【3大離婚原因の全体と『性格の不一致』の誤解】
1 現実的な離婚原因の判断要素の全体
2 3大離婚原因
3 3大離婚原因以外=その他の事情の扱い
4 『性格の不一致』と離婚原因
5 『性格の不一致』という用語による誤解
6 別居の長期化→3大離婚原因成立
1 現実的な離婚原因の判断要素の全体
離婚原因は民法上5つが規定されています。
詳しくはこちら|離婚原因の意味・法的位置付け
『不貞』についてはストレートに該当するケースも多いです。
しかし,他の離婚原因は直接該当することが少ないです。
本記事では,離婚原因を現実的な種類に分類します。
実務的な判断方法・基準について説明します。
まず,現実的な離婚原因の全体的な分類をまとめます。
<現実的な離婚原因の判断要素の全体>
あ 3大離婚原因
1つの事情で『離婚原因』として認められるもの
本サイトでは『3大離婚原因』と呼ぶ(後記※1)
ア 不貞行為イ 暴力ウ 長期間の別居
い その他の事情(※2)
ア 一般的別居
別居・家庭内別居の有無
別居期間
イ 会話の有無ウ 性生活の有無エ 口論・喧嘩の程度オ 双方の感情,修復の意思や行動の有無カ 子供に関する事情
未成熟子の有無
子供との関係
子供の離婚についての意見
キ 訴訟態度
※二宮周平ほか『離婚判例ガイド 第2版』有斐閣p57〜
『仲が悪くなった』事情には幅広いものがあります。
その中で影響が大きいものは3つだけなのです。
この『3大離婚原因』については次に説明します。
2 3大離婚原因
1つの事情だけで離婚が認められやすいものが3つあります。
この3大離婚原因をまとめます。
<3大離婚原因(※1)>
あ 不貞行為
ストレートに条文上の離婚原因に該当する
※民法770条1項1号
詳しくはこちら|不貞行為は離婚原因|基本|破綻後の貞操義務・裁量棄却・典型的証拠
い 暴力
一般的に『婚姻を継続し難い重大な事由』に該当する
※民法770条1項5号
『言葉の暴力』も含む
ただし,一定のインパクトがないと認められない
詳しくはこちら|身体的暴力,精神的暴力は離婚原因に認められやすい;3大離婚原因
う 長期間の別居
別居期間が長期間にわたる場合
→『婚姻を継続し難い重大な事由』に該当する
※民法770条1項5号
詳しくはこちら|長期間の別居期間は離婚原因になる
3 3大離婚原因以外=その他の事情の扱い
3大離婚原因以外の離婚原因もあります(前記)。
『その他』と言えるような事情です。
『その他の事情』はなかなか離婚原因として認められません。
これについてまとめます。
<3大離婚原因以外=その他の事情の扱い(※3)>
あ 3大離婚原因以外の事情
3大離婚原因以外にも離婚原因となる事情がある(前記※2)
要するに,仲が悪い状況やその理由である
い 一般的な判断の傾向
一般的な夫婦の関係として悪化することは当然生じる
→『仲が悪くなること』自体は当然想定されている
→通常は離婚原因にはならない
う 離婚が認められる状況
夫婦関係の悪化が常識的範囲を越した場合
→『婚姻関係を継続し難い重大な事由』が認められる
この状況では3大離婚原因に該当することが多い
え 判断の傾向のまとめ
3大離婚原因に至らない『その他の事情』の場合
→離婚原因として認められない傾向が強い
お 『性格の不一致』というネーミング
3大離婚原因以外の事情について
→『性格の不一致』と呼ぶことがある(後記※4)
元々夫婦生活は一定の対立・不仲があることを前提としています。
夫婦喧嘩が一切ない夫婦というものは通常ありません。
もちろん,仲が悪いから2人で納得して協議離婚をすることはできます。
この点,離婚原因は裁判所が本人の意向に反して離婚を成立させる要件です。
離婚原因として裁判所が認めるハードルは高いのです。
4 『性格の不一致』と離婚原因
『性格の不一致』という用語がよく使われています。
これについての誤解が多いので注意が必要です。
まずは離婚原因に該当するかどうかの判断の傾向をまとめます。
<『性格の不一致』と離婚原因(※4)>
あ 『性格の不一致』という用語
実務上『性格の不一致』という言葉が使われている
家庭裁判所の窓口にある書式において
→『性格の不一致』というチェックボックスがある
い 『性格の不一致』の通常の扱い
性格が合わないので仲が悪いことについて
→一般的な夫婦の関係として生じることである
→『3大離婚原因以外のその他の事情』と言える
→通常は離婚原因として認められない(前記※3)
5 『性格の不一致』という用語による誤解
『性格の不一致』という用語の誤解が多いです。
誤解とそのメカニズムを整理します。
<『性格の不一致』という用語による誤解>
あ 誤解の発生
『性格の不一致』という用語は誤解されることが多い
用語の存在から次のような誤解がよく生じている
い ありがちな誤解の内容
『性格の食い違い』があれば離婚が認められる
※注意・これは誤解です
う 実務的な正しい理解
『性格の不一致』という主張の意味
=『3大離婚原因ほどの強い事情がない』
離婚を請求する方が『性格の不一致』を強調する状況があります。
『大した事情はない』というように受け取られる可能性があります。
『その他』の事情しかない,と思われてしまいます。
いわば『NGワード』とでも言えましょう。
用語が存在することにより『強い事情だ』という誤解が拡がっています。
注意が必要です。
6 別居の長期化→3大離婚原因成立
『その他の事情』しかないと離婚原因が認められにくいです。
要するに『相手が拒否する限り離婚できない』状態となります。
では,この状態が際限なく続くかというとそうではありません。
<別居の長期化→3大離婚原因成立>
あ その他の事情の扱い
3大離婚原因がない場合
→離婚原因として認められない傾向が強い
い 現実的な状況
夫婦には,次の状況が継続する
ア 戸籍上は婚姻関係が継続しているイ 別居している
う 3大離婚原因成立
長期間が経過すると『長期間の別居』に至る
→『3大離婚原因』の1つである(上記※1)
→離婚が実現する状態になる
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