【民法上の組合の共同事業と共有物の共同使用の判別(基準と判例の集約)】

1 民法上の組合の共同事業と共有物の共同使用の判別

一般的な共有と、民法上の組合財産の共有(組合が成立しているか)では法的な扱いが大きく異なります。
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
この点、民法上の組合が成立するための共同事業に該当するかどうかをハッキリと判定できないケースも多いです。
詳しくはこちら|民法上の組合の共同事業の基本(目的となりうる事業・事業の共同性)
本記事では、組合の共同事業といえるかどうかを判別する基準と実際に判断した事例(判例)を紹介します。

2 組合の共同事業と共有物の共同使用の区別の目安

民法上の組合としての共同事業と単なる共有物を共有者が共同で使用する関係の違いは共同事業の有無です。
とはいっても財産の使用共同の事業とをハッキリと区別できないこともあります。判断に大きく影響するのはサービスの要素の大きさといえます。

組合の共同事業と共有物の共同使用の区別の目安

あ 共有物の共同使用(事業性否定)方向

財産の使用だけが目的である場合
→共有物の使用収益そのものである
→共同事業ではない
→組合として認めない

い 組合認定(事業性肯定)方向

『財産の使用』以外が主要な目的である
→共有物の使用収益の範囲を超える
共同事業である
→組合(の事業)として認める

う 判断の要点

財産の使用を超える価値の提供(オペレーション・サービス)の大きさ

これは多くの判例の判断を集約したものです。元となった判例(裁判例)は以下、順に説明します。

3 網干場の共同使用の事業性→否定

網を干す場所として共有の土地を用いたケースです。例えば土地に大規模な器具を設置して常時メンテナンスをしているならばサービスの程度が高いといえたでしょう。しかしこのケースではそのような手間をかける仕組みはありませんでした。
そこで裁判所は共有物の使用を超えないものと考え、組合の成立を認められませんでした。

網干場の共同使用の事業性→否定

あ 事案の要点

江戸時代に団体Aが藩から土地を共同でもらい受けた
土地を網干場として使用する目的があった
民法上の組合で土地を所有することを想定していた
組合の共同事業共同で土地を使用することと設定した

い 裁判所の判断

ア 規範 共同で土地を使用すること共有土地の利用方法である
共同目的・共同事業とは言えない
イ あてはめ 土地を共同的に使用する目的について
→共同目的・共同事業には該当しない
→組合契約は成立しない
(→共有持分譲渡・分割請求は可能である)
※最判昭和26年4月19日

4 空港用地取得を妨害する目標の事業性→否定

成田空港の用地取得を妨害するために土地を共有した、というケースで「土地をもつ会」が結成されましたが、これについて、会則の記述内容など、具体的な事情から、結論として組合としての共同事業は否定されています。目的は土地を共有すること(その管理・使用)にとどまる、という判断です。

空港用地取得を妨害する目標の事業性→否定

あ 一般論(規範)

・・・そもそも、組合は目的団体の一種であり、各組合員が何らかの事業を共同の目的とすることが必要であるところ、・・・

い 事案の判断(あてはめ)

