【無体財産権の準共有の具体例とこれに関する訴訟の当事者適格(共同訴訟形態)】
1 無体財産権の準共有の具体例とこれに関する訴訟の当事者適格(共同訴訟形態)
無体財産権(知的財産権)を複数人がもつ、ということもあります。これを準共有といいます。
詳しくはこちら|準共有の基本(具体例・民法と特別法の規定の適用関係)
本記事では、無体財産権の準共有の具体例と、これに関する訴訟は誰が原告になれるか(当事者適格)、また、複数人が原告となる場合の扱い(共同訴訟形態)について説明します。
2 無体財産権の準共有の具体例
主な権利は、物権と債権ですが、これとは別に無体財産権もあります。代表的なものは著作権や特許権といった知的財産権です。それ以外に、株式・社債や、(仮)換地の使用収益権もあります。
無体財産権を複数人が有する(共有する)こともできます。複数人で有するものが所有権以外である場合には準共有といいます。
無体財産権の準共有の具体例
あ 知的財産権
著作権・特許権・実用新案権・意匠権・商標権
→準共有を認める
い 会社法上の財産権
株式・社債
→準共有を認める
詳しくはこちら|株式の準共有|全体|訴訟・原告適格|分割請求×単位未満株式
う 特殊な権利
換地予定使用収益権
→準共有を認める
詳しくはこちら|仮換地の売買や従前地の分割譲渡による従前地の共有・使用収益権の準共有
※最判昭和43年12月24日
3 準共有の実用新案登録の審決取消訴訟
実用新案権の準共有は認められています。
複数人による登録出願が拒否された実用新案について、審決の取消を求める訴訟は、固有必要的共同訴訟であると判断されています。つまり、準共有者の全員が原告になる必要がある、ということです。
準共有の実用新案登録の審決取消訴訟
あ 出願拒絶→審判請求
実用新案登録を受ける権利が準共有となっている
実用新案登録出願が拒絶された
審判の請求は準共有者全員で行う必要がある
※実用新案法41条、特許法132条3項
共同して拒絶査定不服の審判を請求した
い 審決取消訴訟提起
請求が成り立たない旨の審決を受けた
準共有者の1人が単独で審決取消の訴えを提起した
う 裁判所の判断
審決取消の訴え提起は保存行為ではない
固有必要的共同訴訟である
→単独では提訴できない
※最高裁昭和55年1月18日
※最高裁平成7年3月7日
4 準共有の商標権の無効審決取消訴訟
複数人の登録商標の無効審決に対して、この取消を求める訴訟は、保存行為として、準共有者単独での提訴が認められます。
実用新案権と商標権は権利として似ているのですが、結論は異なっています。
準共有の商標権の無効審決取消訴訟
あ 前提事情
登録商標の無効審決がなされた
→これに対する取消訴訟を提起する
い 審決取消訴訟の性質論
審決取消訴訟について
→商標権の付与の可否を間接的に統制するものである
=直接的に決する手続ではない
→当事者間で合一的に結果を確定する必要性は低い
う 結論
民法の規定が優先される
商標権の消滅を防ぐ保存行為である
準共有者が単独で提訴可能である
固有必要的共同訴訟ではない
※民法252条ただし書
※最判平成14年2月22日
5 準共有の特許権の取消決定の取消訴訟
準共有の特許権について、取消決定の取り消しを求める訴訟も、前述の商標権と同じ考え方で、準共有者が単独で提訴することができます。つまり、固有必要的共同訴訟ではないという判断です。
準共有の特許権の取消決定の取消訴訟
特許権の消滅を防ぐ保存行為である
準共有者が単独で提訴可能である
固有必要的共同訴訟ではない
※民法252条ただし書
※最判平成14年3月25日
6 共有不動産の妨害排除請求との違い(参考)
以上のように、準共有の無体財産権(知的財産権)を否定する処分の取消を求める訴訟は、保存行為として、準共有者単独による提訴が認められる傾向があります。
この点、共有不動産の妨害排除請求(明渡請求や抹消登記請求)も、共有者単独による提訴が認められます。ただし、判例の流れをみると、近年は、共有持分権に基づいて単独で妨害排除請求権を行使できるという理由を示し、保存行為という用語は使わないように変わってきています。
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求)
もともと保存行為とは民法252条ただし書に規定されているのですが、これは本来、共有物の滅失・毀損を防止してその現状を維持する行為のことです。
無体財産権を否定する処分の取消は、問題なくこれに該当しますが、共有不動産の妨害排除請求は、侵害を防止ではなく侵害から回復するものなので、本来の意味の保存行為ではないと考えられるのです。
本記事では、準共有の無体財産権の具体例と、これに関する訴訟の当事者適格(共同訴訟形態)を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に複数人が関与する無体財産権(知的財産権)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。