【滌除(平成15年改正民法施行前)の基本(第三取得者の主張・抵当権者の対応)】
1 滌除の基本
2 滌除の機能
3 滌除権者
4 滌除に対する抵当権者の選択
5 共有持分を取得した者による滌除(概要)
6 滌除の不合理性と廃止
7 平成15年民法改正による抵当権消滅請求への変更
1 滌除の基本
平成15年の民法改正前に滌除という制度がありました。滌除はすでに廃止され,現在では抵当権消滅請求という制度に変更されています。
本記事では,法改正前の滌除の基本的事項を説明します。
2 滌除の機能
滌除の機能は,抵当権の設定されている不動産を取得した者から,抵当権を消滅させるというものです。
<滌除の機能>
あ 滌除権の行使
抵当不動産を第三者が取得した場合
例=抵当権が付いたままで不動産を購入した
第三取得者(買主)は抵当権者に対して滌除(てきじょ)をすることができる
具体的には,第三取得者が不動産の評価額(※1)を主張する
い 機能(結果)
次のいずれかとなる=いずれにしても抵当権が消滅する
ア 第三取得者がこの金額(評価額)を支払い,抵当権が消滅するイ 抵当権者が抵当権を実行する
3 滌除権者
滌除を行うことができる者は,抵当不動産を購入した者(買主)のような第三取得者です。譲渡担保権者は,実行する前には滌除をすることができません。
<滌除権者>
あ 基本
滌除をすることができるのは,抵当権が設定された不動産(抵当不動産)の第三取得者である
い 譲渡担保権者
ア 譲渡担保の特徴(前提)
譲渡担保権は,実行しない限り実質的な所有権の移転は生じない
詳しくはこちら|譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)
イ 滌除の可否(判例)
譲渡担保権者は,担保権を実行して確定的に抵当不動産の所有権を取得しない限り,滌除をすることはできない
(民法378条の滌除権者である第三取得者に当たらない)
※最高裁平成7年11月10日
4 滌除に対する抵当権者の選択
評価額の主張に対する抵当権者の対応についてまとめます。
<滌除に対する抵当権者の選択>
あ 抵当権者の選択
抵当権者は次の『い・う』のいずれかを選択する
い 承諾
抵当権者が(前記※1)の評価額を承諾する
→買主が代価弁済をする
→抵当権は消滅する
う 増加競売の申立
抵当権者が担保権を実行する
=競売を申し立てる
売却の最低額は(前記※1)の評価額の1割増とする
え 増加競売|買取義務
増加競売において
入札する者がいなかった場合
→抵当権者が買い取る義務がある
金額=(前記※1)の評価額の1割増
5 共有持分を取得した者による滌除(概要)
滌除権を行使できるのは,抵当不動産を取得した者(第三取得者)です。この点,抵当不動産の共有持分だけを取得した者が滌除権を行使できるかどうか,という解釈論があります。平成9年判例が否定する解釈に統一しました。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分を取得した者による滌除の可否(平成9年判例=否定説)
6 滌除の不合理性と廃止
滌除の制度は廃止されました。
廃止の経緯についてまとめます。
<滌除の不合理性と廃止>
滌除の制度について
→抵当権者に過酷な負担が生じる
ギャンブル性が強い
→平成15年民法改正によって廃止された
代わって抵当権消滅請求の制度が導入された
詳しくはこちら|抵当権消滅請求の基本(対象者・評価額の提示・抵当権者の対応)
7 平成15年民法改正による抵当権消滅請求への変更
法改正により滌除から抵当権消滅請求に制度が変わりました。
これについて整理しておきます。
<平成15年民法改正による抵当権消滅請求への変更>
あ 滌除と抵当権消滅請求の比較
時期 | 制度の名称 | 抵当権者の対抗策 |
改正前 | 滌除 | 増加競売 |
改正後 | 抵当権消滅請求 | (通常の)競売 |
い 抵当権消滅請求(参考)
抵当権消滅請求については別の記事で説明している
詳しくはこちら|抵当権消滅請求の基本(対象者・評価額の提示・抵当権者の対応)
本記事では,滌除の基本的事項を説明しました。
この点,滌除は廃止され,抵当権消滅請求の制度が導入されていますが,共通する解釈もあります。いずれにしても個別的事情により解釈や最適な対応は違ってきます。
実際に抵当権や共有に関わる問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。