ア 結論 ・・・「土地をもつ会」においては単に土地を共有することを目的として、これに関する協定がされたにすぎないから、共同事業の存在という民法所定の組合成立に必要な要件が満たされているとは認められない
イ 目標→土地取得の妨害 すなわち、「土地をもつ会」が踏襲した「富里地区に土地をもつ会」は一坪共有運動をする者(共有者となる者)をその会員とし、富里地区を空港予定地とする案を撤廃させるために富里空港予定地に共有地を確保して政府の強行突破(閣議決定、公団発足、土地収用)を防ぐこと、仮に政府が強行突破しても事務的法的手続を複雑にすることにより土地取得が事実上不可能となることをねらいとした。
反対同盟においても、一坪共有運動を推進することがその結成集会で決議され、成田空港建設に反対する上記反対同盟の活動の一つとして、成田空港建設を困難にするためにこれを行うこととされた。
ウ 目的→土地の管理・使用 そして、「土地をもつ会」はその会則上、成田空港予定地内の共有地を管理し使用することを目的とし、土地の共有者である会員をもって組織するとされ、反対同盟の活動をしていた者が、土地提供者になる者を探して、土地の提供を受け、共有名義人になる者を勧誘し、書類をとりまとめるというような手続で行われており、このように反対同盟の活動の一環として行われた結果形成された組織が共有地を管理し使用することを目的とする「土地をもつ会」であった。
エ まとめ 以上によれば、被告らがいう空港建設に反対する活動が反対同盟としての活動とは別個の団体によるものということは困難であり、「土地をもつ会」の目的は一坪共有地を作出すること、すなわち一坪共有地を共有し管理するという共有物の使用方法を協定したものにすぎない。
「土地をもつ会」の構成員には空港建設反対という共通の目標があったとしても、会則では飽くまでも「共有地を管理し使用することを目的とする」と規定されている。
本件土地共有者による共有は、空港公団による空港用地取得を困難にする手段として、空港建設反対運動に共感した者から所有土地の提供を受けた多数の共有者が共有しているにすぎず、上記の共通の目標があるものが共有持分権者となっていたとしても、土地を所有することを超えた何らかの事業目的があるとは認められない。
オ 区分所有建物の共用部分(参考として指摘) マンション(区分所有建物)の管理組合がその構成員である区分所有者による住居、店舗又は事務所等の専有部分の利用の便のために共有部分の管理などをすることに関して存在しているのとは異なるものである。
カ 建造物・農作業→目的ではない 上記のとおり、「土地をもつ会」は空港反対という究極の目標を共通にする者が構成員となり、空港公団に空港用地を渡さないためにその構成員が一坪共有地を共有するものであるから、本件各土地の一部に一時期建造物が建てられ、又は農作業をされたことは「土地をもつ会」の土地利用の目的の実現ということはできない。
「土地をもつ会」が平成11年から毎年定期的に複数の一坪共有地の現状確認行動をしているということも本件土地に関する事業というものではない。
※千葉地判平成18年6月28日(成田空港一坪共有地訴訟・第1審)

5 病院の共同経営の事業性→肯定

不動産を共有して、共有者同士で病院を経営していたケースです。もちろん、土地や建物を本来の使い方で活用した側面もあります。しかし、医療サービスの提供という要素はとても大きいです。
そこで裁判所は組合の成立を認めました。

病院の共同経営の事業性→肯定

あ 共同経営の合意

A・Bは次の合意をした
ア A・Bは共に医療行為に従事するイ 病院を共同で経営するウ 財産は2分の1ずつの共有とするエ 対外的にはAの単独名義とするオ 利益・損失の収受・負担はともに平等とする

い 共同事業→肯定

共同事業に該当する
→民法上の組合として認める
※横浜地判昭和59年6月20日

この裁判例の内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|病院経営への組合認定・解散後の共有物分割を認めた裁判例(横浜地判昭和59年6月20日)

6 航空機の共同運用の事業性→肯定

航空機を共有して、共有者同士で食事会や情報交換を定期的に行っていたケースです。純粋な共有物(航空機の機体)の共同使用を超える親睦活動の企画や運営の程度も大きいといえます。
裁判所は組合の成立を認めました。

航空機の共同運用の事業性→肯定

あ 共同運用

航空機を6名で共同購入した
構成員は食事会として毎月1、2回程度集まった
航空機全般・飛行に関する情報交換をしていた
当該航空機の費用負担について協議していた

い 共同事業→肯定

単に『航空機の共有者』であるにとどまらない
共同の事業を営むために出資したと言える
目的=航空機の購入・維持
→民法上の組合として認める
※東京地裁昭和62年6月26日

7 ヨットクラブ運営の事業性→肯定

前記の航空機の所有海版です。ヨットを共有して、共有者の間でヨットクラブとしてヨットを航行して楽しむという運営をしていたケースです。
裁判所は、単純なヨットそのものの使用を超えた親睦活動の企画や運営があると考え、組合の事業として認めました。

ヨットクラブ運営の事業性→肯定

あ ヨットクラブ結成

5名共同でヨットを購入した
各出資者は1口100万円の出資をした
出資者が会員となりヨットクラブを結成した
目的=ヨットを利用して航海を楽しむ

い 共同事業→肯定

共同事業に該当する
→民法上の組合として認める
※最高裁平成11年2月23日

8 承継した家業への民法組合の適用判断事例

(1)事案内容

一家の協力で行っていた家業について組合の成立の有無が問題となったケースです。
事案と判断の内容が少し複雑なので、分けて説明します。
事案としては、もともとの家業を行っていた父が、生前から徐々に子夫婦に事業活動を承継していました。しかし建物と借地権の名義は子夫婦に移さず、父名義のままでした。
単純な所有権として扱うなら、相続によって法定相続分どおりに各相続人に移転(承継)されることになります。
しかし、民法上の組合としての清算が必要であるという主張がなされました。

