【有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)】
1 有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
不貞(不倫)を行った配偶者が離婚を請求したケースでは、判例が示した3つの要件(要素)で判断します。
本記事では、この有責配偶者からの離婚請求の判断基準について説明します。
2 有責行為(有責性)の内容→不貞が多い
まず最初に、有責(性)の内容を押さえておきます。ほぼすべてのケースで不貞(不倫)によって婚姻関係が破綻した、ということで、有責(行為)としています。本記事でも基本的に不貞を前提に説明します。
ただ、必ずしも男女関係に限りません。嫌がらせ行為の程度がひどい場合には有責と認められることもあります。
有責行為(有責性)の内容→不貞が多い
他の嫌がらせ行為が有責行為として認められることもある
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求を認めなかった事例(裁判例)の集約
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p67
3 有責配偶者の離婚請求の判例の歴史→認める方向性(概要)
本記事では、現在実務で使われている判断基準として、基本的に昭和62年の判例の理論を説明します。
ところで、昭和20年代は、有責配偶者からの離婚請求を否定するという判例しかありませんでした。その後徐々に、新たな判例によって、例外的に離婚を認める範囲が拡がってきたのです。このような判例の変化(歴史)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求に関する判例の歴史(否定から肯定への変化)
4 有責配偶者からの離婚請求を認める基準(3要素)
(1)昭和62年最判の判断基準(引用)
有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準を立てた昭和62年最判そのものを最初に確認しておきます。
昭和62年最判の判断基準(引用)
あ 判断基準(3要素)
・・・有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。
い 理由
けだし、右のような場合には、もはや5号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。
※最判昭和62年9月2日
(2)有責配偶者からの離婚請求を認める3要素の整理
前記の判例の内容は少しわかりにくいので、3要素を箇条書きにまとめてみます。
有責配偶者からの離婚請求を認める3要素の整理(※1)
あ 長期間の別居
夫婦の別居期間が『ア・イ』との対比において相当の長期間に及ぶ
ア 両当事者の年齢イ 同居期間
い 未成熟子の不存在
夫婦間に未成熟の子が存在しない
う 特段の事情の不存在(苛酷条項)
離婚の実現が著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がない
特段の事情の例示=配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる
この3つのすべてが必要とは限りません(後述)。その意味で、3要件ではなく3つの要素と呼ぶことにします。
(3)有責配偶者からの離婚請求を認める3要素の内容(概要)
前記の3要素(要件)のそれぞれの項目はシンプルな記述です。当然ですが、解釈によって実際の判断は大きく違ってきます。
それぞれの項目の内容(解釈)についてはそれぞれ別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち長期間の別居の判断
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち未成熟子の不存在の要件の判断
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち特段の事情(苛酷条項)の判断
(4)3要素(要件)の位置付け→すべてが必要ではない方向
判例は、前記のように3要素(要件)を示しています。しかし、この3つの関係は明示していません。
つまり、3つの事項すべてに該当しない限り離婚請求を認めないのか、そうではなく、総合的に一定の水準に達していれば認めるのか、という2とおりの解釈です。
これについて、統一的見解を示す判例はありません。現在の実務では、3つの事項のすべてが揃うことが必須ではない、という見解が主流です。
3要素(要件)の位置付け→すべてが必要ではない方向
あ 2つの見解(2重の基準)
有責配偶者からの離婚請求を認める3要素(前記※1)の位置付けについて
『う・え』の2とおりの判断が併存する
2重の基準状態になっている
※高橋朋子稿『有責配偶者の離婚請求』/『別冊ジュリスト225 民法判例百選Ⅲ 親族・相続』有斐閣2015年p31
い 実務の傾向
実務では『え』の見解がとられる傾向がある
※『月報司法書士2016年8月』日本司法書士会連合会p68
う 3要素すべてが必要という見解
3要素を部分的にしか充足しない場合
→離婚を認めない
※福岡高裁平成16年8月26日
※大阪家裁平成18年8月30日
※東京高裁平成19年2月27日
※東京高裁平成20年5月14日
※大阪家裁平成21年3月27日
