【有責配偶者の離婚請求を認めた事例(裁判例)の集約】
1 有責配偶者の離婚請求を認めた事例(裁判例)の集約
不貞(不倫)をした者が離婚請求をしても、一定の要件をクリアしないと離婚は認められません。判例で判断基準が示されていますが、これで明確に判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)
そこで、実例と裁判所の判断をみた方が理解しやすいです。
本記事では、有責配偶者の離婚請求を認めた裁判例をいくつか紹介します。
つまり、離婚請求をする者が有責であったけれど離婚が否定されなかったというものです。有責”であることによるペナルティが効かなかった事例といえます。
2 別居15年半・妻53歳→夫の離婚請求認容
有責配偶者からの離婚請求であっても、別居期間が10年を超えると離婚が認められる傾向があります。
この裁判例は、別居期間が15年以上あったので、この目安どおりに、有責配偶者からの離婚請求であったけれど離婚を認めました。
別居15年半・妻53歳→夫の離婚請求認容
あ 形式的状況
特段の事情を否定した事例(離婚認容)
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
約5年 | 15年6か月 | 61歳 | 53歳 |
い 実情
妻は別居中、夫のマンションに居住していた
妻は夫が支払う婚姻費用によって生活してきた(強制執行による)
う 結論
特段の事情はない
=夫の離婚請求を認めた
※最高裁平成元年9月7日
3 別居9年8か月・夫にも有責性あり→妻の離婚請求認容
妻が不貞をしたケースで、妻が離婚を請求しました。離婚請求の相手方(夫)にも、暴力などの有責性がありました。
夫婦の両方に有責性がある(双方有責)ケースのうちで、離婚を請求する側の有責性が大きい場合には、有責配偶者からの離婚請求の枠組みを適用すること方法と、(ストレートには)この枠組みを使わない方法があります。
詳しくはこちら|夫婦の両方が有責(双方有責)であるケースの離婚請求の判断枠組み
ここでは、有責配偶者からの離婚請求の枠組みを適用した判例を紹介します。
別居期間がほぼ10年に達していたことなどから、裁判所は結論として離婚請求を認めました。
別居9年8か月・夫にも有責性あり→妻の離婚請求認容
あ 形式的状況
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
17年2か月 | 9年8か月 | 53歳 | 52歳 |
未成熟の子はいない
い 有責性
別居前に2年間、妻は不貞をしていた
→妻(有責配偶者)が離婚請求をした
夫にも暴力や嫌がらせがあった
→有責性が少しある
う 婚姻費用の不払い
妻は教育費の一部を支出したほかは、婚姻費用を一切負担していない
え 結論
妻の離婚請求を認めた(上告棄却)
※最高裁平成5年11月2日
4 別居8年・妻による仮処分→夫の離婚請求認容
別居期間だけをみると、8年間なのでやや不足気味です。しかし妻の方が仮処分を行っていました。決定的な対立している状況といえますし、理論的にも離婚することが前提です。そこで有責配偶者からの離婚請求ではありますが、離婚が認められました。
別居8年・妻による仮処分→夫の離婚請求認容
あ 形式的状況
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
23年 | 約8年 | 52歳 | 55歳 |
未成熟の子はいない
い 婚姻費用の不払いと仮処分
ア 昭和61年2月頃まで
月60万
イ 昭和61年2月から
月35万
ウ 昭和62年1月から
妻が不動産について処分禁止の仮処分を申し立てた
夫は仮処分を受けたことに立腹した
支払をしなくなった
エ 昭和63年5月から
婚姻費用分担調停が成立した
→月20万となった
う 形式的な結論
上告を棄却した
原審に差し戻した
え 実質的な結論
ア 差戻しの趣旨
『3要件を満たさない』だけで棄却するべきではない
イ 実質的な判断内容
妻が夫所有の不動産に処分禁止の仮処分をかけた
→離婚を前提とする行動である
→離婚請求を認める方向性の判断である
※最高裁平成2年11月8日
5 別居6年・自宅の財産分与→夫の離婚請求認容
別居期間が6年であり、目安である10年に達していません。しかし、夫は自宅を妻に譲渡していました。残る住宅ローンも夫が完済することを約束していました。
このような経済的なフォローが効いて、有責配偶者からの離婚請求ではありますが、離婚が認められました。
別居6年・自宅の財産分与→夫の離婚請求認容
あ 形式的状況
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
22年 | 6年 | 51歳 | 50歳 |
い 実情
妻は日本語教師である
子2人は成人している
