【法律上の規定による共有物分割の制限(境界上の工作物・組合財産・区分所有建物関係)】
1 法律上の規定による共有物分割の制限
共有物は単独所有に変えること望ましいので、共有物の分割請求をすることが保護されています。
詳しくはこちら|共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
しかし、例外的に共有物分割が制限(禁止)されることもあります。本記事では、共有物分割の制限のうち、法律上の規定によって制限されているものを紹介します。
2 土地境界上の工作物の共有物分割禁止
まず、土地の境界上の工作物については、条文の規定によって禁止されています。性質上、共有を維持することが要請されているのです。
土地境界上の工作物の共有物分割禁止
あ 基本
境界線上に設置した『い』の工作物
→共有物分割はできない
い 工作物
ア 境界標イ 囲障・障壁ウ 溝・堀 ※民法257条、229条
3 民法組合の財産の法的性質と共有物分割禁止(概要)
民法上の組合の財産は一種の共有です。しかし共同事業が目的とされているので、例外的に共有物分割は認められません。
別の言い方をすると、共有の財産が共同事業の遂行の手段として使われているなど、組合の成立要件を満たす場合には、共有物分割ができないことになるのです。この点、(準)共有の鉱業権、船舶や区分所有建物の共用部分(後述)については当然に(自動的に)民法上の組合財産として扱われることがあります。
詳しくはこちら|民法上の組合の成立要件(当事者・出資・共同事業・合意)の全体像
民法組合の財産の法的性質と共有物分割禁止(概要)
あ 組合財産の所有形態
民法上の組合の財産の所有形態について
→合有である
=共有の一種
い 組合財産の共有物分割禁止
民法上の組合の財産について
→共有物分割はできない
※民法676条3項
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
4 区分所有建物の共用部分の共有物分割禁止
区分所有建物の共用部分は専有部分と分離した処分が禁止されています。禁止される「処分」には、共有物分割も含まれます。なお、共用部分は民法上の組合財産として扱われるため(前述)、組合の規定により共有物分割が禁じられる、という説明もできます。
この点、区分所有者以外が(共用部分の)共有者となるものでない場合は、許容されることもあります。
区分所有建物の共用部分の共有物分割禁止
あ 条文
(共用部分の持分の処分)
第十五条(略)
2 共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。
※区分所有法15条2項
い 例外
ア 区分所有者同士の移転
規約により、他の区分所有者または管理者を共用部分の所有者とする場合
※区分所有法11条2項、27条1項
イ 持分割合の変更
規約の設定または変更により、共有持分の割合を変更する場合
※区分所有法14条4項
※大野秀夫稿/水元浩ほか編『基本法コンメンタール マンション法 第3版』日本評論社2006年p35
5 区分所有建物の敷地の共有物分割の制限(概要)
区分所有建物の敷地(土地)についても、共有物分割が制限されています。ただし、区分所有法が原則的に禁止しているのか、例外的な場合にだけ禁止されるのか、という解釈(見解)は分かれています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有建物の敷地の共有物分割の可否(複数見解)
6 共同通路の共有物分割の制限(参考・概要)
共有の土地が通路になっていることはよくあります。この場合、共有物分割がなされると通路として使えない状況になるので、これは想定外であるといえるでしょう。ただし、法律上、このような共有物分割を直接的に禁止する規定がないので、他の理論や解釈によって制限しています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有の私道の共有物分割(肯定・否定の見解とその根拠)
本記事では、法律上の規定による共有物分割の制限を説明しました。
実際には、個別的事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。