【形式的競売の担保権処理は引受主義より消除主義が主流である】
1 形式的競売における担保権の処理(消除主義・引受主義・二分説)
形式的競売では担保権の処理についていくつか問題があります。
詳しくはこちら|形式的競売における担保権の処理(全体像)
問題となるもののうち主なものは担保権を消滅させるか存続させるか(担保権者への配当するかしないか)というものです。
本記事では、この問題についての解釈や実務の運用について説明します。
2 引受主義の内容と採用する傾向(否定)
民事執行法の立法当初は、形式的競売の際に担保権は消滅させず、買受人が負担を引き受けるという見解が提唱されていました。これを引受主義といいます。
仮に抵当権者に配当または弁済金交付(以下単に『配当』といいます)をした上で抵当権を消滅させると、担保権者に、担保権実行を強制したのと同じことになります。担保権者から担保実行の時期を選ぶ機会を奪うことになります。ところで、対象となる不動産の所有者(物上保証人または債務者自身)や、担保権の被担保債権の債務者の資力が欠けたというわけではありません。
そこで、担保権はそのままにしておく、という考え方です。
一方で、担保の負担を前提とすると、買い受けることがとても難しいといえます。そのため現在の実務では、原則として引受主義は採用していません。
引受主義の内容と採用する傾向(否定)
あ 引受主義の内容
不動産上の担保権は売却により消滅せず、買受人がその負担を引き受けることとなる
配当要求はできず、配当要求の終期を定めず、配当の手続は実施されない
換価代金は執行費用を控除した上で競売の申立人に交付される
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p435
い 主な特徴(メリットとデメリット)
担保権者に不利な時期において被担保債権の回収を強いるという不合理を回避できる
競売による換価が困難となる
う 引受主義の起源
引受主義は、立法担当者により提唱された見解である
形式的競売を、債権の満足を目的とする強制執行や担保権実行とは異なり、財産権を金銭に代える換価を直接の目的とする競売と捉える
目的物上の担保権の負担があっても、あるがままの価値を換価することによって形式的競売の目的を達成させることになる
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p435
※浦野雄幸『条解民事執行法』商事法務p893
え 引受主義をとる見解
引受主義によると、優先債権者の換価時期選択権が保護される
消除主義を採用すると不当な結果となる
※浦野雄幸『条解民事執行法』商事法務p891、894、896
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1806参照
お 反対する見解(※4)
ア 買受人の保護
(引受主義をとった場合)
執行手続において引き受けるべき担保権の存否及び内容を職権で調査確定する手続が存在しないため、その作業が困難となる
買受人の地位を極めて不安定にし、換価の目的を達成することが困難となりかねない
換価方法として極めて不十分な手続にならざるを得ない
イ 他の競売手続との競合の処理
また、形式的競売と強制執行又は担保権実行とが競合した場合の調整が困難となる
ウ 動産と不動産の扱いの違い
さらに、動産に対する形式的競売の場合には、消除主義を採用することとなる(民法333条、352条参照)が、動産と不動産とで売却条件を異にすることについて、合理的な説明をすることが困難である
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p435
か 引受主義を採用する傾向
実務上難点があることから、全面的に引受説を採る見解は少数にとどまっている
※深沢利一『民事執行の実務(中)』p787注釈(1)
※香川保一監『注釈民事執行法 第8巻』金融財政事情研究会1995年p307参照
3 消除主義の内容と見解が提唱された流れ
前述のように、消除主義をとる場合は、まともな金額で入札する者が現れないという現実的に大きな障害があります。そこで、形式的競売でも担保権実行(や強制競売)と同じように担保権者への配当をして担保権を消滅させるという方法も提唱されました。現在では主流であり、かつ、実務でも原則として消除主義が採用されています。
消除主義の内容と見解が提唱された流れ
あ 消除主義の内容
