【共有物の変更行為と処分行為の内容】

1 共有物の変更行為と処分行為の内容

共有物に関する行為は、変更(処分)・(狭義の)管理・保存の3種類に分類できます。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
本記事では、これらの中の(共有物の)変更・処分行為について説明します。

2 共有物の変更行為の規定と法的扱いの基本

最初に、共有物の変更行為について規定する条文をみておきます。変更行為をする場合には、他の共有者の同意が必要となっています。つまり共有者全員が同意する必要があるということです。
「変更」という日本語はとても広い意味を持ち、いろいろな解釈がありますが、物理的な変化(変更)も、法律的な処分も共有者全員の同意が必要というのが結論です。

共有物の変更行為の規定と法的扱いの基本

あ 条文

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
※民法251条1項

い 意思決定の要件

共有物の「変更」行為や処分行為は共有者全員の同意が必要である

う 変更行為の基本的解釈(要点)

変更行為とは、物理的な変化を生じる行為(後記※1)のことである
法律的処分行為(後記※2)も、共有者全員の同意が必要であるということは同じである

3 変更行為の解釈

(1)基本的解釈(条文の読み取り・学説)

実際に、民法251条の「変更」にあたるかどうかが問題となる状況はよくあります。この「変更」とは、共有物の性質を変えることである、というのが一般的な解釈です。
この点、令和3年改正で民法251条1項カッコ書に登場した「形状又は効用の(著しい)変更」はヒントになります。要するに、「形状・効用のいずれか一方が(著しく)変更すること」が、民法251条の「変更」である、と読み取れると思います。

基本的解釈(条文の読み取り・学説)

あ 条文からの読み取り

(令和3年改正で作られた)民法251条1項カッコ書から、変更行為とは、形状又は効用の(著しい)変更を意味すると読み取れる

い 「変更」の意味(新注釈民法)

共有物の管理の範囲を超えてその性質を変えること、・・・が変更に当たると考えられる。
※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p569、570

う 民法251条に該当する行為(判例民法)

「変更」しか規定はされていないが、252条が「管理」について規定しており、管理行為に含まれない処分行為全般本条(注・民法251条)が当てはまるものと考えられている。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p343

(2)民法103条の「性質を変える」との関係

前述のように、共有物の「変更」とは、「形状又は効用を(著しく)変える」ことであり、「性質を変える」ことであるといえます。
実はこのような概念は民法103条の条文やその解釈を流用しているともいえます。民法103条は権限の定めのない代理人について、法律上代理権の範囲を定めるというものですが、中身としては、(狭義の)管理行為の範囲を定めている、といえると思います。
そして、民法103条が定める代理権の範囲(管理行為の範囲)ではさらに、権利者に不利益が生じる危険が高いことも含みます。共有物の変更”行為の解釈でもこれは共通します。
詳しくはこちら|民法103条2号の利用行為・改良行為の意味

4 共有物の「変更」と「処分」の関係(概要)

なお、民法251条の条文の文言は、共有物に変更を加えるというものです。解釈としては、物理的な変更(変化)だけを意味し、法律的な処分も含まないという見解と、法律的な処分も含むという見解があります。この点、法律的な処分は民法251条に含まないという見解を前提としても、当然に(別の理由で)共有者全員の同意が必要になる、という結論に違いはありません。
詳しくはこちら|民法251条の『変更』の意味(『処分』との関係)
この考え方(「変更」と「処分」の関係)は講学上の理論であり、現実のプラクティスには影響はありません。本サイトでは基本的に特に区別しないでこれらの用語を使用します。

5 物理的変化を伴う行為

前記の物理的変化を伴う行為の内容・具体例をまとめます。
不動産に関しては、いろいろな工事は、小規模なものでない限り、含まれます。土地であれば造成工事やその土地上への建物の建築工事、建物については増築や大規模修繕などです。

物理的変化を伴う行為(※1)

あ 物理的な「処分」

例=廃棄・消費

い 物理的な損傷
う 土地の造成

ア 田畑(農地)を宅地に造成する工事 ※最判平成10年3月24日
イ 土地への土盛り工事 ※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p570(共有山野を開拓して田畝とする行為)

