【参加者が欠落した遺産分割の具体的状況と有効性】

1 参加者の欠落と遺産分割の有効性(概要)
2 参加者欠落により遺産分割が無効となる基本的類型
3 胎児の出生or死産と相続権(前提)
4 遺産分割への胎児の参加と有効性
5 婚姻・離婚・養子縁組・離縁の無効と遺産分割の有効性
6 参加者欠落の遺産分割が有効となる例外的扱い

1 参加者の欠落と遺産分割の有効性(概要)

遺産分割は相続人全員が参加しないと成立しません。
参加者が欠落した場合,原則的に遺産分割は無効となります。
ただし,状況によっては例外的に有効となることもあります。
詳しくはこちら|『相続人全員』ではない参加者による遺産分割の有効性(基本)
本記事では,参加者が欠落する具体的な状況ごとに,有効性について説明します。

2 参加者欠落により遺産分割が無効となる基本的類型

遺産分割協議に相続人の一部が参加しないと無効になります。参加者が欠落する具体的ケースを紹介します。

<参加者欠落により遺産分割が無効となる基本的類型>

あ 相続人

戸籍上,相続人であることが判明していた者が欠落した場合
→遺産分割協議は無効となる
※最高裁家庭局長回答昭和32年6月21日

い 包括受遺者

包括受遺者が欠落した場合
→遺産分割協議は無効となる
※民法990条

う 相続分の譲受人

相続分の譲受人が欠落した場合
→遺産分割協議は無効となる
※民法905条
詳しくはこちら|相続分譲渡により,遺産分割に参加する立場ごとバトンタッチできる

3 胎児の出生or死産と相続権(前提)

『胎児』は相続権を獲得するタイミングが特殊です。当然,遺産分割の参加者の判断に直結します。その前提として胎児の相続権についてまとめます。

<胎児の出生or死産と相続権(前提)>

あ 事例

相続開始時に『相続人』候補者が『胎児A』であった
それ以外の『相続人』で遺産分割協議を完了した
その後『胎児A』が『出生』したor『死産』となった

い 解釈論|出生ケース

相続に関しては『胎児』も権利者である
『胎児』(A)も遺産分割協議の参加者=相続人であった
※民法886条1項

う 解釈論|死産ケース

胎児が死産となってしまった場合
→遡って『相続の権利者ではなかった』ことになる
※民法886条2項

遺産分割協議の有効性については次に説明します。

4 遺産分割への胎児の参加と有効性

遺産分割協議が完了した時点で『胎児』がいると解釈の問題があります(前述)。
この場合の遺産分割協議の効力についてまとめます。

<遺産分割への胎児の参加と有効性>

あ 胎児が出生した場合

相続人の1人Aが欠落していたことになる
→遺産分割協議は無効である

い 胎児が死産となってしまった場合

Aは当初から『相続人』ではない
→遺産分割協議の参加者に欠落はない
→遺産分割協議は有効である

誕生するまでは『相続人』になるかどうかが分からない状態なのです。
実際には胎児がある場合,誕生後に正式な遺産分割協議をします。
親権者の『母』が協議に参加するのです。
誕生前に『母』が参加し,暫定的な協議・準備をすることもあります。

5 婚姻・離婚・養子縁組・離縁の無効と遺産分割の有効性

『相続人』になるかどうかが変わる,というシーンがあります。
家裁が身分行為・手続を『無効』とするというものです。
これについてまとめます。

<遺産分割協議×婚姻・離婚・養子縁組・離縁の無効>

あ 事例|遺産分割協議成立

『共同相続人』全員の参加により遺産分割協議が成立した

い 事例|家裁による無効判断

一定の身分行為を家裁が無効と判断した
=婚姻・離婚・養子縁組・離縁の無効審判・判決
→身分関係の変動が『なかったことに』なった
詳しくはこちら|離婚無効|調停・訴訟|『無効』の離婚届受理の撤回→家裁の手続が必要

う 解釈論|参加者の不備

遺産分割協議の参加者が不完全となる
ア 『相続人以外』が参加した 遺産分割協議の効力は維持される
=有効である(後述)
イ 『相続人』の一部が参加しなかった 『参加者の欠落』となる→無効となる(前述)

え 結論=遺産分割協議の効力

遺産分割協議は無効となる

6 参加者欠落の遺産分割が有効となる例外的扱い

相続人が欠落すると,遺産分割協議は原則として無効となります(前記)。
ただし,特殊事情があると例外的に『有効』となることもあります。
これについてまとめます。

<参加者欠落の遺産分割が有効となる例外的扱い>

あ 欠落者=失踪宣告の取消で『復活』した者

遺産分割協議は『有効』のまま
→『復活者』は他の相続人に対し『現存利益』の範囲で返還請求ができる
※民法32条2項

い 欠落者=事後的に認知された者

遺産分割協議は『有効』のまま
→『認知された者』は『金銭による支払請求権』だけを行使できる
※民法910条
詳しくはこちら|死後の認知|全体|認知を回避or遅らせる背景事情|相続→金銭賠償

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