【共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類】
1 共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類
収益不動産が共有である場合には、共有者の全員が(共同)賃貸人になるのが通常です。この場合、各種意思決定の分類が問題になります。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)
本記事では賃貸借契約に関する意思決定のうち、契約の終了に関する事項について説明します。
2 賃貸借契約の解除→管理分類
賃貸借契約を賃貸人から終了させる典型は解除です。もちろん解除できる状態になっている前提で、賃貸人として解除するという意思決定ができるのです。この意思決定は共有物の管理行為に該当します。
賃貸借契約の解除→管理分類
あ 前提事情(共有物の賃貸借契約)
共有の不動産について賃貸がなされている
賃貸人=共有者(全員)
賃借人=第三者
い 賃貸借契約解除
解除できる状況にある
賃貸借契約を賃貸人から解除するという意思決定について
→管理行為に分類される
=過半数の共有持分を有する共有者の同意が必要である
う 解除の不可分性(否定)
解除の不可分性は適用されない
※民法544条1項
→共有者全員の同意は必要ではない
※最判昭和39年2月25日
詳しくはこちら|共有物の「貸借契約」の解除を管理行為とした判例(昭和39年最判)
※最高裁昭和47年2月18日
※東京高判平成2年12月20日
なお、共同相続人(共有者)の間の使用貸借の解除について、同様に管理行為であると判断した判例があります。その解説の中で、賃貸借や寄託契約の解除も管理行為であるという見解が示されています。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
3 賃貸借契約解除の意思決定と意思表示の区別(概要)
賃貸人として賃貸借契約を解除すると意思決定した後に、賃借人に対して意思表示(解除通知)が行われます。
これについて、昭和39年最判は意思決定は持分の過半数で決定できるという解釈を示しましたが、意思表示(解除通知)も賛成した共有者の名だけで行えばよい、と読めます。しかしこの見解は現在ではほぼ否定されています。解除は共有者全員の名で行うことが必要、という見解が有力です。
賃貸借契約解除の意思決定と意思表示の区別(概要)
あ 意思決定と意思表示の区別
共有物の賃貸借契約の解除について
→意思決定と決定後の実行=解除通知は別である
い 行う者の違い(概要)
解除の意思決定→共有者全員である必要はない(前記)
解除通知の実行→授権した者が共有者全員の名前で行う
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
4 契約終了に基づく共有不動産の明渡請求(参考)
以上の説明は、賃貸借契約を解除する段階についてのものでした。解除した後は、賃貸借契約の効果の1つとして、明け渡す(退去する)義務が生じます。賃貸人(共有者)の立場としては、明渡請求権をもっていることになります。この明渡請求権は、不可分給付を求めるものであるため、民法428条(不可分債権)として共有者の1人だけで行使することができます。
結局、変更・管理・保存の分類とは関係ない理由(理論)によって、共有者が単独で明渡請求をすることができる、ということになります。
契約終了に基づく共有不動産の明渡請求(参考)
あ 昭和42年最判
被上告人らの上告人らに対する本件家屋の明渡請求は使用貸借契約の終了を原因とするものであることは原判文上明らかであるから、本件家屋の明渡を求める権利は債権的請求権であるが、性質上の不可分給付と見るべきものであるから、各明渡請求権者は、総明渡請求権者のため本件家屋全部の明渡を請求することができると解すべきである。
※最判昭和42年8月25日
い 賃貸借契約との関係→共通
昭和42年最判は使用貸借契約の終了の事案である
この理論は賃貸借契約終了でも同じである(後記※1)
う 共有に関する規定との関係→なし
共有に関する規定や解釈ではない
共有物の変更・管理・保存の分類とは関係がない
なお、このような事案では、所有権に基づく明渡請求をすることもできます。この請求権の行使である場合には、共有持分権の効果として共有者が単独で明渡請求をすることができます。結論は同じですが、使う理論は異なります。
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求)
5 不可分債権の基本的な法的性質(参考)
前記の判例の解釈は不可分債権の扱いに関するものでした。不可分債権の法的性質は所有権や共有持分権のような物権とは大きく異なります。不可分債権の法的性質の基本的部分をまとめておきます。
不可分債権の基本的な法的性質(参考)(※1)
不可分給付について数人の債権者または債務者がある場合において
同一の不可分給付を目的とする債権または債務が主体の数だけ多数生ずる多数当事者の債権関係をいう
※民法428条、430条
※奥田昌道『債権総論 増補版』悠々社p339
6 更新拒絶→管理分類の傾向(概要)
賃貸借契約を終了させる手段として、解除とは別に更新拒絶もあります。更新拒絶についても、解除と同じように管理分類とされる傾向があります。
詳しくはこちら|共有不動産の賃貸借の更新拒絶の変更・管理分類
本記事では、共有物の賃貸借の終了(解除など)に関する変更・管理・保存行為の分類について説明しました。
実際には、具体的・個別的な事情によって違う法的な分類となることもあります。
実際の共有物の扱いの問題に直面されている方は、本記事の内容だけで判断せず、弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。