担保権者への配当を行い(う)、担保権を抹消する
競売において、物上負担のない不動産として売却する
い 主な特徴(メリットとデメリット)
競売による換価を容易にするという利点がある
担保権者には不利な時期において被担保債権の回収を強いることになりうるという欠点がある
う 担保権・債権者の扱い
ア 配当要求
消除主義を採用する以上、原則として担保不動産競売と同様に配当要求(民事執行法51条)を認めるのが相当である
共有物分割のための競売において、配当要求を認めないと、共有物分割のための競売と担保不動産競売又は強制競売とが競合した場合、配当要求の加入者の範囲が異なる場合の調整が困難となる
イ 交付要求(概要)
(国税の)交付要求については、国税徴収法2条12号の文言上、形式的競売においてこれを認めるのは租税法律主義に反するとする見解もある
しかし、剰余主義の適用や配当の際に法定納期限等において担保権に優先する公租公課を無視することは違和感があること、民事執行法195条は形式的競売につき、担保権実行の例によるとしており、必ずしも租税法律主義に反するとはいえない
詳しくはこちら|国税による交付要求(裁判所の競売手続への参加)
え 消除主義の見解(提唱)の流れ
ア 初期の提唱
消除説は有力な学者によって提唱された(後記※5)
イ その後の学説
その後、この見解を支持して形式的競売につき全面的に消除説を採るべきものとする学説は発表されていない(いなかった)
※香川保一監『注釈民事執行法 第8巻』金融財政事情研究会1995年p308
ウ 現在(概要)
消除主義を支持する見解が多くある(後記※1)
判例も実質的に消除主義の採用を肯定している(後記※2)
実務においても消除主義を採用するのが一般的である(後記※3)
4 消除主義をとる見解
現在では、消除主義をとる見解は広がっています。それぞれの見解は同じような理由を挙げています。
消除主義をとる見解(※1)
あ 三ヶ月章(初期段階)(※5)
問題となりうるのは、形式的競売の手続が開始された後に、配当要求がなされることを認めるかどうか、債権者による売却ではないにもかかわらず剰余主義の原則を認めるべきかどうか等であろうが、既に強制換価手続と基本的な点で同質な国家的な換価手続が進行している以上、これら形式的競売の手続に債権者が配当要求をしてきたのをあえて拒む必要もあるまいし、剰余主義の原則も、国家のなす売却行為の当然の要請とみるべきであって何も債権者が申し立てた場合のみの原則だと狭く解する必要もないから、形式的競売を行なうについてもできる限り民事執行法の手続を遵守することが適当であり、任意競売と強制競売の差異を無暗に誇張するという過去の誤りに再び陥ってはならないであろう。
※三ヶ月章著『民事執行法』弘文堂1981年p467
い 注釈民事執行法
私は、形式的競売についても、配当要求及び配当に関する手続を含め、原則として担保権の実行としての競売と同様の手続により競売を実施すべきものと考えており、したがって、売却条件については、消除説を採るべきであると考えている。
その理由については、留置権による競売において述べたところとほぼ同旨である・・・。
実定法の定めを見ても、形式的競売の一種である破産管財人による別除権の目的財産の競売について、破産法においては、抵当権その他の別除権は換価により消滅するものとされており、消除主義が採られている(破産法二〇三)(注・現在の破産法184条)。
※園尾隆司稿/香川保一監『注釈民事執行法 第8巻』金融財政事情研究会1995年p308、309
※園尾隆司稿『留置権による競売および形式的競売の売却手続』/『金融法務事情1221号』1989年5月p15(同趣旨)
う 条解民事執行法
形式的競売においても、売却によって消滅する担保権について配当等を行うことが実体法の観点から不当でないのであれば、必ずしも必然とはいえないこのような性質論に依拠することなく、不動産強制競売や担保不動産競売と同様に売却の便宜を考慮して、原則として消除主義によるべきであるように思われる・・・。
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1807
え 民事執行の実務
多様な形式的競売の種類ごとに引受主義と消除主義のいずれを採用するかが異なるよりは、形式的競売の根拠となる法律の規定の趣旨から受け容れることのできない場合を除き、できるだけ担保権実行の手続と同様の取扱いをすることが手続の明確性の面からも望ましい
