【近親者間の賃貸借・使用貸借における貸主の死亡による混同(契約終了)】

1 賃貸借・使用貸借における貸主の死亡(基本)

親子などの近親者の間で住居の貸し借りをすることは多いです。
同居もこれに含まれます。
このような状況だと、相続の時に複雑な問題が生じます。
トラブル予防策として賃貸借や使用貸借の契約を締結する方法があります。
詳しくはこちら|不動産の相続×相続人の居住|典型的トラブル・予防策
これらの契約は確実なトラブル回避にはならないこともあります。
本記事では賃貸借・使用貸借の貸主が亡くなったことによって起きる問題を説明します。
まずは賃貸借・使用貸借契約における貸主の死亡に関する規定をまとめます。

賃貸借・使用貸借における貸主の死亡(基本)(※6)

あ 前提事情

Aの所有する不動産にBが居住している
A・Bの間には賃貸借or使用貸借契約の関係がある

い 貸主死亡による終了→規定なし

賃貸人・使用貸人が死亡した場合
→条文による『契約終了』には該当しない
※民法617条〜、599条

う 賃貸借・使用貸借×混同

『混同』により結果的に契約が終了することがある
相続人が1人か複数かによって相続後の状況が異なる(後記※1)(後記※2

2 賃貸借・使用貸借と混同(基本・共通部分)

賃貸借・使用貸借契約が『混同』によって終了することがあります。
相続人の人数によって違いがあります。
まずは単純な『相続人が1人だけ』というケースについてまとめます。

賃貸借・使用貸借と混同(単独相続)(※1)

あ 前提事情

(前記※6)の事情を前提とする

い 単独相続

Aの相続人はBだけである場合
→貸主と借主は両方ともA=同一人となる
→『混同』に該当する
→債権・債務が消滅する
→契約は終了する
※民法520条

3 賃貸借・使用貸借と混同(共同相続・基本)

相続人が複数というケースについて説明します。
この場合は契約の扱いがとても複雑になります。
まずは基本的事項をまとめます。

賃貸借・使用貸借と混同(共同相続・基本)(※2)

あ 前提事情

(前記※6)の事情を前提とする

い 共同相続

Aの相続人はB・Cである
→契約の形式的な当事者は次のようになる
ア 貸主=B・Cイ 借主=B

う 2つの契約→1つは終了

契約は2つに分かれることになる
その後の扱いは次のようになる
当事者 混同該当性 契約の存否 B・B間契約 混同で権利が消滅する 契約は終了する B・C間契約 混同に該当しない 契約の種類により異なる(『え』)

え 共有者の一部との賃貸借・使用貸借

B・C間契約について
→貸主は『共有者の一部』である
→契約が存続するかどうかは別の問題がある
使用貸借・賃貸借で別の解釈となる(後記※3)(後記※4

4 共有者の一部による債権契約・物権契約

共有者の一部が貸主となる契約の解釈は難しいです。
契約の法律的な分類で2つに分けると理解しやすいです。
まずは『債権契約・物権契約』の2つの扱いを整理します。

共有者の一部による債権契約・物権契約

あ 共有者の一部による債権契約

債権は人(=当事者)を拘束するものである
→目的物の物権を持たない者も契約締結ができる
例=他人物売買契約
※民法560条

い 共有者の一部による物権契約

物権は排他的な性格がある
共有者の一部は物権を設定する契約を締結できない
物権契約と呼ぶ
例=地上権設定契約

この解釈論を前提にして、元の説明に戻ります。
賃貸借・使用貸借契約はいずれも『債権契約』です。
しかし賃貸借については特殊な性格があります。
順に説明します。

5 共有者の一部による使用貸借契約

共有者の一部が貸主となる使用貸借契約の法的扱いをまとめます。

共有者の一部による使用貸借契約(※3)

