくはこちら|筆界確定訴訟(境界確定訴訟)の当事者(当事者適格)
この点、その土地の一方が共有である場合は、誰が当事者になるか、という問題が出てきます。判例は、共有者の全員を当事者とすることが必要とする見解を採用しました。
その結果、共有者が原告と被告に分かれる、ということもあります。
共有地の境界確定訴訟の共同訴訟形態(要点)
あ 前提事情
境界確定訴訟について
隣接地のいずれかが共有である
い 共同訴訟形態
固有必要的共同訴訟である
→共有者全員が当事者になる必要がある
う 共有者間対立がある場合の提訴の方法
原告側に同調しない共有者が存在する場合
→被告(2次被告)に加えることができる
これにより、隣接する両方の土地の所有者(共有者)の全員が当事者に含まれる状態にできる
三面訴訟となる
※最高裁平成11年11月9日
※岡口基一著『要件事実マニュアル 第6版 第2巻』ぎょうせい2020年p662
え 提訴の方法を踏襲した判例(参考)
入会権(総有権)確認訴訟について、原告側に同調しない構成員(共有者)を被告に加えることを認めた
※最判平成20年7月17日
詳しくはこちら|入会権・入会財産に関する訴訟の共同訴訟形態(原告適格)
4 境界確定訴訟の共同訴訟形態(平成11年最判)
共有地の境界確定訴訟の当事者について、要点は前記のとおりですが、これを示した平成11年判例の内容を引用(抜粋)しておきます。判例ではいろいろなことを考慮していることが分かります。
境界確定訴訟の共同訴訟形態(平成11年最判)
あ 共有者の一部を被告とする方法
(境界確定訴訟について)
しかし、共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいるときには、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と共に右の訴えを提起することに同調しない者を被告にして訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
い 共有者全員による共同の必要性(否定)
・・・このような右の訴えの特質に照らせば、共有者全員が必ず共同歩調をとることを要するとまで解する必要はなく、共有者の全員が原告又は被告いずれかの立場で当事者として訴訟に関与していれば足りると解すべきであり、このように解しても訴訟手続に支障を来すこともない・・・
う 判決主文の記載方法
なお、原審は、主文三項の1において被上告人Aと上告人との間で、同項の2において被上告人Aと同Bとの間で、それぞれ本件土地と上告人所有地との境界を前記のとおり確定すると表示したが、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合においても、境界は、右の訴えに関与した当事者全員の間で合一に確定されるものであるから、本件においては、本件土地と上告人所有地との境界を確定する旨を一つの主文で表示すれば足りるものであったというべきである。
※最判平成11年11月9日
5 地役権設定登記請求訴訟の共同訴訟形態(共有の要役地)
要役地が共有となっている場合は、地役権を共有者全員が有している(準共有)ということになります。この場合の地役権設定登記請求訴訟は固有必要的共同訴訟ではなく、通常共同訴訟です。つまり各共有者が単独で提訴することができます。
地役権設定登記請求訴訟の共同訴訟形態(共有の要役地)
あ 前提事情
要役地が共有となっている
承役地所有者に対して地役権設定登記を請求する
い 共同訴訟形態
地役権設定登記請求は保存行為に該当する
→各共有者が単独で請求できる
固有必要的共同訴訟ではない
※最高裁平成7年7月18日
6 共有と賃料増額請求の共同訴訟形態(概要)
賃貸借の賃貸人や賃借人が複数人存在するケースがあります。具体的には、賃貸借の対象の土地や建物が共有であるケースでは賃貸人が複数となり、一方、賃借人が複数、言い換えると賃借権の準共有というケースもあります。
この場合はまず、賃料増減額請求の通知は、複数の相手方の全員にする必要があると考えられています。
詳しくはこちら|共同賃借人(賃借権の準共有)の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者
次に、協議で解決しない(合意に達しない)場合には調停を先に行い、最終的には賃料(地代)確認を求める訴訟を提起するという流れになります。最終段階の訴訟については、新たな賃料に賛成している者は訴訟の当事者から除外してよい(類似必要的共同訴訟または通常共同訴訟)という判例がありますが、全員が当事者となる必要がある(固有必要的共同訴訟)という見解(裁判例)もあります。
詳しくはこちら|賃料増減額請求に関する訴訟の共同訴訟形態(賃貸人または賃借人が複数ケース)
7 共有と借地非訟の共同訴訟形態(概要)
借地に特有の制度として、借地非訟手続があります。
内容は借地条件変更・増改築・再築や譲渡許可などの裁判です。
この借地非訟手続も、地主や借地人が複数の場合に、全員が当事者となる必要があります。
共有と借地非訟の当事者(概要)
本記事では、共有が関係するケースについての共同訴訟形態を説明しました。
実際には、個別的事情により、法的扱いや最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有が関係する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。