消除主義によれば、担保不動産競売と同様に担保権が消滅することになるため買受人の地位は安定するし、担保権者への配当等が行われればその権利保護に欠けることにはならない
また、形式的競売は担保権実行としての競売の例によるとされているところ、各種の形式的競売が認められた根拠及び目的に照らし、消除主義を採用して売却を容易ならしめることが望ましいものと考えられる
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p434、435
お 本田晃氏見解(新・裁判実務大系)
私も、特段の規定がない限り、広義の形式的競売全般について、担保権の実行としての競売と同様の売却条件(すなわち、基本的には消除主義)によるべきであると考える。
※本田晃稿/山﨑恒・山田俊雄編『新・裁判実務大系 第12巻 民事執行法』青林書院2001年p420
か 上田正俊氏見解(注解不動産法)
・・・形式的競売についてもすべて消除主義を採用すべきである。
※上田正俊稿/西村宏一ほか編『注解不動産法 第9巻 不動産執行』青林書院1989年p646
5 共有物分割(換価分割)についての消除主義の見解
前述の見解は、形式的競売一般を対象としたものでしたが、共有物分割(換価分割)による形式的競売(いわゆる分割型)についても、消除主義が妥当であるという見解が一般的です。
共有物分割(換価分割)についての消除主義の見解
売却条件については、目的物が不動産であると動産等であるとを問わず、消除主義を採り、売却代金につき配当手続を実施すべきである。
配当要求があるときは、これを認めるべきである・・・。
※園尾隆司稿『留置権による競売および形式的競売の売却手続』/『金融法務事情1221号』1989年5月p16
6 実質的に消除主義採用を認めた判例(概要)
平成24年の最高裁判例は、形式的競売において消除主義を採用するという判断をした原審の判断を肯定しました。
実質的に消除主義採用を認めた判例(概要)(※2)
※最決平成24年2月7日
※京都地裁平成22年3月31日(同趣旨)
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)
7 実務における消除主義の採用傾向
実務では、民事執行法の施行直後は消除主義と引受主義が拮抗していました。そかしその後、消除主義を採用する傾向が進み、現在では執行裁判所は原則として消除主義を採用しています。
実務における消除主義の採用傾向(※3)
あ 全国の裁判所の運用の集計(昭和57年頃)
ア アンケート調査の時期と対象
時期=民事執行法施行(昭和55年10月)の数年後(昭和57年まで)まで
対象=地方裁判所の本庁(50庁)及び甲号支部(85庁)
イ 共有物分割以外
共有物分割を除く各種の形式的競売について
消除主義+配当あり、とする庁が最多数を占める
ウ 共有物分割(換価分割)
引受主義+配当実施あり | 3庁 |
引受主義+配当実施なし | 70庁 |
消除主義+配当実施あり | 43庁 |
消除主義+配当実施なし | 13庁 |
※裁判所書記官研修所監『不動産執行における配当に関する研究』1995年p121〜
い 実務の運用
ア 一般的傾向
形式的競売全般(換価型、清算型を問わず)について
実務では一般的に消除主義が選択されている
租税債権による交付要求も認めている
※民事執行法59条準用
※坂本勁夫『不動産競売申立ての実務と記載例 全訂3版』金融財政事情研究会p363〜
※深沢利一著『民事執行の実務(中) 補訂版』新日本法規出版2007年p1106
※『月報司法書士2011年11月』日本司法書士会連合会p24
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p434、441、442(東京地裁民事執行センターの運用)
イ 民事執行の基礎と応用
このような引受説を採用した場合の問題点に対する考慮から、東京地裁執行部では、共有物分割や相続財産の換価のための形式的競売においても、差押えの処分制限効を肯定した上、配当要求の終期を定めた上で民事執行法四九条二項に掲げられた優先権を有する債権者に対して債権の届け出を催告し、消除説を前提に売却条件を定める取扱いを実施している。
※孝橋宏稿『形式的競売における配当実施の可否』/近藤崇晴ほか編『民事執行の基礎と応用 補訂増補版』青林書院2000年p428、429
8 消除主義における配当、弁済金交付、共有者への売却代金交付