え 土地上への建物建築

共有の土地上に建物を建築することは、(土地の)物理的な変更と(土地の)(変更にあたらない)利用行為の2つが混ざっている(後記※6

お 建物の増築・太陽光発電システム設置

建物の増築工事は「軽微変更」にとどまらない
建物に太陽光発電システムを設置することは規模によって変更または軽微変更(管理)となる
詳しくはこちら|共有物の「軽微変更」の意味や具体例(令和3年改正による新設)

か 建物の大規模な改修・建替え

具体例=(共有の)建物(ビル)に自動ドア・カウンターを設置する行為
※東京地裁平成20年10月24日
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・原状回復請求(特殊事情のあるケース)

き 山林の樹木伐採

参考となる具体例=共有の立木の伐採
※大判大正8年9月27日
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・原状回復請求(特殊事情のあるケース)

6 共有の土地上への建物建築→変更+管理

前記のように、(共有の)土地上への建物の建築は土地の形状を変更するので変更行為にあたります。一方で、土地を建物の敷地として使うこと自体は通常の用法(変更行為にあたらない利用行為)なので管理行為です。2つが混ざっている(分解できる)ということを理解しないと混乱します。

共有の土地上への建物建築→変更+管理(※6)

・・・次のものもあるが、この定めは、土地の形状を変更する合意(この合意は、共有者全員の同意が必要となる)とその後の共有物の利用方法の定めに分けて考えることができる。
(例3)A、B及びCが各3分の1の持分で土地(更地)を共有している場合において、Aが土地上に自己が所有する建物を建築して、当該土地を利用し、Aは、B及びCに対して利用料を支払うとの定め。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第2回会議(平成31年4月23日)『部会資料3』p3

7 令和3年改正による「軽微変更」の新設(概要)

前述のように、共有物に物理的な変化が生じる行為は、変更行為として共有者全員の同意が必要になるのですが、これに関して、令和3年改正で新たなルールが作られました。
変更ではあっても、軽微である場合には、管理行為と同じ扱いになる、つまり、持分価格の過半数の賛成で決定できることになったのです。
詳しくはこちら|共有物の「軽微変更」の意味や具体例(令和3年改正による新設)
ですから、前記の令和3年改正前の判断(裁判例)が、改正後には別の判断となることもあり得ます。

8 法律的な処分行為

前述の法律的な処分行為の具体的内容・典型例をまとめます。
たとえば、所有権を失う売買(売却)や、所有権を失うことにつながる担保権設定処分行為の典型です。それ以外の法律行為でも、影響(不利益・制約)が大きいものは処分行為に該当することになります。逆にいえば、影響の程度によって違ってくるので、処分行為なのか管理行為なのかをはっきり判定できない状況もあります。

法律的な処分行為(※2)

あ 所有権を失う契約の締結

例=売却(売買契約締結)・贈与契約(後記※3

い 売買契約の解消

例=解除・詐欺による取消
共同買主の一部による解除を無効とした判例がある
詳しくはこちら|解除の不可分性に反する解除の効力(一部当事者の通知を欠く解除)

う 用益物権の設定(概要)

地上権・地役権・永小作権の設定は原則として処分(行為)である
ただし、令和3年の民法改正で管理分類となるものもある(後述)

え 一定の賃貸借契約締結(概要)

「ア・イ」のいずれかに該当する賃貸借契約を締結すること
ア 短期賃貸借の期間を超えるイ 借地借家法の適用がある 詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類

お 借地上の建物の建替の承諾

共有の土地が借地となっている場合に、土地共有者が当該借地上の建物の建替を承諾すること(処分(変更)行為であると思われる)
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)

か サブリースの賃料変更

一般的な賃料変更の合意をすることは管理である
しかしサブリースにおけるマスターリース契約の賃料変更の場合
→共有物の変更として扱われる
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者

き 介入権の行使(概要)

