【仲介業者のスイッチの自由(ショールーミング)と料金競争】
1 時代変化に伴う仲介手数料の動き
2 ショールーミング現象
3 スイッチ前の仲介手数料減額交渉
4 一般的ショールーミング現象(参考)
5 ショールーミングと法的責任
6 サービスモデルとショールーミングの不整合
7 サービス提供者のショールーミング対策
8 事業者による『抜き』疑惑解消対策
1 時代変化に伴う仲介手数料の動き
不動産の仲介手数料は今,大きく変わりつつあります。以前は法律上の規制の上限が普通,という状況がありました。しかし,インターネット・スマホの普及などの社会的な変化で大きな影響を受けているのです。
まずは,仲介手数料についての大きな変化の流れをまとめます。
<時代変化に伴う仲介手数料の動き>
あ 上限張り付きカルテル状態
宅建業法上の上限が当然という状況
暗黙のカルテルという様相であった
詳しくはこちら|仲介手数料×上限張り付き現象|実質カルテル・ソフト詐欺状態・悪習打破
↓
い 料金競争発生(←イマココあたり)
ITを活用した低料金のサービスが登場している
『手数料ゼロ』の仲介サービスも増えている
=カルテル脱退業者が続出している
ショールーミング現象も発生している(後記※1)
↓
う マッチング対価の無料化傾向
マッチング自体の対価は無料になる傾向となる
付随的サービスの販売や広告収入を得るモデルは残る
例;家具販売・引越業者からの紹介料
『昔は仲介にお金を払う時代があったんですね』と言われる時代
↓
え 居住の無料化
さらに将来は居住自体の対価が消失するという予想もある
2 ショールーミング現象
仲介手数料に関連して,現在,ショールーミングという現象が拡がりつつあります。具体的内容をまとめます。
<ショールーミング現象(※1)>
あ 内見のための業者選定
入居候補者Aが物件を探している
一般の仲介業者Bに相談した
い 内見施行
BはAにいくつかの物件を紹介した
BはAの内見に同行した
う 物件を決める
Aは入居したい物件が決まった
え 仲介のための業者選定=スイッチ
Aは『仲介手数料が低い(ゼロ)である仲介業者C』を見つけた
インターネット上で容易に探せる
AはCに仲介業務を依頼した(※2)
Cが仲介業務を行い,Cは賃貸借契約が締結できた
Cは入居した
3 スイッチ前の仲介手数料減額交渉
最近では内見後に『業者のスイッチ』が行われることがよくあります(前記)。この点,,スイッチする前に従前の業者と手数料の交渉が行われるケースもあります。これはある意味理想的なものです。
<スイッチ前の仲介手数料減額交渉>
あ 実際のスイッチ傾向
入居候補者の実際の動向として
仲介手数料が低い業者にスイッチする傾向が強い(後記※3)
い 理想=交渉によるマーケットメカニズム駆動
ア 従前の業者との交渉
入居候補者Aが内見に同行した仲介業者Bに交渉する方法もある
例;『他の業者で手数料ゼロがあるので,同じにできないか』
イ 業者の対応
BはAに『自社の独自サービス(他社にはないメリット)』を説明する
ウ 顧客の選択
Aは『独自サービス』と『対価』という情報を入手する
この対価(値段)で『独自サービス』を買うかどうかを決める
これ自体は超基本的なマーケットメカニズムである
詳しくはこちら|マーケットメカニズムの基本|自由経済・商品流通の最適化・供給者の新陳代謝
4 一般的ショールーミング現象(参考)
以上のようなショールーミング現象は,不動産仲介だけに生じている現象ではありません。仲介・中継機能を提供するサービスに広く生じていることです。参考としてこれについてまとめておきます。
<一般的ショールーミング現象(参考)>
あ ショールーミングの一般論
インターネットの普及による『中抜き』現象の1つである
あらゆる『仲介・媒介』機能・サービスについて
→オンラインのマッチングサービスによるリプレイスが進んでいる
い 他サービスの典型例