消除主義を採用した場合、原則的に、担保権者への配当などが行われます。正確には、通常であれば弁済金交付となりますが、オーバーローンである場合には配当手続となります。ただし、オーバーローンである場合には無剰余取消が適用され、売却が実施されない可能性もあります。
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)
売却代金がどこに流れてゆくか、ということは原則として以上のとおりですが、破産管財人による(担保負担のある不動産の)競売では違います。売却代金の全額を管財人が受け取ります。そして管財人が担保権者(別除権者)に支払うという流れになるのです。
消除主義における配当、弁済金交付、共有者への売却代金交付
あ 原則的手続(共有物分割)
ア 弁済金交付手続
配当等を受けるべき債権者がいない場合、債権者が1人である場合又は債権者が2人以上でも売却代金で各債権者の債権及び手続費用の全額を弁済できる場合には弁済金交付手続を実施する
イ 配当手続
それ以外の場合には配当手続を実施する
ウ 共有者への交付
配当等手続においては、売却代金から手続費用を控除し、配当等を受けるべき債権者(民事執行法87条)に配当等をした後の残った売却代金を、判決等で示されている共有者の分割割合に従った割合で交付することになる。
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』金融財政事情研究会2022年p442
い 特殊な手続(破産管財人への交付)
ア 破産管財人による形式的競売(前提)
破産管財人は、別除権の目的財産を本条(注・破産法184条)1項と同様に民事執行法の定める手続によって換価することができる。
この場合の競売申立ても、・・・形式競売である。
イ 管財人への全額交付
競売が実行されると、執行裁判所は、売却代金の全額を破産管財人に交付する。
※法曹会決議昭和15年7月17日
ウ 担保権消除+担保権者への支払
担保目的財産に設定されている担保権は、競売の実行により消除され、破産管財人は売却代金の交付を受けた後、別除権者に対して確定した被担保債権額を支払い、配当手続は行われない。
※伊藤眞ほか著『条解 破産法 第3版』弘文堂2020年p1279、1280
9 中間用益権の保護のための消除主義の修正
消除主義は、抵当権者から担保の実行の時期を選択する機会を奪うという欠点がありますが、大きなメリットがあるので、前述のように実務では原則的に採用されています。しかし、状況によっては、大きな不都合が生じます。
それは、担保権に劣後する用益権が存在するケースです。具体例としては、抵当権設定登記の後に賃借権の登記(に代わる建物登記や引渡)がなされているケースです。
消除主義をとると、担保権の実行と同じような扱いとなるため、担保権に劣後する(対抗できない)用益権を消滅させざるを得なくなります。競売手続の申立人には優先する(既に対抗力のある)用益権であるにも関わらず、競売によって消滅させられてしまうのです。この結果は著しく合理性を欠くので、このような状況(中間用益権が存在する)場合には例外的に引受主義をとるべきであるという見解もあります。
中間用益権の保護のための消除主義の修正
あ 中間用益権への不利益の容認(一般論・前提)
(注・分割型を検討する前の競売一般の原則論として)
不動産強制競売や担保不動産競売においては、中間用益権者に不利益を課すのはやむを得ないという評価(この評価自体に疑義はありうるものの)に基づいて、中間用益権も売却によって消滅するという規律が採用されているものと考えられる・・・
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1807、1808
い 形式的競売において中間用益権を保護する見解
・・・分割型に関しては、使用収益関係の一方当事者の側の都合で実施するものであるから、売却の便宜の観点から中間用益権を消除することについては、不合理感が否めないように思われる。
そうすると、分割型において中間用益権が存在する場合については、物上負担をすべて引受けとする売却条件で売却するのが妥当であるように思われる。
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1809
う 形式的競売において中間用益権を保護しない見解
ア 平成24年最決の補足意見
(注・事案は共有物分割による形式的競売である)