借地人による借地権譲渡許可申立に対して優先譲受申立(介入権行使)をすること
詳しくはこちら|借地権優先譲受申出(介入権)の要件や申立人

く 使用貸借契約締結(処分または管理)

使用貸借契約の締結は、処分・管理のいずれかに分類される
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類

け 担保物権の設定

抵当権・質権の設定は処分行為である(後述)

こ 根抵当権の元本確定請求

共有不動産に設定された根抵当権の元本確定請求をすること(後記※8

さ 追認権の行使

準共有する追認権の行使
※最判平成5年1月21日
詳しくはこちら|準共有の追認権行使の法的扱い(不可分帰属・準共有の処分)

し 予約完結権の行使

準共有する予約完結権の行使
※大判大正12年7月27日
※柚木馨・生熊長幸稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(14)』有斐閣2010年p160

9 共有物全体を対象とする契約の意味と注意点

以上の「変更・処分」の用語の意味を前提として、共有物の「変更・処分」の法的扱いについて、以下説明します。
まず、典型的な「処分」は売買(売却)です。
なお、ここでは、共有物(全体)を対象とした売却(処分)を前提として説明します。逆に、共有持分権だけを売却するのであれば、当該共有者が単独で売却できるのは当然です。
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)
この点、売買その他の債権契約については、もともと権利を持たない者であっても契約を締結できます。契約の当事者以外には契約に基づく効果が帰属しないことになるだけです。共有者の1人が他の共有者に無断で共有物全体を売却した場合には、他の共有者の共有持分については他人物売買に該当することになります((後記※7)参照)。
以下説明するのは、このような他人物売買(処分)ではなく、共有者全員に効果が帰属するために必要な同意の範囲です。やや複雑なところなので注意が必要です。

10 共有物の売却→処分

共有物を売却することは代表的な法律的処分なので、共有者全員の同意が必要です。
これは、変更と同じ扱いをする、と説明しなくても、すべての共有者の有する共有持分権の処分であるため、民法251条によって共有者全員の同意が必要となるわけではなく、当然のことであるともいえます。

共有物の売却→処分(※3)

あ 分類

共有物(全体)を売却すること
→共有物の処分に該当する
→共有者全員の同意が必要である
※最高裁昭和43年4月4日

い 効果(概要)

債権契約としては有効である
売却した共有者の共有持分は移転する

11 共有不動産への物権(用益物権・担保物権)設定→原則処分・例外管理(概要)

民法の基礎理論として、物権を設定する行為は、処分行為にあたる、というものがあります。
そこで、共有不動産に用益物権または担保物権を設定する行為は処分に分類されます。ただし、用益物権については、令和3年の民法改正で、この原則論に対する例外が作られました。
詳しくはこちら|共有不動産への用益物権設定の変更・管理分類(賃貸借以外・改正民法252条4項)
担保物権設定については原則論は修正されていません。
詳しくはこちら|共有不動産への抵当権(担保物権)設定の分類と共有者単独での抵当権設定の効果

12 根抵当権の元本確定請求→処分

共有不動産に設定された根抵当権について、設定者として元本確定請求をすることは処分(変更行為)に分類されます。

根抵当権の元本確定請求→処分(※8)

あ 分類(変更行為)

数人で共有している不動産の全部を目的として根抵当権が設定されている場合
根抵当権設定者からの元本確定請求(民法398条の19第1項)について
処分(変更行為)にあたる
→共有者全員が共同してしなければならない
※貞家克己ほか著『新根抵当法』金融財政事情研究会1973年p263
※商事法務研究会編『新根抵当法の解説』商事法務研究会1971年p241
※『登記研究443号』p94

い 元本確定登記の申請人

元本が確定した場合
根抵当権の元本確定の登記申請は、共有者全員が根抵当権者と共同でなければならない
※『登記研究549号』p183
※坪内秀一著『根抵当権実務必携Q&A』日本加除出版2020年p125参照

13 関連テーマ

(1)民法251条の適用場面の厳密な範囲(参考)