ヤマダ電機の店舗で製品を見る
説明を受ける
製品を特定する
Amazonで発注して製品を入手する
5 ショールーミングと法的責任
不動産仲介に関するショールーミングで困る業者が多く存在します。そこで,法的責任を追及するという発想もあります。法的な解釈についてまとめます。
<ショールーミングと法的責任>
あ 古典的『抜き』行為
仲介業者が同業者から顧客を不正に奪った場合
→状況によっては『手数料』を奪ったことになる
→損害賠償責任を負うことになる
詳しくはこちら|不動産売買の仲介抜き行為の責任(みなし報酬・損害賠償)
い ユーザー自身による選択の自由
ユーザー自身の判断で仲介業者を選ぶことについて
→本来的に自由である
=原則的に違法性はない
→法的責任は生じない
う ユーザーの選択と『抜き』のバランス
現実にはユーザーによる業者選択と『抜き』が混ざったような状況もある
仲介業者として選択された業者の責任についての明確な基準はない
実務では各業者が自主的な判断で対応している(後記※4)
ユーザー自身の判断は資本主義の根本的なルールです。これを前提としてサービスを作らないといけないのです。
6 サービスモデルとショールーミングの不整合
実際にショールーミングによって大打撃を受ける業者もあり得ます。このような現象の背景について考えてみます。要するにサービスモデルが現在の社会の状況に整合しなくなっているのです。
<サービスモデルとショールーミングの不整合>
あ 仲介サービスのマーケット
仲介サービスはレガシーなサービスモデルが普及している
い レガシーなサービスモデルの特徴
追客が長い=ロングホールドである
→料金の発生までにある程度多くのリソースを要する
う レガシーなサービスモデルとショールーミング
レガシーなサービスモデルは『長い追客』が前提となっていた
=成約まで顧客がスイッチしない
『手数料上限張り付き実質カルテル』がこれを支えていた
詳しくはこちら|仲介手数料×上限張り付き現象|実質カルテル・ソフト詐欺状態・悪習打破
→ショールーミング(顧客がスイッチする)だとレガシーモデルは成り立たない
→新たなサービスモデルにリプレイスされる時が来た
7 サービス提供者のショールーミング対策
サービス提供者は,ショールーミングを前提としてサービスモデルを再構築するべき時代が来ているのです。単純な発想についてまとめます。実際にこのようなサービスが登場し普及しているのです。
<サービス提供者のショールーミング対策(※4)>
あ 宅建業者
成約前の各業務に対価(料金)を設定する
例;内見1回1000円
→仲介料金の成功報酬という性格と抵触する可能性がある
詳しくはこちら|宅建業法の報酬は成功報酬(成約前の請求・受領は違法)という考えがある
い 宅建業者以外
宅建業者でなければ料金の上限規定は適用されない
ただし『媒介』に該当すると無免許営業となる
=宅建業法違反
詳しくはこちら|宅建業法|基本・『宅地建物取引業』定義
8 事業者による『抜き』疑惑解消対策
ユーザーが仲介業者をスイッチすると不正な『抜き』と似た状況になります。
詳しくはこちら|不動産売買の仲介抜き行為の責任(みなし報酬・損害賠償)
そこで,実情として事業者は一定の自主的な対応・規制をしていることが多いです(前記)。
その具体的な内容・実情をまとめます。
<事業者による『抜き』疑惑解消対策(※4)>
あ 内見施行済み段階
ア 業者の判断の傾向
入居候補者が他の宅建業者による内見を済ませていた場合
→自社での仲介業務を行う(断らない)傾向がある
イ マーケットの実情(※3)
『仲介手数料ゼロ』のサービスの利用客において
『他社で内見済み』の割合は約2割である
※平成28年10月サービス提供事業者ヒアリング
い 入居申込書提出済み段階
入居候補者が他の宅建業者に『入居申込書』提出を済ませていた場合
→自社での仲介業務を行わない(断る)傾向がある