【借地人の相続で『相続人の1人』が契約書再調印をしても無効となることがある】
1 借地権の相続人の一部が調印した契約書は事情によって有効/無効が変わる
2 同一内容の契約書,有利な変更,の場合は借地人の相続人のうち1名が単独で調印可能
3 借地人に不利な変更を伴う契約書調印は借地人の相続人全員が賛成しないと無効
1 借地権の相続人の一部が調印した契約書は事情によって有効/無効が変わる
<借地人の死亡による借地契約書の調印(※1)>
あ 借地人の死亡(相続)
父は,借地上に建物を所有していた
父が亡くなり,法定相続人である,母,私,兄,弟が相続した
い 借地の契約書の調印
母が単独で,地主さんとの間で,新たに『借地の契約書』に調印した
う 法的な扱い
新たな借地の契約書の内容によって
新たな契約書が有効か無効か,が決まる
まずは杓子定規に法律を適用してみます。
お父様が亡くなった時点で,借地人という地位が,相続により承継されます。
借地権を相続人全員で準共有している状態,となります(民法264条)。
ですから,本来新たな借地契約書の調印は,『地主+(借地人の)相続人全員』,という当事者が行うべきです。
そうではなく,相続人の一部だけで調印した場合は,無効(効果不帰属)となるのが原則です。
ただし,新契約の内容によっては,有効ということもあります。
新契約の内容やその他の事情によって違ってきます。
2 同一内容の契約書,有利な変更,の場合は借地人の相続人のうち1名が単独で調印可能
<相続に伴う同一内容の借地契約書の調印>
あ 相続開始
前記※1と同じ事例である
い 調印した借地の契約書の内容
新たな契約書は,以前のものと同じ内容で,借地人だけ変わった(相続人に変わった)ものである
う 法的な扱い
契約書の調印は適法である
このような契約書の調印は,新たな契約というよりも,従前の契約と同一と考えられます。
法律上,賃借人が相続により,相続人に変わっています。
この当然の変化を契約書に反映させただけ,ということになります。
契約内容の変更について合意がなされた,ということではありません。
敢えて言えば,契約内容を記録にしておくということは,借地人(相続人)全員にとって有利・有益です。
この点から,共有物の保存行為という考え方もできるでしょう。
仮に保存行為として捉えるならば,共有者のうち1名が単独で実行可能,ということになります(民法252条ただし書)。
別項目;共有物の変更,管理,保存行為に必要な共有者の数
3 借地人に不利な変更を伴う契約書調印は借地人の相続人全員が賛成しないと無効
<相続に伴う従前と異なる内容の借地契約書の調印>
あ 相続開始
前記※1と同じ事例である
い 借地人に不利な借地の契約書の調印
新契約書の内容は,従前のものより地代が上がっているものであった
う 法的な扱い
新たな契約書で変更した部分は無効となる傾向がある
共有者に不利益な方向への変更については,共有物の変更として,共有者全員の同意が必要となります(民法251条)。
借地権の(準)共有の場合で言えば,地代が高くなる,とか,契約期間が短くなる,などが不利益な方向です。
結局,借地人全員の同意を欠く場合は,調印した契約(書)は無効となります。
別項目;共有物の変更,管理,保存行為に必要な共有者の数
この点,仮に他の共有者(相続人)が,事後的に追認した場合,有効となります(民法116条)。