【建物・借地権・預金譲渡→取消無効判決(締結時破綻・最高裁)】
1 事案(結婚〜仲違い発生)
2 事案(財産の譲渡の誓約書作成)
3 事案(『贈与』の書面作成と取消の主張)
4 裁判所の判断
1 事案(結婚〜仲違い発生)
夫婦間の契約の取消の解釈論は時代によって移り変わり,判例も多く残されています。
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の無効化の変遷(事案・判断の概要の集約)
本記事では実例の1つである判例を紹介します。
<事案(結婚〜仲違い発生)>
あ 結婚
夫・妻は昭和19年に上海で結婚した
終戦後上海から長岡市(日本)に引揚げて来た
長岡市は妻の郷里である
い 上京と洋裁店の共同経営
昭和22年に夫婦は上京した
借地権を購入し,建物を建築した
建物と借地権の権利者・名義は夫とした
資金拠出元・割合は不明である
建物は自宅兼営業所として使用するものである
主に婦人子供服の洋裁を行う店舗を夫婦で経営していた
『ウール洋裁店』という商号を用いた
う 仲違い
そのうち夫に他の女関係ができた
夫婦間がうまくゆかなくなった
昭和26,27年頃から
離婚の話が持ち上るようになりゴタゴタしていた
※最高裁昭和33年3月6日
2 事案(財産の譲渡の誓約書作成)
<事案(財産の譲渡の誓約書作成)>
あ 財産を譲渡する意向
いさかいの間に,次のようなことを言い合っていた
ア 妻
『本件家屋を呉れれば子供2人を育てながら女1人で独立して生活してゆく』
イ 夫
『裸で家を飛び出してしまう』
い 誓約書の作成
昭和26年12月15日
夫が『う』の内容の誓約書を作成(記載)し,妻に渡した
う 誓約書の内容
『女との交渉は一切致すまじく万一約を破りたる時は一切の権利を(妻)にまかせ裸のまま家を出る』
え 誓約違反
その後,夫の女関係は再開した
夫婦の不和はつのった
昭和27年5月1日
夫は遂に家を出てしまった
※最高裁昭和33年3月6日
3 事案(『贈与』の書面作成と取消の主張)
<事案(『贈与』の書面作成と取消の主張)>
あ 『贈与』の書面作成
昭和27年5月14日
夫はウール洋裁店に来た
妻は不在であった
勤務中のスタッフに『い』の書類を預けた
妻は店舗に戻った時にこの書類をスタッフから受け取った
い 『贈与』の書面の内容
ア 自筆の書面
内容=『自分の名義に関する一切の利権を昭和27年5月15日午前零時に(妻)に贈与する』
イ 離婚届用紙
いずれも夫の署名・捺印がある
他の条件めいた記載など何もない
う 当時の夫の財産
ア 建物とその敷地の借地権イ 上野信用金庫に対する預金ウ 若干の現金 このほかには大したものはなかった
え 夫による取消の主張
夫が『贈与契約』を夫婦間の契約として取り消す主張をした
※最高裁昭和33年3月6日
4 裁判所の判断
<裁判所の判断>
あ 贈与契約の成立
昭和27年5月14日
夫は建物を含む全財産を妻に贈与する旨,書面を以て意思表示した
妻はこれを受諾した
→書面による贈与契約が成立した
い 取消の有効性(基準)
夫婦関係が破綻に瀕しているような場合になされた夫婦間の贈与はこれを取り消し得ない
=契約締結時に破綻していたことが理由となった
う 結論
夫の取消の主張は夫婦関係が破綻した時期になされた
→取消の効果は生じない
=妻の移転登記請求を認容した
※最高裁昭和33年3月6日
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