【通称への名の変更の許可基準】
1 通称名の長期使用における許可基準(一般)
2 通称名の長期使用における許可基準(家裁決議)
3 通称名の使用期間
4 動機・目的の排除
5 難解・難読な名への変更不許可の傾向(概要)
6 再度の通称名への変更
7 外国における通称名の長期使用
1 通称名の長期使用における許可基準(一般)
通称名への変更が許可される事案はとても多いです。
詳しくはこちら|通称への名の変更の実務的傾向と実質的な趣旨
本記事では,通称名への変更の許可の判断基準について説明します。まずは一般的な基準としてまとめます。
<通称名の長期使用における許可基準(一般;※1)>
あ 基本
通称名が次の『い・う』に該当する場合
→変更を許可する
い 通称の長期使用
長期間(後記※2)にわたって使用されている
=本人が選んだ名である
比較;初回の命名は本人の判断ではない
う 個人識別機能
戸籍名に代わって社会生活上本人を表象する機能を持つに至っている
=社会的に定着している
=社会が認めている
※仙台高裁平成2年2月19日
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p510
2 通称名の長期使用における許可基準(家裁決議)
通称名への変更許可の基準について,家裁の公表するものを紹介します。
<通称名の長期使用における許可基準(家裁決議)>
あ 基準
次の2つに該当する場合
→改名の正当事由がある
ア 使用期間(※3)
通称の使用期間が10年以上である
イ 識別機能
社会生活上通称名の方が本人の同一認識の標準となるに至っている
い 動機の排除
通称を使用し始めた理由について
→姓名判断に基づくものであっても同様である
※昭和23年8月26日大阪家裁家事部決議
個々の裁判官(審判官)の判断は独立性が強く保護されています(憲法82条)。理論的には裁判所の決議が直接裁判官を拘束するものではありません。しかし現実的・結果的には基準として強い影響を生じます。
3 通称名の使用期間
通称名として長期間使用されたものへの変更は認められます(前記)。この点,長期と判断されるか,という問題があります。結論としては10年が目安となります。もちろん,他の事情も含めて判断されるので,絶対的な判断基準というわけではありません。
<通称名の使用期間(※2)>
あ 基準化
許可を認める通称の使用期間について
→確定的な数字で示すことは困難である
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p510
い 裁判例の集約
長期使用の通称への変更許可の裁判例は多い
概ね10年を超えると許可が認められる傾向が強い
詳しくはこちら|通称への名の変更許可申立の裁判例(許可した)
う 家裁の決議
家裁の決議として
→使用期間の基準を『10年』と明示している(前記※3)
4 動機・目的の排除
通称名への変更の判断において,変更する動機や理由・目的が問題となることがあります。実務の傾向としてはこれらの事情は考慮しない方向性です。
<動機・目的の排除>
あ 通称の定着と動機の関係
通称が社会的に定着した場合
→動機の問題性(え)は背後に退く
=個人識別機能の方が重視される
※高梨公之『家族法と戸籍の諸問題 戸籍時報100号記念』日本加除出版1966年p7
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p510
い 動機・目的の排除
通称使用の判断(上記※1)とは別に
通称を選択・使用する動機・目的について
例;姓名判断・迷信
→これらを理由に許可を否定しない
※斎藤秀夫ほか『注解 家事審判規則(特別家事審判規則)改訂』青林書院1994年p510
※高梨公之『家族法と戸籍の諸問題 戸籍時報100号記念』日本加除出版1966年p7,10
う 判断の具体例
通称名使用の動機が次のものであっても許可を否定しない
ア 戸籍名に対する悪感情イ 姓名判断
※仙台高裁平成2年2月19日
え 動機を理由とする変更の否定(参考)
一般的に,主観的理由による名の変更は許可されない
例;姓名判断・迷信
詳しくはこちら|姓名判断による名の変更(許可基準と裁判例)
詳しくはこちら|主観的感情による名の変更(許可基準と裁判例)
5 難解・難読な名への変更不許可の傾向(概要)
通称への変更に限らず,変更を希望する名の常用平易性も許可の判断に影響します。
<難解・難読な名への変更不許可の傾向(概要)>
変更を希望する通称名が難解・難読である場合
→許可されない傾向が強い
詳しくはこちら|変更後の名の常用平易性と変更の許可基準
6 再度の通称名への変更
通称名への変更が2回繰り返されるケースもあります。初回よりは許可を否定する方向性となります。
ただし,通称の長期間の使用の程度によっては許可されることもあります。許可が認められた裁判例を紹介します。
<再度の通称名への変更>
あ 名のコンフリクトと後輩の譲歩
Xの近くに学校の先輩で同姓同名の者がいた
間違い電話・郵便物の誤配が多かった
家裁で『隆一』を『隆市』にする変更が許可された
い 未練と愛着
Xは元の名『隆一』に愛着があった
『隆一』を通称として使用していた
勤務先・その他の関係者も『隆一』と呼称・取扱いをしていた
『隆一』の使用期間は23年間に達した
改名後の部分だけでは約19年間であった
Xは家裁に『隆一』への変更を申し立てた
う 裁判所の判断
2回目の名の変更申立である
一般的には否定的な事情である
詳しくはこちら|再度の名の変更(許可基準と事例)
しかし,とにかく現状=通称の永年使用を尊重する
→変更を許可した
※大阪高裁平成7年6月12日
7 外国における通称名の長期使用
通称名の使用が外国でなされているケースもあります。この場合は,一般的な通称名とは違う考え方がとられます。実例における判断内容としてまとめます。
<外国における通称名の長期使用>
あ 前提事情
外国において通称を永年使用している
この通称への名の変更許可が申し立てられた
い 変更許可の基準
次のすべてに該当する場合
→変更を許可する
ア 外国社会への密着
外国社会との関連が密接になっている
イ 日本社会との関係希薄
日本の社会との関係が希薄になっている
ウ 変更による支障なし
名を変更したことによって
日本の社会における生活にはほとんど支障を生じない
う 変更が許可される具体例
本人の生活が外国に永住するに近い状態になっている
え 変更が許可されない事情
外国の永住許可を得られる見通しが不確実であった
→許可しなかった
※東京家裁昭和62年7月13日
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