裁判官岡部喜代子の補足意見は、次のとおりである。・・・
消滅する担保権に劣後する用益権が何らの補償もなく買受人に対抗できなくなるのは、売却を促進するという公的な売却の目的を達するために設けられた制度であって、やむを得ないという外はない。
担保権と用益権の対抗関係は登記簿等によって公示されていることに加え、少なくも民法395条の保護は与えられる点において用益権にも最低限の保護は与えられているともいい得る。
売却の必要性を重視して民事執行法59条の準用を認めることは根拠のあることと考える。
※最決平成24年2月7日(補足意見)
イ 本田晃氏見解(新・裁判実務大系)
換価型の形式的競売において、いわゆる中間用益権者を保護するため引受主義をとるべきことにはならない。
・・・
殊に、前記のような引受主義を採用した際の実務上の難点を考慮すれば、純粋に換価を目的とする競売においても、中間用益権の消滅を肯定する解釈は十分許容されると思われる。
※本田晃稿/山﨑恒・山田俊雄編『新・裁判実務大系 第12巻 民事執行法』青林書院2001年p422
ウ 孝橋宏氏見解(民事執行の基礎と応用)
消除説によった場合には、担保権者は換価を余儀なくされることになるが、消除説にしたがって売却条件が定められた方が、広く買受人を募ることが容易になり、適正に換価が行われることが期待できるから、換価によって担保権者が著しい不利益を被るとはいえないし、むしろ、競売の機会に債権を回収した方が担保権者に有利になる場合が少なくないと考えられる。
そして、競売によって担保権が消滅すると解することが、担保権者の利益にも適うとすれば、担保権者に対抗できない用益権が売却によって消滅するのはやむをえないのではなかろうか。
※孝橋宏稿『形式的競売における配当実施の可否』/近藤崇晴ほか編『民事執行の基礎と応用 補訂増補版』青林書院2000年p429
エ 上田正俊氏見解(注解不動産法)
もっとも、形式的競売の直接の目的が換価にある場合に、用益権について消除主義をとることは換価の目的を超えるものであるとの批判がある(注解民執(5)379頁〔近藤〕)が、用益権についても消除主義を採用することが所有者の利益にもつながるし、最先順位の抵当権に後れて設定した賃借権は、強制競売競売においては無条件に失効する権利であるし、その賃借権が民法602条所定の期間を超えないものであっても執行実務上その実体は法的保護に値しない濫用的なものが多く、消除主義の適用の結果失効するものとしても実質的に不当とはいえない(坂本・前掲514頁)。
そもそも、競売手続による換価を実体法が認めたのは、目的財産の分割・清算等の前提として「換価」すなわち金銭に換えることを競売手続に委ねたものであるが、この「換価」に当たっての売却条件も手続法たる民事執行法に委ねていると考えることもできる。
すなわち、特に引受主義を採用しなければならないのであれば、その旨を実体法に明示して手続法に委ねるべきものであり、各実体規定にそのような規定がない以上、民事執行法が消除主義を採用することを承認しているということができると思われる。
※上田正俊稿/西村宏一ほか編『注解不動産法 第9巻 不動産執行』青林書院1989年p646
え 中間用益権の意味(補足)
中間用益権とは、「ア」と「イ」の中間の順位の登記(対抗力)を有した用益権のことである(中間用益権は担保権に劣後するため売却により効力を失う(民事執行法59条2項))
ア 競売の申立人イ (最先順位の)抵当権
10 二分説の内容と見解の広がり
以上のように、形式的競売における担保権の処理方法としては、引受主義も提唱されていますが、現在の実務では原則的に消除主義がとられています。
この点、形式的競売をひとくくりにせず、2つの種類に分類し、その分類によって異なる処理方法を採用するという見解もあります。これを二分説といいます。
具体的には換価型については引受主義、清算型については消除主義をとるというものです。共有物分割の換価分割による競売は清算型に分類されます。少なくとも共有物分割については単なる消除主義と同じ結果となります。
二分説の内容と見解の広がり
あ 二分説の内容
換価型については引受主義により競売を実施するが、清算型については消除主義により競売を実施する
換価型=共有物分割のための競売・自助売却など
清算型=限定承認者の相続財産の換価のための競売など
い 二分説をとる見解
ア 換価型