夫は妻居住の自宅建物を財産分与し、残ローンも完済を約束している
う 結論
特段の事情はない
=夫の離婚請求を認めた
※東京高裁平成14年6月26日
6 扶養的財産分与と慰謝料2500万円→夫の離婚請求認容
別居期間は36年と長いですが、夫婦ともに70歳以上でした。この状況で離婚が実現すると、夫は裕福であることと比べて、妻は経済的に辛いことになります。
そこで、裁判所は、扶養的財産分与(離婚後の生活費の援助)として1000万円と慰謝料として1500万円の支払義務を認めるとともに離婚も認めました。
夫の経済力が高かったために、実質的な離婚と引き換えに払う金銭も大きくなったのです。
扶養的財産分与と慰謝料2500万円→夫の離婚請求認容
あ 形式的状況
同居 | 別居 | 夫 | 妻 |
12年 | 約36年 | 70歳以上 | 70歳以上 |
未成熟の子はいない
い 実情
夫は会社の代表取締役であり経済的に安定している
事前に夫が所有する建物を売却し、妻の生活費にあてた
う 財産的給付(裁判所の判断)
ア 扶養的財産分与1000万円
妻の平均余命の期間10年間について月10万円として算定した
イ 慰謝料1500万円
え 離婚の結論(裁判所の判断)
『う』の支払を命じるとともに
夫の離婚請求を認めた
※東京高裁平成元年11月22日(最高裁昭和62年9月2日の差戻審)
7 妻による自宅鍵の交換→夫の離婚請求認容(概要)
別居期間が1年半と、とても短いのに、特殊な事情があったために離婚が認められた事例もあります。
妻(離婚請求の相手方)が、夫婦で同居していた自宅の玄関の鍵を無断で交換してしまったのです。つまり夫を強制的に締め出したということです。このような事情が考慮されて、夫(有責配偶者)からの離婚請求が認められました。
詳しくはこちら|妻の自宅鍵の交換により有責の夫の離婚請求を認めた裁判例
8 フランス人は自由奔放→妻の離婚請求認容(概要)
国民性が、有責配偶者の離婚請求を認める方向に働いたという変わった裁判例もあります。国民性によって離婚できるかどうかが変わるということなので、強い批判もあります。
フランス人は自由奔放→妻の離婚請求認容(概要)
あ 事案の概要
夫は妻に対して実力行使に及んだことがあった
フランス人の妻が別居後フランスに戻った
妻はフランス人男性複数人と不貞に及んだ
妻が離婚請求訴訟を提起した
い 裁判所の判断
フランス人は自由奔放な文化がある
夫にも破綻の有責性がある
→離婚請求を認めた
※東京高裁平成26年6月12日;不倫は文化判決
詳しくはこちら|フランス人の有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例
9 別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた(概要)
通常の別居とは違う事情が問題となった裁判例があります。別居中に夫と妻が継続的に会っていたのです。この事例では、夫婦の交流は世間体をつくろうための形式であり、愛情がないことから、結果として通常の別居と同じ扱いになりました。
別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた(概要)
あ 夫の社会的地位と不貞(有責性)
夫は高い社会的地位を持ち、収入も大きかった
夫が妻以外の女性と同居していた(有責行為)
(形式的な)別居期間が20年以上に達していた
夫はたまに妻の居住する建物を訪問し泊まっていた(調停申立後も継続)
い 愛情なし
夫婦の交流は世間体に配慮した形式的なものであった
う 結論
夫婦関係の破綻(長期間の別居)があるといえる
夫は相応の経済的な負担を提示している
→離婚請求を認めた
※大阪高裁平成4年5月26日
詳しくはこちら|別居中に夫婦の交流があったが破綻を認めた裁判例(有責配偶者の離婚請求認容)
10 有責配偶者の離婚請求を認めなかった裁判例(概要)
以上は、有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例でした。逆に離婚請求を認めなかった裁判例については、別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|有責配偶者の離婚請求を認めなかった事例(裁判例)の集約
本記事では、有責配偶者からの離婚請求を認めた裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な細かい事情や、主張と立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に有責配偶者の離婚請求に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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