あ 使用貸借の性格=債権契約

使用借権は『債権』を設定する権利である
物権に近付ける特別な解釈の方向性はない
『債権契約』の性質そのものである

い 共有者の一部×使用貸借契約

共有者の一部が『貸主』である使用貸借契約
→特に問題なく存続する
これに沿う解釈を採用する判例も多い(後記※5

6 使用貸借×貸主の死亡|共同相続→契約存続|判例

共有者の一部が貸主となる使用貸借関係を認めた判例があります。単独所有者が貸主でしたが、始期が貸主の死亡時なので、結局、(借主以外の)相続人(共有者)が貸主ということになっています。
それ以外に、AB間で「Aが無償で共有物を使用する」合意があったと認定し、これが使用貸借契約である、と明言する裁判例も実際にはよくあります。本来これは、共有者間の共有物の使用収益に関する意思決定として扱う方が、民法の規定に整合的であると思います。実際にそのように認定する判例もあります。

共有者の一部が貸主となる使用貸借を認めた判例(※5)

あ 親子間の使用貸借の相続(要点)

建物所有者である父と、当該建物に居住する子Aが、始期付使用貸借契約を締結したと認定した
父がなくなり、子Bが貸主、子Aが借主として使用貸借が存続する
※最判平成8年12月17日
詳しくはこちら|被相続人と同居していた相続人に対する他の共有者の明渡・金銭請求(平成8年判例)

い 共有者間の使用貸借の認定

共有者ABの不動産について、「Aが無償で使用する」旨の(黙示の)使用貸借契約がAB間で締結されていた、と認める裁判例も多く存在する
※非公開・当事務所扱い事例

う 内縁の夫婦間の共有物に関する合意(参考)

土地・建物の共有者であった内縁の夫婦が、共有物の使用収益に関する合意をしたと認定した
使用貸借を認めたものではない(と読み取れる)
※最判平成10年2月26日
詳しくはこちら|内縁の夫婦の一方が亡くなると共有の住居は使用貸借関係となることがある

7 共有者の一部が賃貸人となる賃貸借契約

賃貸借契約の貸主となる賃貸借契約の法的扱いをまとめます。

共有者の一部が賃貸人となる賃貸借契約(※4)

あ 賃貸借の性格=物権化

賃借権は『債権』による契約である
しかしいくつかの強化がなされている
→『排他的権利』という性格が強い
『物権化傾向』と呼ぶ

い 共有者の一部×賃貸借契約

ア 原則 賃貸借契約は『債権契約』である
→この意味では共有者の一部が締結することは可能である
イ 物権化 賃貸借契約には『物権』という性格もある(『あ』)
→貸主が共有者の一部であると存続できない解釈もあり得る

8 賃貸借・使用貸借の相続による混同の傾向(逆転現象)

以上のように賃貸借・使用貸借は相続時の扱いが複雑になります。
特に特に近い者同士である場合はとても特殊な判断になります。
結果として、一般的な傾向とは逆転する現象が生じています。

賃貸借・使用貸借の相続による混同の傾向(逆転現象)

あ 一般的強弱

使用貸借よりも賃貸借の方が拘束(借主の保護)が強い

い 共同相続×契約終了/存続

賃貸借よりも使用貸借の方が混同に該当しにくい
→契約が存続しやすい面がある

9 相続による賃貸借の混同の回避策

賃貸借契約は『混同』により終了しやすいです(前記)。
これを回避する方法の1つを紹介します。
『当事者の一部でも重複することを避ける』という発想によるものです。
ある意味『逆転の発想』とも言えます。

相続による賃貸借の混同の回避策

あ 混同リスク|概要

Aが不動産甲を所有している
AがBに賃貸している
Aが亡くなった
不動産甲を相続人B・Cが相続した
『混同』消滅の結果として
→賃貸借契約が終了するリスクがある(前記※4

い 混同リスク回避策|相続放棄

Aの死後、すみやかにBが『相続放棄』を行う
→Bは最初から『相続人ではなかった』ことになる
詳しくはこちら|相続放棄により相続人ではない扱いとなる(相続放棄の全体像)
→『混同』は生じない
→契約終了となることを回避できる

本記事では、賃貸借や使用貸借契約で貸主が亡くなった時の混同について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借や使用貸借の貸主が亡くなったことによって生じた問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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