【共有持分の抵当権・仮差押が共有物分割に与える影響】
1 共有持分の抵当権・仮差押が共有物分割に与える影響
共有持分に抵当権の設定や仮差押がある場合は、このことが共有物分割に影響します。
本記事では、このような特殊事情が共有物分割に与える影響を説明します。
2 共有物分割における共有持分に設定した抵当権の扱い
共有持分に担保権が設定されていることもあります。この状態で共有物分割がなされたとしても、抵当権には影響しません。つまり、抵当権の効力は共有物全部について及んでいることになります。
共有物分割における共有持分に設定した抵当権の扱い
あ 共有持分への抵当権設定
共有持分について抵当権が設定されている
い 共有物分割の影響
共有物分割が行われた場合
→抵当権は共有物分割の影響を受けない
→共有物全部について持分割合の限度で抵当権は存続する
現物分割の場合でも抵当権設定者の取得部分に限定されるわけではない
※大判昭和17年4月24日
※大判昭和17年11月19日
う 共有物分割への『参加』制度との関係(概要)
抵当権者が共有物分割に『参加』してもしなくても『い』のことに変わりはない
詳しくはこちら|共有物分割への参加の制度(参加権利者・権限・負担・通知義務・参加請求の拒否)
3 持分に仮差押がある共有物の分割請求の可否
不動産の共有持分に対して仮差押がなされることもあります。古い判例は、このことを理由に、分割請求ができないという判断をしました。これについては反対説も有力です。
持分に仮差押がある共有物の分割請求の可否
あ 前提事情
不動産をA・Bで共有している
BがAの持分に対して仮差押を行った
=仮差押登記がなされている
AがBに対して共有物分割を請求した
Aは換価分割(競売)を希望していた
い 判例
仮差押は処分を禁じるものではない
しかし共有者間の仮差押については、共有物分割により不合理な状況となる
→分割請求はできない
※大判昭和10年6月24日
う 学説(反対説)
判旨の理論に疑を有する。上告理由の最後の点が主張する如く共有者中の1人の持分に差押があると他の共有者は分割請求が出来なくなる、といふことは共有者にとって甚だ迷惑であり、斯かる場合に分割を欲する者が第三者の弁済を為せといふ判旨の理論は、本件の如き差押を受けたる者自身が分割を欲する場合は兎も角、然らざる場合には何等右の結果の不都合の救済とはならない。
※川島武宣稿/民事法判例研究会編『判例民事法(15)昭和10年度』有斐閣1954年p333
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p477(反対説を支持)
え 不合理な状況の内容(私見=反対説)
少なくとも現在では、換価分割後の形式的競売において
持分についての差押債権者に配当がなされる
持分についての仮差押がある場合は配当留保供託がなされる
→差押・仮差押のいずれの債権者も保護される
→不合理な状況とはならない
当該判例は現在では先例性がないと思われる
4 共有持分への(仮)差押の処分禁止効
共有持分に仮差押がなされていることだけを理由に共有物分割を否定する前記の昭和10年判例の理論は用いないことを前提にして、共有持分への(仮)差押が共有物分割にどのように影響するのかを検討します。つまり、共有持分になされた差押が処分を禁止する効力を持つのに共有物分割ができるのか、という疑問です。
これについては、協議による分割はできないけれど、裁判所による分割は、(原告が差押債務者であっても)できる、という見解があります。
共有持分への(仮)差押の処分禁止効
あ 協議による分割
持分に(仮)差押がある場合において、協議による共有物分割は、差押債務者による差押目的物の処分にあたる
→分割方法は差押債権者に対抗できない
い 裁判所による分割(基本)
裁判所による分割は、本来経過的権利たる共有持分の法律的形態を変える裁判所の行為である
→差押が禁ずる債務者による目的物の処分とみるべきではない
→差押債権者に対抗できる
※民事法判例研究会編『判例民事法(15)昭和10年度』有斐閣1954年p333
う 差押債務者による分割請求
差押債務者自身が分割請求を行った場合の裁判所による分割について
持分差押は性質上経過的権利の差押にすぎず、また差押債務者が請求をしなくても他の共有者が請求することによって容易に分割を可能ならしめ得るのである
持分差押は単に持分の売買質入等の処分を禁ずるに止まり分割をも禁ずるものにあらず、これを禁止する為には分割禁止の仮処分を要する、と解すべきであろう
(=持分差押あるもなお分割請求を認むべきものと考える)
※民事法判例研究会編『判例民事法(15)昭和10年度』有斐閣1954年p333、334
え 分割禁止の仮処分の内容(私見)
分割禁止の仮処分というものがどのようなものかが明らかではない
処分禁止の仮処分の1種であるとしても、金銭債権が被保全債権にはなるはずはない
共有物分割を止めるような手続はない、ということを表現しているのであろうか
5 共有物分割による共有持分の(仮)差押の扱い
前記の見解では、共有持分に(仮)差押があっても、裁判所による共有物分割は可能です。この場合、持分の差押は効力を失う、つまり、差押債務者が取得する財産に効力が及ぶわけではないと考えられます。
ただし、持分に差押をしていることで、差押債権者は参加の請求をしたものとして扱われ、現実的には改めて差押債務者が取得する財産に対する(仮)差押をする機会が確保されることにつながります。
共有物分割による共有持分の(仮)差押の扱い
あ (仮)差押の効力
共有分割によって持分なるものが消滅する結果、持分についてなされた差押の效力について
民事執行法上持分に対する差押と動産・不動産の差押とはその手続を異にする
持分差押の效力は分割によって債務者が取得する物の上には及ばない
※民事法判例研究会編『判例民事法(15)昭和10年度』有斐閣1954年p334
い 差押債権者の対応
持分を差し押さえた者は、分割によって差押債務者が取得する物に対して改めて差押を行う必要が生じる
※民事法判例研究会編『判例民事法(15)昭和10年度』有斐閣1954年p334
う 再度の差押の機会の保障(参加制度との関係)
差押債権者は再度差押の必要上、分割に参加することを要するのであるから、性質上当然に民法260条の参加の請求をした者に該当する
→共有者が差押債権者に知らせずに共有物分割をした場合、参加の拒否にあたる
→差押債権者(参加を請求した者)に対抗できないことになる
※民法260条
詳しくはこちら|共有物分割への参加の制度(参加権利者・権限・負担・通知義務・参加請求の拒否)
※民事法判例研究会編『判例民事法(15)昭和10年度』有斐閣1954年p334、335
本記事では、共有持分に対する抵当権の設定や仮差押やが共有物分割に与える影響を説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的扱いは違ってきます。
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