【土地の贈与→取消無効判決(取消時破綻・最高裁)】

1 事案(結婚〜仲違い・1回目贈与)
2 事案(再度の仲違い〜修復)
3 事案(2回目贈与)
4 事案(登記の状況と取消主張)
5 裁判所の判断

1 事案(結婚〜仲違い・1回目贈与)

夫婦間の契約の取消の解釈論は時代によって移り変わり,判例も多く残されています。
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の無効化の変遷(事案・判断の概要の集約)
本記事では実例の1つである判例を紹介します。

<事案(結婚〜仲違い・1回目贈与)>

あ 結婚の経緯

昭和8年6月
A・Bは事実上の婚姻をした
昭和13年7月
A・Bは婚姻届を提出した
夫は自転車の修理・販売業を営んでいた

い 仲違いと円満方向の合意(1回目贈与;※1)

昭和25年頃
夫婦は仲が悪くなり,円満な夫婦生活ではなくなった
昭和27年頃
妻の兄があっせんし,夫婦で協議した
今後夫婦は円満に暮らすということに決まった
これに伴い,夫は妻に原野・山林(甲,乙)を贈与する契約をした
(日付が特定されていない→書面の作成はないと思われる)
※最高裁昭和42年2月2日

2 事案(再度の仲違い〜修復)

<事案(再度の仲違い〜修復)>

あ 再度の仲違い

夫は原野・山林の所有権移転登記への協力を拒否した
当時,夫は手許で姪Aを養育していた
夫は妻に無断でAを養女として入籍しようとした
これにより妻には不信を与えた
夫婦間の溝は次第に深くなった

い 関係修復

昭和30年6月
妻は家を出て実家に戻った
夫は妻に,強く同居を求めた
昭和30年8月
妻は夫の家に戻った
※最高裁昭和42年2月2日

3 事案(2回目贈与)

<事案(2回目贈与)>

あ 修復方向の合意(2回目贈与)

夫婦に実子はいなかった
妻は,老後の慰安と生活保証を確保したかった
そこで妻は夫に次のことを申し出た
田畑3筆・山林(丙,丁,戊)を贈与して欲しい
夫は一応異議なくこれを了承した
夫婦相互協約覚書を作成した

い 覚書の内容

贈与物件のうち山林について
→単に『山林三筆』(丙,丁,戊の意味)と記載した
『山林三筆』の右側に『(鍜治屋及雨乞山)』(甲,乙のことである)と併記した
1回目贈与(上記※1)の対象の山林(甲,乙)も追記した趣旨である

う 贈与対象物件の入れ替え

覚書作成直後
夫は山林(丁,戊)を贈与したくないと申し出た
夫婦で協議した
山林(丁,戊)に代えて別の山林(己)にすると合意した
覚書の『山林三筆』を『山林二筆』と訂正した
※最高裁昭和42年2月2日

4 事案(登記の状況と取消主張)

<事案(登記の状況と取消主張)>

あ 2回の贈与に含まれるすべての山林

4筆

い 登記の状況

ア 1筆について 妻への移転登記済み
イ 1.5筆について (分筆後の片方を0.5筆とした)
昭和33年12月に夫が弟に移転登記をした
ウ 残り1.5筆 夫の所有名義のまま

う 取消主張

その後,夫が贈与の取消を主張した
※最高裁昭和42年2月2日

5 裁判所の判断

<裁判所の判断>

あ 事実認定

2回の贈与契約は有効である

い 夫婦間の契約取消権

取消の意思表示は夫婦関係が破綻した後である
→取り消しはできない
→妻の移転登記請求を認めた
※最高裁昭和42年2月2日

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