※大阪家裁平成21年11月10日
え 3要素の総合判断をする見解
3要素を部分的にしか充足しない場合でも
→離婚を認める
=3要素を基礎として総合的に判断する
※那覇地裁沖縄支部平成15年1月31日
※福岡高裁那覇支部平成15年7月31日
※大阪高裁平成19年5月15日
※最高裁平成16年11月18日
(5)判定ハードル(離婚否定限定レベル)→高い
いずれにしても、最終的には3要素を総合的に評価し特段の事情ありと判定すれば離婚を否定する、ということになります。逆に特段の事情があるとまではいえないと判定すれば離婚を認めるということになります。まず形式的に、原則は離婚を認める、です。次に例外として離婚を否定するケースですが、昭和62年最判の判決(基準)の文言に着目します。極めて過酷・・・著しく社会正義に反する・・・という言葉が使われています。強く限定する言葉が2つ重ねて使われています。最高裁判例が示す判例でこのように強い限定ワードが重複するのは珍しいです。つまり最高裁としては、少しくらい過酷、社会正義に反しても離婚は認める、逆に離婚を否定するのは過酷レベル、反社会レベルが特に強いケースに限定する(狭き門)という意図であると読めるのです。
判定ハードル(離婚否定限定レベル)→高い
あ 判例解説(前提)
(注・判例解説について)
「有責配偶者からの離婚請求であっても、相当長期間の別居があり、夫婦間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって極めて苛酷な状態に置かれるなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情のない限りは許容される」との要約は、最高裁判所判例集、また『最高裁判所判例解説民事篇』〔法曹会〕の「判決要旨」をつづめたものであるが、こうした切り口の大きな判例では、前記のような「判例要旨」をぎりぎりまで正確に読み取る(分析する)ことが大切である。
い 強い限定ワードの重複→レア
「極めて苛酷な状態に置かれるなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情」という部分に顕微鏡を当ててほしい。
「極めて苛酷な」、「著しく社会正義に反する」と重ねて強い言葉で限定する要旨はかなり珍しい(判決は、この点に関する『最高裁判所判例解説民事篇』の記述を、「争点についての判断」二3の最後の部分で引用していることに留意。「ここがかなめだ」ということである)。
※瀬木比呂志稿『ケースブック民事訴訟活動・事実認定と判断』/『判例タイムズ1307号』2009年12月p26
5 実務的な判断の枠組み(概要)
有責配偶者からの離婚請求の判断基準として判例は3要素を示していますが、それぞれの項目の判断や総合的な評価(前記)というプロセスが必要なので、数式のように具体的事案について明確な結論が出るわけではありません。
実務では、別居期間を軸にして大雑把に判断することがよくあります。10年の別居期間が目安といえます。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求の3要件のうち長期間の別居の判断
ただし、これはあくまでも精度の低い判断です。最終的には細かい事情の主張や立証で判断は違ってきます。
6 破綻後の男女関係と有責性(否定)
以上の説明は、主に不貞(不倫)を行った有責性のある配偶者が離婚を請求する、ということが前提でした。
ところで、婚姻関係が破綻した後の男女関係については、有責(不貞)にはあたりません。
そこで、有責配偶者による離婚請求という扱いではなくなります。
なお、男女関係自体の責任としても、不法行為ではない(慰謝料が発生しない)ということになります。
詳しくはこちら|不倫の慰謝料の理論(破綻後・既婚と知らないと責任なし・責任を制限する見解)
破綻後の男女関係と有責性(否定)
あ 破綻と有責性の関係
破綻後に男女関係が生じた場合
有責配偶者に該当しない
=有責配偶者の離婚請求を否定する法理を適用しない
※最高裁昭和46年5月21日
※東京高裁昭和57年12月23日(同旨)
※東京高裁昭和58年8月4日(同旨)
い 破綻の意味や判断基準(参考)
7 有責配偶者の離婚請求を判断した実例(裁判例・概要)
有責配偶者からの離婚請求についての判断基準は、以上のように、複雑で、具体的事案について、結論を明確に判断できない傾向があります。実際には、多くの過去の実例(裁判例)がとても参考になります。
有責配偶者からの離婚請求を認めた事例と認めなかった事例を分けて、それぞれ別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求を認めなかった事例(裁判例)の集約
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求を認めた事例(裁判例)の集約
本記事では、有責配偶者からの離婚請求を認めるかどうかの判断基準を説明しました。
実際には、個別的な細かい事情や、主張と立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に有責配偶者の離婚請求に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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