【標準算定方式による養育費・婚姻費用の算定(計算式・生活費指数)】
1 養育費・婚姻費用を計算によって求める方法
養育費・婚姻費用分担金の金額を原理を元にして計算する方法は複雑です。
詳しくはこちら|総収入の認定と基礎収入の意味や計算方法(公租公課・職業費・特別経費の控除)
そこで実務では、簡易算定表が使われることが多いです。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金の金額算定の基本(簡易算定表と具体例)
この簡易算定表は、簡略化した計算方法(標準(的)算定方式)による計算結果を早見表にしたものです。
本記事では標準算定方式を使って、計算によって養育費・婚姻費用の金額を出す具体的な方法を説明します。
2 養育費を算定する計算式
一般的な養育費の計算方法をまとめます。
養育費を算定する計算式
3 婚姻費用分担金を算定する計算式
一般的な婚姻費用分担金の計算方法をまとめます。
婚姻費用分担金を算定する計算式
あ 基礎収入
養育費の計算と同じ
い 権利者の必要額
権利者の必要額Z
=(X+Y)× (権利者側の指数合計)/(全体の指数合計)
う 婚姻費用分担額
義務者が支払う婚姻費用分担額
=Z − Y
え 住居費の反映(概要)
義務者が権利者の住居費を負担している場合
→この負担額をさらに差し引くこともあり得る
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用の算定における住宅ローンの返済の扱い(基本)
※東京・大阪養育費等研究会稿『簡易迅速な養育費等の算定を目指して〜養育費・婚姻費用の算定を目指して〜』/『判例タイムズ1111号』2003年4月1日p293
以上の計算で使う係数などは、以下整理します。
4 基礎収入割合(概要)
基礎収入を計算するには、前述のように、生活費から最低限の出費(公租公課・職業費・特別経費など)を差し引いて求めます。つまり、収入のうち、生活費として使える部分が基礎収入ということになるのです。
基礎収入は通常、収入に応じた一定割合を使って計算します。この割合のことを基礎収入割合といいます。基礎収入割合の最新版は令和元年のものです。事案によっては過去の基礎収入割合を使うこともあります。基礎収入割合の内容(表)は、過去のものも含めて別の記事で紹介しています(※1)。
詳しくはこちら|婚姻費用・養育費の算定で用いる基礎収入割合の表
5 生活費指数
基礎収入の算定の後の分担のプロセスで使う生活費指数は、統計上のデータを元に2種類に分けて整理されています。
生活費指数(※2)
あ 生活費指数の表(改定前後)
立場 | 年齢など | 指数(改定前) | 指数(改定後) |
子 | 0〜14歳 | 55 | 62 |
子 | 15〜19歳 | 90 | 85 |
親 | それぞれ1人につき | 100 | 100 |
※東京・大阪養育費等研究会稿『簡易迅速な養育費等の算定を目指して〜養育費・婚姻費用の算定を目指して〜』/『判例タイムズ1111号』2003年4月1日p290
※司法研修所編『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』法曹会2019年p46
い 複数の子の生活費指数
子が複数の場合
→それぞれの子について指数を出す
6 養育費を計算する具体例(改定後)
実際に計算をする状況をサンプルで説明します。養育費を実際に計算してみます。
養育費を計算する具体例(改定後)
あ 前提事情
15歳・10歳の子どもがいる
2人とも母=権利者が引き取った
権利者は給与収入300万円である
父=義務者は給与収入900万円である
い 基礎収入
ア 義務者
900万円×40%
=360万円
イ 権利者
300万円×42%
=126万円
う 子の生活費
360万円×(62+85)/(100+62+85)
=214.3万円
え 養育費分担金
214.3万円×360万円/(360万円+126万円)
=158.7万円
これを12で割った13.2万円が月額となる
7 簡易算定表の利用(概要)
以上の標準算定方式は、原理的な計算方法(実額方式)を簡略化したものです。それでも実際に計算すると手間がかかります。
そこで、実務では、標準算定方式の計算結果を早見表としてまとめたものがよく使われます。簡易算定表と呼ばれるものです。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金の金額算定の基本(簡易算定表と具体例)
8 標準算定方式(簡易算定表)の情報ソース
以上で説明した標準算定方式による養育費・婚姻費用の計算方法は、裁判官を中心とするグループが提唱(公表)したものです。作成したグループや公表した掲載誌をまとめておきます。
標準算定方式(簡易算定表)の情報ソース
あ 平成15年公表
ア 作成者
東京・大阪養育費等研究会
イ 研究員(構成員)
判事6名
東京高裁、大阪高裁、東京地裁、大阪地裁、東京家裁、大阪家裁
ウ オブザーバー
東京家裁次席家裁調査官
大阪家裁次席家裁調査官
エ タイトル
『簡易迅速な養育費等の算定を目指して〜養育費・婚姻費用の算定を目指して〜』
オ 掲載誌
『判例タイムズ1111号』2003年4月1日
い 令和元年公表
ア 編集者
司法研修所(平成30年度司法研究)
イ 研究員
東京家庭裁判所判事 水野有子
同 綿引朋子
同 村松多香子
徳島地方家庭裁判所判事(委嘱時 大阪家庭裁判所判事) 園部伸之
エ タイトル
『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』
オ 出版者・時期
一般財団法人法曹会・2019年
9 標準算定方式の変遷(参考)
標準算定方式は平成15年に公表され、実務に定着しましたが、平成27年に日弁連が批判し、改良した算定方式を提唱しました。しかし、日弁連新算定方式は実務でそのまま使われる状況にはなっていませんでした。
詳しくはこちら|日弁連が提唱する養育費・婚姻費用の新算定方式と実務的な評価(運用状況)
そして、令和元年に司法研修所が編集した改定標準算定方式(算定表)が公表され、実務に定着しつつあります。
標準算定方式の考え方、枠組みに変化はありませんが、その中で使われる数値(係数)については、時代とともに変化しているのです。
10 養育費・婚姻費用の計算機(参考)
実際に、標準算定方式を使って養育費や婚姻費用の計算をするには多少手間がかかります。そこで、当サイトでは計算機を提供しています。この計算機は、算定表の上限を超える年収や算定表かカバーする子供の人数を超えるケースにも対応しています。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用の計算機(高額所得者・日弁連提言対応)
本記事では、養育費・婚姻費用を計算によって算定する具体的な方法(算定式)を説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証によって結論が違ってくることもあります。
実際に養育費や婚姻費用の金額の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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