【遺言作成が特に望まれる事情】
1 一定の状況にある場合は遺言作成が推奨される
遺言作成は義務ではありません。
遺言がないまま相続となった場合は、法定相続となります。
※民法900条
通常、相続人が集まって、遺産分割協議をすることになります。
話し合いによって、具体的な承継方法を決めるということです。
※民法907条
詳しくはこちら|相続手続全体の流れ|遺言の有無・内容→遺産分割の要否・分割類型・遡及効
遺産分割(協議)がうまくいかないことも多いです。
家庭裁判所の調停、審判などの手続を行うことになります。
遺言があればこのように『分け方で対立する』ことは生じません。
一般的に、遺言作成が好ましいという理由です。
詳しくはこちら|遺言の基本事項|メリット・遺留分との抵触・生前贈与との違い|遺言控除
遺産分割協議が難航すると予想される場合は、特に遺言作成が望まれます。
そのような類型をまとめました。
<遺言を作成しておくことが好ましい類型の例>
あ 相続人間で(承継内容に)差を付けたい
い 不動産を所有している
特定の相続人に承継させないと『共有』となるリスクがある
特に居住用不動産は共有となると大きなデメリットがある
う 子供がいない
え 離婚歴がある
『後妻と先妻の子』は対立が生じる典型である
お 1人身である
か 内縁の妻がいる
『内縁の妻(夫)』は、相続人ではない
財産を承継する場合は遺言が有用である
き 『子(長男など)の妻』に配慮したい
例えば長男が先に亡くなっている場合
→『長男の妻』は相続人にならない
財産の承継をさせる場合は遺言が有用である
く 『事業』や『農業』を承継する
次の資産が分散されることを避ける
ア 会社支配権(株式)イ 事業用の不動産・資産・農地
それぞれの詳細については次に説明します。
2 遺言によって相続人間で差を付けることができる
遺言がない場合、法定相続が適用されます。
※民法900条
法定相続は、例えば、子同士という同一順位の相続人は、同じ割合の相続分となります。
詳しくはこちら|法定相続分|遺産共有・遺産分割が必要・遺言による回避
もちろん、遺産分割協議により、別の割合に決めることも可能です。
ただし、相続人の1人でも反対すると、遺産分割協議は成立しません。
一般的には、法定相続分をベースとした協議になることが多いです。
家庭裁判所の遺産分割調停、審判でも同じです。
特殊な事情(寄与分、特別受益など)があれば、修正がなされるルールもありますが、ベース自体は法定相続分(割合)です。
遺言があれば、遺言者の意図がストレートに反映されます。
特定の者だけ、多めの相続分(割合)を設定する、ということが可能です。
3 不動産の法定相続では、共有状態によるトラブルが想定される
法定相続では、共有状態となり、対立のタネが生じることになります。
別項目;共有物分割;共有解消の必要性
もちろん、相続人間で承継する者を1人に決めれば良いです。
しかし、遺産分割協議は誰か1人でも反対すると成立しません。
遺産分割の審判を行った場合でも、家裁がうまく意図した相続人にその不動産を承継させる決定を出してくれるとは限りません。
仮に審判で意図した相続人がその不動産を承継させてくれたとしても、代償金の支払を命じることもあります。
さらに、対立が深くなった場合は、共有物分割請求訴訟を経て、第三者に競売する、という結論に至る場合もあります。
詳しくはこちら|共有物分割の手続の全体像(機能・手続の種類など)
不動産は物理的に分けられない(実質的)という性質がある、というところがポイントです。
不動産については、特に、遺言で承継者を具体的に明確化・特定しておくと大きな問題をクリアできるのです。
トラブル予防策は遺言以外にもあります。
不動産の相続トラブルや予防策については別に説明しています。
詳しくはこちら|不動産の相続×典型的トラブル・予防策
4 子供がいない場合、義理の兄弟と配偶者が遺産分割することになる
一般的・平均的な状況をもとにすると、子供がいない場合、法定相続による相続人は、配偶者と兄弟、となることが多いです。
原則的に、遺産については、配偶者と兄弟間での共有ということになります。
これらの相続人の関係は、義理の兄弟と配偶者ということです。
仲良く遺産分割協議がまとまれば問題はありません。
しかし、類型的・統計的に、このような相続人は、元々の仲が薄いので、対立に至る可能性が高いです。
そこで、遺言で最初から承継方法を決定しておき、このようなリスキーな協議自体を避けることが望ましいのです。
5 離婚経験がある場合は、先妻の子と後妻の子が遺産分割をすることになる
離婚経験がある方が亡くなった、つまり被相続人となった場合の相続人は次のようになります。
<離婚後の再婚→亡くなった時の相続人>
要は、相続人の関係は、異母(父)兄弟や、連れ子と配偶者、ということです。
これらの者が仲が良い、という状況はもちろん存在します。
しかし、統計上・類型的に、仲が薄いので、対立状態になる可能性が高いです。
遺言によって、遺産の承継方法を明確化しておけば、遺産分割協議という対立自体を避けることになります。
遺言作成が望まれる典型パターンの1つです。
6 1人身の場合は、遺言がないと原則的に国庫帰属になってしまう
原則として、相続人が存在しない、という場合は、遺産は政府のものになります。
※民法959条
これを国庫帰属と言います。
遺言によって遺贈すれば、『血縁関係はないけれどお世話になった方』に遺産を承継させられます。
この点、遺言がなかった場合でも、内縁などの特別な関係にあった方、に遺産を承継する手続きもあります。
詳しくはこちら|特別縁故者の基本(承継する財産の範囲・複数の者・手続外での財産承継・審理の特徴)
しかし、この手続きは、家裁が個別的な特別な関係(縁故)を判断します。
一般的には、証拠上、特別な関係が不十分→相続財産分与が認められない、というケースも多いです。
そこで、遺言によって、財産を特定の者に承継させることを確実にしておくと良いのです。
7 法定相続となった非公開会社の株式(概要)
株式は法定相続によって厄介な問題が生じやすいです。
遺言によって単独の承継者を明確に決めておくと良いでしょう。
多くのトラブルを未然に回避できます。
<法定相続となった非公開会社の株式(概要)>
→遺産共有となる
=株式の準共有という状態になる
詳しくはこちら|株式×相続|トラブルの特徴|不可分・準共有
→多くの面倒な問題が生じやすい
詳しくはこちら|株式の準共有における権利行使者の指定・議決権行使
本記事では、遺言作成が特に望まれる状況を説明しました。
実際には、具体的な状況によって、法的判断や最適な対応方法(対策)は違ってきます。
実際に遺言作成などの相続の対策を検討されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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