事案内容

あ 営業の承継

Aが商店の営業を行っていた
A(Bの父)は営業を実質的に子夫婦Bに承継させた
営業上の名義だけはAとしていた
Bの営業努力により営業を維持していた
営業利益により建物+借地権を取得できた
建物+借地権の名義はAとしてあった

い 事業の相続

Aが死亡した
相続人はB・Cであった

う 法的な問題

それまでの家業への貢献度の清算が問題となった
※東京高判昭和51年5月27日

(2)裁判所の判断

前記の事案の家業について、裁判所は事業に関わっていた父と子との間に民法上の組合の成立を認めました。
結局、民法上の組合の組合員の相続として、残余財産の清算をすることになったのです。所有権としては被相続人に帰属しているけれど組合としての清算の対象となるので、相続財産からは除外するという扱いになったのです。
実質的には相続における寄与分と同様の処理といえます。
詳しくはこちら|寄与分|事業に関する労務提供・財産給付
ただし、この時期にはまだ寄与分の条文がまだなかったので、このように、既存の規定(制度)を使って、現在の寄与分と同じような調整をすることが実務上は一般化していたのです。

裁判所の判断

あ 組合契約→認定

A・Bの間には組合契約が認められる
目的=商店の営業

い 組合の解散

事業に関する財産の扱いについて
→組合の解散に準じる
=出資の割合に応じて残余財産を清算する

う 遺産の範囲

Bが取得する清算分は遺産から除外する
※東京高判昭和51年5月27日

(3)昭和51年東京高判の判決の引用

最後に、この裁判例の判決自体を引用しておきます。

昭和51年東京高判の判決の引用

あ 組合契約認定+解散による残余財産清算の扱い

・・・被相続人が営んでいた商店の営業を実質上その子夫婦に承継させ、爾後営業名義は被相続人としているが、実際にはもっぱら子夫婦の経営努力によって営業が維持され、その利益によってその建物所有権及び敷地の借地権等を取得し、建物を増築し店の商品等の在庫量が増大するなどその商店に造成された財産は、その一部の所有名義が被相続人になっていても、実質的に被相続人及び子夫婦がその商店を営むことを目的として一種の組合契約をし子夫婦が組合の事業執行として店舗の経営をした結果得られた財産とみられるから、被相続人が死亡し他に共同相続人がいる場合には、組合の解散に準じ、その出資の割合に応じて残余財産を清算し、その清算の結果子夫婦の各取得する分はその財産形成の寄与分として遺産から除外し、被相続人の取得分のみを遺産として取扱うべきものと解するのが相当である。
・・・

い 寄与割合→3人に均等割

・・・財産形成の寄与割合についてみるのに、Tは、本件建物での営業権(本件では、得意先、のれん、場所的利益、対外的な信用等)を出資し、被控訴人らはそれぞれ時計店経営に関する諸労務の出資をしており、前記のようにその財産形成はほとんど右労務に負うものであり、これらの事情その他前記認定の各事情を総合して考慮すると、右Tの出資に対応する財産取得割合はその三分の一であり、その余は被控訴人ら夫婦の取得(各三分の一宛)分であるとみるのが相当である。
したがって、残余財産の三分の二は被控訴人らの取得分、すなわち、財産形成の寄与分として遺産から除外され、三分の一がTの遺産として相続の対象となる。
※東京高判昭和51年5月27日

9 転売目的での共同購入の事業性→肯定

以上で紹介した事案はすべて不動産などの財産を(複数人で)使用するものでした。この点、使用するわけではなく売却(転売)することを複数人で行う場合には、ストレートに共同事業として認められます。この場合は、共有者による共有物の使用という枠組みに当てはまらないからです。

転売目的での共同購入の事業性→肯定

被控訴人・・・が控訴人と五名共同にて大正九年・・・訴外・・・より山林七町三反・・・を買受け・・・該地所の買入は之を他に転売して利益を取得するの目的を達する為めなりしこと・・・之を認むるに足る、従って前示各当事者は一種の共同事業を為すものにして其間の法律関係は組合又は之に準ずべき法律関係にあるものと解すべき者とす・・・
・・・
手付金の支出は右共同事業の出資金たる性質を有する・・・
(注・現代仮名遣いに直した)
※東京控判大正11年9月19日

本記事では、民法上の組合の共同事業と、一般的な共有者間の共有物の共同使用の判別について説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に共有の財産の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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