実務的には考える必要はありませんが、民法251条を細かく見ると、その内容は、共有者の1人(A)が変更行為を実行し、これについて他の共有者の全員(BC)が同意する、というものです。最初からABCが3人として(共同して)変更行為を実行するという状況は、民法251条には当てはまりません。当てはまらなくても、権利者の全員なので当然実行することは可能です。

民法251条の適用場面の厳密な範囲(参考)

あ 共有者BCの同意+共有者Aの実行(適用範囲)

同意をする「他の共有者」とは、共有物に変更を加える「各共有者」以外の者である。
共有者が3名以上ある場合、「他の共有者」とは、共有物に変更を加える共有者以外の共有者全員を指す。

い 共有者ABCによる実行(適用範囲外)

本条(民法251条)は、共有者が全員で共有物に変更を加える―本条がなくても可能―場合について直接に規律するものではない。
※小粥太郎稿/小粥太郎編『新注釈民法(5)』有斐閣2020年p569

(2)共有者単独による処分行為の法的効果(概要)

処分行為は共有者単独では行えません(前記)。
実際には共有者単独で行ってしまったケースもあります。
その場合の法的効果の概要をまとめます。

共有者単独による処分行為の法的効果(概要)(※7)

あ 前提事情

共有者Aが単独で共有物の処分(売却、用益物権設定、担保物権設定)を行った
他の共有者の同意がない
処分の権限がない状態である

い 債権的効果

契約自体は有効とされる傾向がある

う 物権的効果

ア 譲渡、担保権設定 売却(譲渡)、担保権設定については、Aの共有持分の範囲内で効果が生じることがある
イ 用益物権設定 用益物権設定については、Aの共有持分についても効果は生じない

え 金銭の清算

売却代金の受領などがあった場合
→他の共有者への帰属が認められる傾向がある
詳しくはこちら|共有者単独での譲渡(売却)の効果(効果の帰属・契約の効力)
詳しくはこちら|共有者の権限を超えた用益物権設定・賃貸借・使用貸借契約の効果
詳しくはこちら|共有不動産への抵当権(担保物権)設定の分類と共有者単独での抵当権設定の効果

(3)占有共有者を変更する意思決定→管理(参考)

共有者間の意思決定がないけれど、すでに共有者の1人が共有物を使用(占有)している場合に、これを否定する意思決定をすることは、以前は変更に分類される傾向がありましたが、令和3年改正により、管理に分類する規定ができました。
これとは別に、共有者間で使用方法として決定した後に、その内容(使用方法)を変更することも変更に分類されるという解釈がありましたが、令和3年改正により、管理分類に変わりました。ただし、「特別の影響」がある場合には制限される、という扱いです。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容

(4)共有持分を取得した者による抵当権消滅請求(参考)

抵当権が設定された不動産の共有持分を取得した者(共有者)が、当該共有持分を対象とした抵当権消滅請求ができるかどうか、という問題があります。結論としては、滌除に関する判例の解釈を当てはめて否定する傾向があります。
詳しくはこちら|共有持分を取得した者による滌除の可否(平成9年判例=否定説)
これは共有物全体の処分(変更)とは違いますが、似ていて間違えやすいので参考として指摘しておきました。

(5)準共有抵当権の実行→(原則)処分(参考)

以上はすべて所有権(不動産)が共有となっていることを前提としていました。この点、抵当権が(準)共有となっている場合に、この抵当権を実行する(行使する)ことは、(抵当権の)処分だという発想もあります。しかし、抵当権者(準共有者)の1人が実行できる、という考えや実務の運用もあります。
また、一部代位弁済によって抵当権の準共有となった場合は例外的な扱いとなります。
詳しくはこちら|準共有の抵当権の法的扱い(共有物分割・実行・配当)

本記事では、共有物の変更行為の内容について説明しました。
実際には、具体的・個別的な事情によって違う法的な分類となることもあります。
実際の共有物の扱いの問題に直面されている方は、本記事の内容だけで判断せず、弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【特定遺贈と相続人による譲渡が抵触する具体例と優劣の判定】
【共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容】

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