【資金受入れの名目と『預り金』判断に関する事例】
1 借入金名目と『預り金』判断
2 出資金・融資金名目と『預り金』判断
3 利益分配金名目と『預り金』判断
4 株式運用への出資金名目と『預り金』判断
5 株主相互金融方式の貸付・払戻しと『預り金』判断
1 借入金名目と『預り金』判断
『預り金』に該当するかどうかの判断が分かれるケースはとても多いです。
資金提供の方式・名目が,典型的な預り金とは異なるような状況が典型です。
本記事では,資金提供の名目と『預り金』該当性について判断がなされた裁判例を紹介します。
最初に『借入金』という名目の資金提供が『預り金』と認められた裁判例を紹介します。
<借入金名目と『預り金』判断>
あ 『預り金』と消費貸借の性質の関係
金銭の受領が消費貸借の性質を有することについて
→『預り金』の該当性の判断に影響しない
い 事案についての判断
借入金名義を用いて金銭を受け入れていた
→法的には金銭消費貸借契約なので自動的に『元金保証』を含む
→『預金と同様の経済的性質を有する金銭の受入れ』に該当する
=預り金に該当する
※名古屋高裁昭和56年11月16日
2 出資金・融資金名目と『預り金』判断
『出資金・融資金』という名目でも『預り金』に該当すると判断した判例を紹介します。
<出資金・融資金名目と『預り金』判断>
あ 事案
貸金業者が『出資金』の名目で資金提供を受けた
受け入れた期間=約2年間
資金提供者=74名
受入金額=合計608万3000円
利率=月1.5〜2%程度
い 『預り金』の判断基準
元本額orそれ以上の額を弁済期に返還する旨を合意した
不特定多数の者から金銭を受け入れた
→貸金業取締法の『預り金』に該当する
う 出資金・融資金の名目の影響
『出資金・融資金』などの名義を用いたとしても判断に影響はない
※最高裁昭和31年8月30日;旧貸金業取締法について
3 利益分配金名目と『預り金』判断
出資に対する利益分配金の支払について『預り金』と認められた裁判例を紹介します。
<利益分配金名目と『預り金』判断>
あ 事案
A(被告人)はBから金銭を受領した
Aは4か月で元金の7%の金銭を支払っていた
い 被告人の主張
支払った金銭は利益分配金である
利息ではない
う 裁判所の判断
一定期間につき元本額に対する一定の率で金銭が支払われる約定があった
→預金と同様の経済的性質を有する
→『預り金』に該当する
※東京高裁昭和61年6月24日
4 株式運用への出資金名目と『預り金』判断
投機的な資金運用で使うための資金提供が問題となったケースです。株式運用への出資金という名目の資金提供が『預り金』と判断された裁判例です。
<株式運用への出資金名目と『預り金』判断>
あ 個人的な株式運用
Aは,自己資金を株式の売買により運用していた
利益を出していることが口コミなどで拡散した
い 出資金としての受入
Aは,不特定多数の者から出資金として金銭・保証小切手を預かった
Aは資金提供者に,月2〜20%程度の利息支払を約束した
Aはこの資金を元手に株式の運用をした
損失が生じ,出資者に対する配当金の支払ができなくなった
う 『預り金』の判断
預り金に該当する
※京都地裁平成5年9月20日
5 株主相互金融方式の貸付・払戻しと『預り金』判断
名目が『貸付と払戻し』でも『預り金』と判断されることは多いです。資金提供が特定の団体メンバーの範囲内で『相互金融』という名目で行われたケースがあります。この裁判例では『預り金』に該当すると判断されています。また同時に,この裁判例では『不特定』の判断についても示されています。
<株主相互金融方式の貸付・払戻しと『預り金』判断>
あ 『株主』の属性
一定額を『株金払込』として提供した者が『株主』となる
『株主』は,株式の所有を伴うものではない
=法律上の『株式』『株主』ではない
い 『株主』が受ける利益
ア 『株主』に限って,会社が金銭の貸付をする(※1)イ 満期に会社が利息を付けて払い戻す(※2)
い 資金が返還される性質
仕組み全体は次のような性質と言える
一定額の資金を提供する
→後日金銭or代替物で返還される
う 『不特定』の判断
『株主』は資金提供が必要な点以外に制限・限定がない
→不特定多数の者を対象とするものと言える
え 『預り金』の判断
『あ』の仕組みは,預金・貯金・掛金と同じ経済的性質を有する
→預り金に該当する
※東京高裁昭和30年7月14日;※1・旧貸金業取締法について
※東京高裁昭和42年6月7日;※2・旧貸金業取締法について