【裁判上の自白・擬制自白の基本(対象となる『事実』)】

1 擬制自白の規定
2 擬制自白の対象となる主張内容
3 裁判上の自白の定義と対象
4 一般的な主張内容の分類(前提)
5 裁判上の自白の対象となる『事実』
6 『事実』に該当しない具体例
7 法律用語の陳述と裁判上の自白
8 権利自白についての擬制自白
9 裁判上の自白・擬制自白の効果(概要)

1 擬制自白の規定

民事訴訟法には『擬制自白』という規定があります。典型例は,被告が何も対応しないで裁判期日への出席もしないと自動的に敗訴になるものです。一般的に『欠席判決』と呼ばれるものの原理となる規定です。
本記事では擬制自白について説明します。
まずは擬制自白の規定についてまとめます。

<擬制自白の規定>

あ 出席した者の擬制自白

次の『ア・イ』の両方に該当する場合
→Bは甲事実を自白したものとみなす
ア 当事者Aが口頭弁論に出席したイ Aが相手方Bの主張した甲事実を争うことを明らかにしない ※民事訴訟法159条1項

い 欠席した者の擬制自白

次の『ア〜ウ』のすべてに該当する場合
→Bは甲事実を自白したものとみなす
ア 当事者Aが口頭弁論の期日に出頭しないイ 当事者Aの呼び出しが公示送達以外の送達でなされたウ Aが相手方Bの主張した甲事実を争うことを明らかにしない ※民事訴訟法159条3項

2 擬制自白の対象となる主張内容

擬制自白が成立する主張については一定の範囲があります。『事実』の主張に限られます。

<擬制自白の対象となる主張内容>

擬制自白について
→一般的な『裁判上の自白』(後記※1)の1つである
→『事実』の主張に限られる
※民事訴訟法179条

これだけだと抽象的です。具体的に,自白の対象となるものや対象とならないものについて,以下説明します。

3 裁判上の自白の定義と対象

擬制自白は『裁判上の自白』とみなすというものです。そこで,裁判上の自白の解釈がそのまま成り立つものも多いです。ここで裁判上の自白の基本的な内容についてまとめておきます。

<裁判上の自白の定義と対象(※1)

あ 裁判上の自白の定義

当事者がその訴訟の口頭弁論または弁論準備手続においてする,相手方の主張と一致する自己に不利な事実の陳述
※兼子一ほか『条解民事訴訟法 第2版』弘文堂p1029

い 対象となる主張の内容

具体的な事実の陳述に限られる
※最高裁昭和37年2月13日

4 一般的な主張内容の分類(前提)

裁判上の自白が成立するのは,主張の中の一定のものに限られます(前記)。そこで,一般的に民事訴訟における主張を分類します。その後で自白の対象について改めて説明します。

<一般的な主張内容の分類(前提)>

あ 『事実』の主張・陳述(※2)

『事実』は次の3つに分類できる
ア 主要事実イ 間接事実(徴表)ウ 補助事実 証拠に関する適格性や信用性に関する事実

い 『事実』以外の主張・陳述(概要)

主張内容が『事実』ではないもの(後記※3

5 裁判上の自白の対象となる『事実』

裁判上の自白や擬制自白は3種類の『事実』のすべてについて成り立ちます。ただ,3つの種類によって,効果に違いが現れます(後述)。間違えやすいところなので順に整理します。

<自白の対象となる『事実』>

あ 自白の適用の有無

3種類の『事実』(前記※2)について
→これらの主張はすべて相手方の認否の対象となる
→自白の対象となる
※秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法3』日本評論社p363,364
職権探知の対象の事実も自白が成立する
※兼子一ほか『条解民事訴訟法 第2版』弘文堂p1029

い 自白成立の効果(参考)

自白が成立した場合
→裁判所への拘束力が生じることがある
これについては『事実』の種類によって異なる
詳しくはこちら|裁判上の自白・擬制自白の効果と裁判所への拘束力

6 『事実』に該当しない具体例

『事実』以外の主張については裁判上の自白が成り立ちません。『事実』に該当しない具体的な実例をまとめます。

<『事実』に該当しない具体例(※3)

あ 全体

『い〜え』は『事実』ではない
→これらの主張について裁判上の自白は成立しない

い 解釈についての主張

次の事項についての意見の陳述
ア 法律の解釈適用イ 意思表示の解釈 ※大判昭和16年11月13日
※最高裁昭和31年7月19日
※最高裁昭和42年11月16日

う 経験則についての主張

※大判昭和8年1月31日
※兼子・判例民訴(72)p210

え 処分権の行使

請求の放棄・認諾
※新堂幸司『新民事訴訟法』弘文堂p514
※斎藤秀夫ほか『注解民事訴訟法(3)』第一法規出版p519
※新堂幸司ほか『注釈民事訴訟法(3)』有斐閣p295
※賀集唄『基本法コンメンタール民事訴訟法2 第3版追補版』p95
※秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法3』日本評論社p364

7 法律用語の陳述と裁判上の自白

『事実』かどうかが曖昧な主張・陳述はよくあります。法律用語は『事実』ではないのが原則です。しかし,解釈として『事実を含む』と判断された判例もあります。

<法律用語の陳述と裁判上の自白>

あ 事案

当事者が法律用語を使って陳述した
これに甲『事実』の陳述が含まれていた

い 裁判所の判断

甲『事実』について自白が成立する
※最高裁昭和37年2月13日

8 権利自白についての擬制自白

自白の中では非常に特殊な『権利自白』というものがあります。所有権の有無について,権利そのものについて自白が成立するという特別な扱いです。
この特殊性から,擬制自白の適用について見解が分かれています。

<権利自白についての擬制自白>

あ 一般的な見解

権利自白については擬制自白の適用を否定する

い 反対説

権利自白について擬制自白の適用を認める
※藤原弘道『動産所有権の証明〜実例に即して』/『民事訴訟雑誌』日本民事訴訟法学会p34−17

9 裁判上の自白・擬制自白の効果(概要)

裁判上の自白や擬制自白が成り立つと法的な効果が生じます。
証明が不要になることが主なものです。さらに,裁判所への拘束力が生じることもあります。
このような効果については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|裁判上の自白・擬制自白の効果と裁判所への拘束力

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