【出資法の『不特定かつ多数の者』の解釈論】

1 『不特定かつ多数の者』の規定と基本的解釈論
2 『不特定』に関する立法者コメント
3 不特定多数への勧誘と結果的な出資者の数
4 『不特定多数』親族の混在(概要)
5 『不特定』と団体所属員

1 『不特定かつ多数の者』の規定と基本的解釈論

出資法の出資金・預り金の規制は,いずれも『不特定かつ多数の者』からの資金受入れが対象となっています。
実際には資金の受入れ対象者が『不特定・多数』と言えるかどうかがはっきりしないことがあります。
本記事では『不特定・多数』の解釈論を説明します。
まず最初に『不特定・多数』の規定そのものと解釈のうち基本的部分だけを整理します。

<『不特定かつ多数の者』の規定と基本的解釈論>

あ 条文の規定

ア 『出資金』の規定の一部 →『不特定且つ多数の者に対し』
※出資法1条
イ 『預り金』の定義の一部 →『不特定かつ多数の者からの金銭の受入れ』
※出資法2条2項
※表記について
1条,2条2項で『且つ/かつ』と表記が異なる
本記事では『かつ』に表記を統一する

い 解釈論の基礎

立法趣旨=一般大衆の保護である
→『不特定かつ多数の者』は,一般大衆を意味する
詳しくはこちら|出資法の『出資金・預り金』規制の立法趣旨と旧貸金業取締法との関係

い 判断基準

次の2つに該当する者が『不特定かつ多数の者』である
ア 集金者と個人的なつながりはない 例;親族,知己
イ ある程度以上の複数の者 ※津田実『出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律』曹時6巻7号p25

上記では『個人的なつながり』『ある程度以上の複数』という基準となっています。逆に,特定の団体のメンバーが『特定』と言えるための判断基準でも同様の要素が使われます(後記※1)。
いずれにしても,明確に判断できないというケースもあります。『不特定』の解釈については説明を続けます。

2 『不特定』に関する立法者コメント

『不特定』の解釈・意味について,この規定を作った国会でのコメントが参考となります。立法者のコメントとその説明をまとめます。

<『不特定』に関する立法者コメント>

あ 立法関係者の発言

ア 発言者 田宮重男検事
立法に参画した
後の司法研修所長である
イ 国会における発言の内容 『出資の勧誘の場合には,このような勧誘を受けるのも当然であるといった関係が特に認められない限り,特定の者とはいい得ないであろう』
※金融法務事情39号p2

い 説明的な解釈論

『預金なさいという勧誘を受けるのも当然であるといった関係が預け主と預り主の間になければ,不特定の者からの預り金と認定される』
※小田部胤明『出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律と判例の解説』東洋企画p73

3 不特定多数への勧誘と結果的な出資者の数

『不特定・多数』についての判断が問題となるケースは多いです。これに関して,勧誘対象は多数だけど出資を決断した人数は少ない,というケースがありました。結果的に裁判例では『不特定・多数』を認めています。資金を受け入れる目的で判断するという解釈です。

<不特定多数への勧誘と結果的な出資者の数>

あ 資金受入行為の目的

金銭受入行為の目的について
→不特定かつ多数の者である必要がある
※最高裁昭和36年4月26日

い 結果的な出資者の数

結果として出資した者について
→不特定かつ多数の者であることは必要ではない
※広島高裁昭和30年4月2日
※高松高裁昭和32年7月19日
※東京高裁昭和35年11月21日
※中空壽雅/『判例経済系法体系第2巻』日本評論社p131
※武藤眞朗/『判例経済系法体系第2巻』日本評論社p102
※稲葉一次『出資金と預り金4 出資法第1条と第2条の解釈を主として』捜研34巻10号p52〜

4 『不特定多数』親族の混在(概要)

資金提供者の一部に親族が含まれていたケースがあります。親族以外だけでも不特定・多数に該当することは問題ありません。犯罪の範囲として『親族の資金提供も含むかどうか』という解釈論があります。判例は親族も含めて犯罪の範囲になると判断しています。

<『不特定多数』親族の混在(概要)>

たまたま資金提供者の中に少数の親族を含んでいた場合
→親族を含む全員からの集金について
『預り金の受入れ』行為に該当する
※最高裁昭和36年4月26日
詳しくはこちら|資金受入れの対象者の限定と『不特定多数』の判断に関する事例

5 『不特定』と団体所属員

『不特定』の判定について見解が分かれる典型は特定の会員限定というものです。つまり,特定の団体に所属する者だけが資金拠出をできる,というものです。
これだけを考えると,限定されているので『特定』している,つまり『不特定』ではないと言えます。しかし,現実には,メンバーの流動性が高く『特定』していないと判断されるケースも多いです。

<『不特定』と団体所属員(※1)

あ 問題の所在

資金提供者が特定の団体に所属する者に限られている場合
例;構成員・会員
→『不特定』の者に該当するかどうか

い 『不特定』であるケース

次の2つに該当する場合
→『不特定』と認められる=犯罪成立
ア 所属員が相当多数であるイ 個人的つながりなどはない 個別的な認識もないという意味である

う 『不特定』ではないケース

次の2つに該当する場合
→特定されている
=『不特定』ではない=犯罪不成立
ア 集金者と団体所属員に特殊な個人的つながりがある 例;親族・知己(親友や知人という意味)
イ 団体所属員がごく小範囲の者に限られている ※福岡高裁昭和37年7月11日

メンバーが限定していることにより『不特定』に該当するかどうかが判断されたケースは多くあります。裁判例については別にまとめてあります。
詳しくはこちら|資金受入れの対象者の限定と『不特定多数』の判断に関する事例

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