【共有者の破産・民事再生・会社更生における不分割特約の適用除外・持分買取権】
1 共有者の破産・民事再生・会社更正における不分割特約の適用除外・持分買取権
不分割特約(共有物分割禁止特約)があれば文字どおり分割できなくなります。
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)
しかし、共有者の1人が破産などの法的な倒産の手続をとった場合には、分割請求ができることになり、他の共有者は(破産などをした者の)共有持分を買い取る権利が認められます。
本記事では、このような、不分割特約の例外的扱いについて説明します。
2 破産法・民事再生法・会社更生法の共有関係の条文
最初に、条文の規定を押さえておきます。
破産、民事再生、会社更生のいずれの手続でも、不分割特約があったとしても分割請求ができるというルールがあります。ただし、誰が分割請求をすることができるか、というところには違いがあります。
また、3つの手続のいずれも、他の共有者が、倒産手続をとった共有者の共有持分を買い取ることができることになっています。
破産法・民事再生法・会社更生法の共有関係の条文
あ 破産法52条
(共有関係)
第五十二条 数人が共同して財産権を有する場合において、共有者の中に破産手続開始の決定を受けた者があるときは、その共有に係る財産の分割の請求は、共有者の間で分割をしない旨の定めがあるときでも、することができる。
2 前項の場合には、他の共有者は、相当の償金を支払って破産者の持分を取得することができる。
い 民事再生法48条
(共有関係)
第四十八条 再生債務者が他人と共同して財産権を有する場合において、再生手続が開始されたときは、再生債務者等は、共有者の間で分割をしない定めがあるときでも、分割の請求をすることができる。
2 前項の場合には、他の共有者は、相当の償金を支払って再生債務者の持分を取得することができる。
う 会社更生法60条
(共有関係)
第六十条 更生会社が他人と共同して財産権を有する場合において、更生手続が開始されたときは、管財人は、共有者の間で分割をしない定めがあるときでも、分割の請求をすることができる。
2 前項の場合には、他の共有者は、相当の償金を支払って更生会社の持分を取得することができる。
3 破産者以外の共有者による共有物分割請求(認める趣旨)
不分割特約を破って、分割請求をすることができる者は、民事再生では再生債務者、会社更生の場合は管財人と明記されています(前記)。これらの倒産手続をとった者以外の共有者は、不分割特約が適用されたままです。つまり、分割請求はできません。
しかし、破産だけは、分割請求をすることができる者が限定されていません。つまり、破産者以外の共有者も不分割特約を破って、分割請求をすることができます。
このように違いがある理由(趣旨)は、破産手続では迅速に換価することが要請される点にあると指摘されています。
破産者以外の共有者による共有物分割請求(認める趣旨)
概説194頁[沖野眞巳]は他の共有者も分割請求できるとする理由として、破産手続ではすべての財産の迅速な換価処分が目的であることを挙げる。
また、概論100頁〔山本克己]は、他の共有者も分割請求できるとする理由として、他の共有者が、破産財団に属する共有持分が換価のために第三者に譲渡されるよりも、その前に共有関係を解消することに利益を感じる場合もあることを挙げる。
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第3版』弘文堂2020年p411、412
4 破産法などによる他の共有者の持分買取権
破産・民事再生・会社更生のいずれでも、破産管財人や再生債務者が共有物分割を請求してきた場合に、他の共有者が当該財産を手放したくなければ、全面的価格賠償を主張(請求)し、これが実現させる必要があります。しかし、共有者全員が納得するか、裁判所に判断してもらうには、他の共有者すべての共有持分を買い取る資力などのハードルがあります。
詳しくはこちら|共有物分割における全面的価格賠償の要件(全体)
このような状況の際の解決方法として、他の共有者が、倒産手続を者の共有持分を買い取ることができるというルールがあります。そのためには、相当の償金、つまり(倒産手続をした共有者の共有持分の)適正な対価を支払う必要はあります。
この買い取る権利は形成権であるため、純粋な理論としては、権利行使(意思表示)をした瞬間に共有持分の移転と対価の支払債務が発生することになります。しかし現実には金額について合意に達しないため、訴訟を申し立てて、裁判所が金額を決めるというように時間がかかります。後から、想定外に高い金額が決められたら、買取権を行使した者は困ります。そこで、持分買取権の行使の際は一定額を超えたら買い取らないというように、上限を明示(設定)しておくことも認められます。
破産法などによる他の共有者の持分買取権
あ 趣旨
共有物について不分割の定めがある場合があるにもかかわらず、共有者の1人の破産により分割請求ができるようになるとすると、不分割の定めの趣旨から、他の共有者に不利益が及ぶ場合もありうる。
そこで分割による不利益を回避できるようにするために、本条(注・破産法52条)2項は、他の共有者は相当の償金を支払って破産者の持分を取得することができる、とする。
い 性質
この持分取得請求権は、破産管財人に対する形成権である。
う 管財人を拘束する効果
他の共有者からこの持分取得請求がされた場合には、破産管財人は、本条(注・破産法52条)1項による分割請求も共有持分権の換価もすることが許されなくなる。
え 手続
償金の相当性については特段の手続はないために、他の共有者と破産管財人との間で協議が調わなければ、通常の訴訟によるほかはない。
償金の相当性の判断は、目的財産の評価(および持分割合)を基礎とするから、実質は非訟的な裁判である。
もっとも、償金が一定額を超える場合には持分取得請求を取り下げる旨の申立ては認めるべきであろう。
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第3版』弘文堂2020年p412
本記事では、不分割特約があっても、破産・民事再生・会社更生の手続では共有物分割が可能になるということや、カウンターとしての持分買取権を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有者の1人が倒産手続を用いたことにより共有物(共有不動産)の扱いに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。