【特別受益の規定の『生計の資本』の基本的解釈論】
1 特別受益の基本的判断基準と典型例(概要)
2 生計の資本による贈与の特別受益性(基本)
3 親子間の生活費送金の特別受益性
4 特別受益と寄与分による対消滅(概要)
1 特別受益の基本的判断基準と典型例(概要)
一定の生前贈与や遺贈は特別受益として扱われます。これは相続における不公平を回避・解消する趣旨の制度です。
特別受益の条文規定では,対象の1つが『生計の資本』のための贈与と遺贈とされています。
詳しくはこちら|特別受益に該当するか否かの基本的な判断基準
本記事では『生計の資本』の解釈や判断基準について説明します。
2 生計の資本による贈与の特別受益性(基本)
『生計の資本』の解釈の内容の基本的部分についてまとめます。
<生計の資本による贈与の特別受益性(基本)>
あ 抽象的な基準
次の『ア・イ』の両方に該当する場合
→特別受益として認める
ア 生計の基礎として役立つ財産上の給付であるイ 扶養義務の範囲(い)を超える
い 扶養義務の範囲
生計の資本の判断における『扶養義務』について
→純粋な法律上の『扶養義務』そのものではない
法的扶養義務プラスアルファまで含む
例;いわゆる『小遣い』
う 影響する個別的事情
被相続人・相続人に関する『ア・イ』の事情
ア 生活状態イ 資産状態
3 親子間の生活費送金の特別受益性
親から子への生活費送金は『生計のため』の典型例です。しかし,特別受益として認められるのは,扶養義務の範囲を超えるものです(前記)。
『扶養義務の範囲』については,送金した側・された側の経済状況によって決まります。
詳しくはこちら|扶養に関する民法の規定の種類と内容(程度)のまとめ
親子間の送金を特別受益として認める判断では,一般的に次のような枠組みを用います。
<親子間の生活費送金の特別受益性>
あ 判断の枠組み
一定の標準的な月額を基準とする
基準額を超える送金の合計額について
→特別受益とする
い 基準額の算定
個別的な事情により生活水準を判定する
→生活水準に適した生活費を判断する
う 基準額の実例(裁判例)
平均的・標準的な事情において
基準額の目安=10万円
算定自体はあくまでもこの事案の事情が前提となっている
事案ごとの個別的事情で異なる
※東京家裁平成21年1月30日
この基準月額はあくまでも個別的事情を反映したものです。経済的な状況によって違う判断となります。
4 特別受益と寄与分による対消滅(概要)
親子間その他の親族間の贈与は利害の状況が複雑なことが多いです。要するに,相互にサポートしている関係があるような状況のことです。
このような双方向の援助がある場合は,打ち消すような考え方がとられます。
<特別受益と寄与分による対消滅(概要)>
被相続人による贈与と相続人の寄与が対応している場合
→特別受益・寄与分の両方を否定する傾向がある
詳しくはこちら|特別受益に該当するか否かの基本的な判断基準
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