【扶養義務の実質的根拠・合理性の欠如と生活保護との関係】
1 現行法の扶養義務の合理性の欠如
2 生活保護と扶養義務との関係
3 生活保護申請時の扶養義務者への照会
4 生活保護審査の運用の改善
1 現行法の扶養義務の合理性の欠如
民法の扶養義務は,対象が広く規定されています。
詳しくはこちら|一般的な扶養義務(全体・具体的義務内容の判断基準)
これについて,現代の社会に適合していないために不合理な状況となっているという指摘があります。
<現行法の扶養義務の合理性の欠如>
あ 扶養義務が前提とする価値観
現行法の扶養義務について
『親族共同生活体』という価値観が前提となっている
い 現代社会における親族の関係性
親族の関係性は次のような状況である
ア 少子化,核家族化の進行イ 兄弟姉妹の数が少ないウ 離れた独立の生活
近親者が近隣で生活することは稀である
=離れて独立の生活を送ることが多い
エ 交流が少ない
う 合理性の欠如
扶養義務の実質的な根拠について
→明確ではなく,社会の状況に整合しない
→合理性に欠けている
※於保不二雄ほか『新版注釈民法(25)』有斐閣p726,771
※裁判所職員総合研修所『親族法相続法講義案 6訂補訂版』司法協会p195
2 生活保護と扶養義務との関係
親族の扶養義務は生活保護の制度と本質的に関連しています。親族扶養が受けられない場合の措置が生活保護になっているからです。
<生活保護と扶養義務との関係>
あ 求償請求の規定
生活保護の支給が行われた場合
→支給した機関が扶養義務者に対して請求できる
※生活保護法77条1項
い 根本的な考え方
生活保護(公的扶養)よりも親族扶養(私的扶養)を優先させる
※生活保護法4条2項
う 生活保護給付の実務
審査の一環として
行政から扶養義務者への照会が行なわれている(後記※1)
3 生活保護申請時の扶養義務者への照会
生活保護の手続では申請者の親族へ通知を出すことがあります。この問題点についてまとめます。
<生活保護申請時の扶養義務者への照会(※1)>
あ 扶養照会書の送付
生活保護の審査において
行政から扶養義務者への扶養照会書を送付することがある
い 問題点
申請を抑制する効果が生じている
ア プライドという面
純粋に精神的なブレーキとなる
イ 連絡をすること自体による実害(のリスク)
例;DV
詳しくはこちら|DVによる別居では生活保護,健康保険,住民票,子供の転校などで配慮される
4 生活保護審査の運用の改善
生活保護の審査手続の問題点が指摘されています(前記)。このため,運用の改善が進められています。
<生活保護審査の運用の改善>
あ 運用の改善の方針
生活保護よりも親族扶養が優先という原則論は維持する
しかし,徹底すべきではない
『生活保護の要件』として
『扶養義務を受け尽くしたこと』を要求しない
い 厚生省の通達(引用)
扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い,その結果,保護の申請を諦めさせるようなことがあれば,これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい。
※昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知
『生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて』第9の2
※生活保護手帳編集委員会『生活保護手帳2011年度版』中央法規出版p288
う 文献における見解(要旨)
民法の認める親族的扶養の範囲は,近代法に類例をみないほど広範である。
特に現実的共同生活をしない親族にまで扶養義務を課している。
以上のことを考えると,私的扶養優先の原則の適用に際しては,特に慎重な考慮を払うとともに公的扶助を整備強化することによってその補充性を緩和し,できるだけ私的扶養の機会を少なくすることが望ましい。
※裁判所職員総合研修所『親族法相続法講義案 6訂補訂版』司法協会p195
結局,行政から親族への求償は,徹底しないという運用の方針が取られています。
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