【共有者単独での譲渡(売却)の効果(効果の帰属・契約の効力)】
1 共有者単独での譲渡(売却)・抵当権設定の効果
共有物を売却する行為は処分行為なので共有者全員の同意が必要です。
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容
それにも関わらず共有者の1人が他の共有者の関与なく売却(売買契約)をしてしまうケースもあります。その場合にはどのような法的効果が生じるのか、について本記事で説明します。
2 単独の共有者による売却の法的効果の基本
共有者が単独で共有物を売却しても、所有権移転の効果は生じません。刑事責任としては横領罪が成立する可能性があります。
単独の共有者による売却の法的効果の基本
3 単独の共有者による共有物の売買契約の効力
共有者が単独で共有物を売却した時の売買契約(債権契約)としては有効です。
単独の共有者による共有物の売買契約の効力(※1)
あ 売主の持分についての効果
Aの持分の範囲内について
→契約内容に従った履行義務を負う
い 売主の持分の範囲外への効果
Aの持分を越える部分について
→他人の権利の売買としての法律関係を生じる
う 昭和43年判例の引用
共有者の一人が、権限なくして、共有物を自己の単独所有に属するものとして売り渡した場合においても、その売買契約は有効に成立し、自己の持分を越える部分については他人の権利の売買としての法律関係を生ずるとともに、自己の持分の範囲内では約旨に従つた履行義務を負うものと解するのが相当である。
※最判昭和43年4月4日
4 単独の共有者による共有物の売却における明渡請求(概要)
共有者が単独で共有不動産を売却した事案において、明渡請求が問題となった判例があります。買主の占有権原が肯定されました。大雑把に言えば売買の中に占有の承諾が含まれるという判断です。
単独の共有者による共有物の売却における明渡請求(概要)
あ 占有の移転
土地をA・Bが共有していた
Bが不動産全体をCに売却した
買主Cは土地上に建物を建てた
い 明渡請求
Cの占有はBの共有権に基づくものである
→Aの明渡請求は認めない
※最判昭和57年6月17日
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求
5 共有不動産の売却による代金分配義務(参考)
共有者全員が合意して共有物を売却した時には、その代金を他の共有者に分配する義務が生じます。共有者のうち1人が単独で売却した場合にも、表現代理や追認があった場合には結果的にこれと同じ扱いとなります。
共有不動産の売却による代金分配義務(参考)
あ 共有不動産の売却
不動産をA・Bが共有していた
遺産共有であった
A・Bの合意により第三者に売却した
Aが代金を受領した
い 代金債権の帰属
A・Bは分割された代金債権を取得する
Aは受領権限を委任されている
う 金銭交付義務
AはBに対してB持分相当の金額を交付する義務がある
※民法646条1項前段
※最高裁昭和52年9月19日
詳しくはこちら|売買契約の売主または買主が複数である場合の所有関係・代金の可分性
6 単独の共有者による共有物売却に関する古い判例(参考)
ところで、古い判例には、単独の共有者が共有物を売却したケースについて、共有物の価値代替物が共有となるという判断を示したものがあります(大判明治37年3月16日)。現在の一般的な解釈とは異なります。この判例については(別のテーマで)別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法251条の『変更』の意味(『処分』との関係)
7 単独の共有者による不動産売却と取得時効の関係
共有者単独で売却した場合に、買主は、売主が有していた共有持分権だけしか取得しません(前記)。所有権全体は取得できていない状態です。
しかし、共有物(不動産)の引き渡しを受けてから長期間が経過すると、取得時効により所有権(全体)を取得できることになります。
単独の共有者による不動産売却と取得時効の関係
あ 共有不動産売買
不動産をA・Bが共有していた
BがCに不動産全体を売却した
Cは不動産の引渡を受けた
長期間が経過した
い 取得時効の主張
CはAに対して取得時効の援用を主張した
Aは『所有の意思で占有する』表示がなかったと反論した
う 比較対象=無権利者
共有持分も有しない者=まったくの無権利者の場合
→『所有の意思表示』は必要ではない
え 単独所有の意思の表示→不要
共有持分を有している場合も『う』と同様である
→『単独所有の意思で占有する』旨の表示は不要である
→『所有の意思』を認めた
※最高裁昭和40年9月10日
8 関連テーマ
(1)共有者単独での用益物権設定・貸借契約の効果(概要)
以上の説明は、共有者が単独で売却をしたケースについてのものでした。
この点、共有者が単独で共有物に用益物権を設定した場合や、賃貸借や使用貸借の契約を締結した場合には、以上とは異なり、当該共有者の有する共有持分も含めて効果が生じないことになります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者の権限を超えた用益物権設定・賃貸借・使用貸借契約の効果
(2)共有者による共有物全体の処分と横領罪(概要)
たとえばAB共有の不動産について、A単独所有の登記となっているケースを想定します。AがBに無断で(単独所有者として)不動産全体を売却してしまうと、刑法上は他人の物を売却したことになるので、横領罪が成立します。売却ではなく抵当権設定でも刑法上、「横領」(領得行為)にあたるので同じように横領罪が成立します。
一方、Bが売却を承諾していれば、Aが不動産全体を売却することは適法になります。この場合、売却代金が、刑法上はAB共有となります。Bに分配せずにAが金銭を使ってしまうと横領罪が成立します。
詳しくはこちら|共有者による共有物全体の売却(処分)と横領罪
なお、実際には共有者は親族の関係にあることが多いです。親族との間で横領罪またはその未遂罪を犯した場合、刑の免除または親告罪となります(親族相盗例・刑法255条、244条)。
本記事では、共有者が単独で共有物の売却を行ってしまったケースでの法的効果について説明しました。
実際には、具体的・個別的な事情によって違う結論となることもあります。
実際の共有者が独断で共有物の取引などをしてしまった状況に直面されている方は、本記事の内容だけで判断せず、弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。