配当などを実施することによって債権を満足させることや目的物の物上負担を消滅させることは、純粋に目的物を金銭に換価するという制度目的を超える
引受主義を採用する
イ 清算型
引受主義をとることにより生じる実務上の難点を避けるため、清算型の競売については消除説をとる
目的物から弁済を受けうる者に一括して弁済をすることを目的としているから、消除主義を採用することに理論的な支障はない
※岡部喜代子『限定承認による相続財産換価のための競売手続』司研71号1983年p34、38『注18』
※鈴木忠一ほか『注解民事執行法(5)』第一法規1986年p378〜380
※田中康久『新民事執行法の解説 増補改訂版』金融財政事情研究会1980年p470
※中野貞一郎編『民事執行法概説』有斐閣1981年p314〜316
※福永有利『民事執行法 民事保全法 第2版』有斐閣2011年p238
※竹下守夫ほか『ハンディコンメンタール民事執行法』p489
※中野 貞一郎ほか『民事執行法』青林書院2016年p787〜
※山木戸勇一郎稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p1806参照
う 反対する見解
(換価型について引受主義を採用することについて)
引受主義に反対する見解(前記※4)と同様である
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第5版』きんざい2022年p436
え 二分説を採用する傾向
二分説を採る者は相当数にのぼっている(い)
11 個別事情による引受主義の採用の可能性
以上のように、形式的競売における担保権の処理については、消除主義が主流ではありますが、ほかの見解もあります。
この点、実際には、(前述の中間用益権以外にも)個別的な事情によって例外的な引受主義が採用される可能性もあります。そもそも、当初より提唱された引受主義が否定される理由は、担保権者を害することと、買受人が現れないか、現れても低い入札額となり、共有者(売却代金の交付を受ける者)を害するということであるといえます。そこでこの2者が引受主義を承服する(消除主義の回避を希望する)のであれば、実質的に引受主義の方が合理的であるという判断につながります。事前に金融機関に説明し、理解を求めるなど、丁寧な準備をすれば引受主義の採用が実現することもあり得ます。
実際に担保権者と所有者(共有者)の両方(全員)が引受主義の採用に同意している場合は、書面として執行裁判所に提出(届出)をすれば、裁判所はこのとおりの売却条件を採用することになります。引受主義による売却が実現すれば、無剰余取消の適用で、担保権はカウントされなくなるので(後述)、オーバーローンの不動産を対象とした換価分割が可能となります。
個別事情による引受主義の採用の可能性
あ 担保権温存の合理性
担保権者(金融機関)が、担保権を実行したくない(=担保権を存続させたい)という意向である
担保権者は、引受主義がとられた場合に期限の利益喪失条項を適用しない意向である(=連続競売リスクがない)
詳しくはこちら|形式的競売×担保権への影響|期限の利益喪失
被担保債権の債務者が、将来、約定どおりの返済を継続することが見込まれる
い 共有者の了承
共有者(所有者)が、引受主義(担保権を買受人が引き受ける条件で売却すること)を希望している
う 合意の届出による消除/引受の変更(参考)
利害関係を有する者が次条第一項に規定する売却基準価額が定められる時までに第一項、第二項又は前項の規定と異なる合意をした旨の届出をしたときは、売却による不動産の上の権利の変動は、その合意に従う。
※民事執行法59条5項
12 形式的競売における無剰余取消の適用の有無(概要)
以上で説明した、形式的競売における担保権の処理方法は、無剰余取消の適用(準用)の有無と深く関係しています。無剰余取消の仕組みは、消除主義が前提となっているので、引受主義をとる限り、無剰余取消は適用されないことになるのです。
無剰余取消の適用の有無については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)
本記事では、形式的競売における担保権の処理方法について説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で、結果(判定)は違ってきます。
実際に共有不動産や競売に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。