【相続人以外への贈与や遺贈の特別受益該当性(判断基準と実例)】
1 相続人以外への贈与・遺贈と特別受益
2 相続人以外への贈与・遺贈の典型例
3 相続人以外の受益の特別受益性の判断基準
4 相続人以外の受益の実質的判断要素
5 孫への贈与を特別受益と認めた実例
6 子の配偶者への贈与を特別受益と認めた実例
1 相続人以外への贈与・遺贈と特別受益
特別受益となる贈与・遺贈は『相続人』に対するものだけが対象として規定されています。しかし,解釈として,相続人以外への贈与・遺贈も含まれることがあります。
本記事では,相続人以外の者への贈与・遺贈についての特別受益の扱いについて説明します。
まずは解釈の根本的部分をまとめます。
<相続人以外への贈与・遺贈と特別受益>
あ 原則
『相続人』以外への贈与・遺贈について
→条文の規定上,特別受益には該当しない
※民法903条1項
い 例外(概要)
実質的な公平の観点から例外を認めることもある
=特別受益を適用することがある
※能見善久ほか『論点体系 判例民法10相続』第一法規出版p85,86
2 相続人以外への贈与・遺贈の典型例
相続人以外への贈与は比較的よくみられます。『特別受益を回避する』という意図的な対策ということもあります。
また,このような対策目的がなくてもよく行われています。実際に問題として具体化することが多い状況をまとめます。
<相続人以外への贈与・遺贈の典型例>
あ 子の配偶者への贈与
例;被相続人Aが長男の妻Bに贈与した
い 孫への贈与
被相続人Aが長男の子C(Aの孫)に贈与した
典型例;大学などの学費
税務上の優遇措置により政府も促進している
→実際に普及しつつある
これらが特別受益に該当するかどうかは前記のように実質面で判断されます。
3 相続人以外の受益の特別受益性の判断基準
相続人以外の者への贈与・遺贈を特別受益と判断する基準についてまとめます。
<相続人以外の受益の特別受益性の判断基準>
相続人以外の者への贈与・遺贈について
実質的に『相続人への直接贈与』と異ならない場合
→特別受益として認める
※福島家裁白河支部昭和55年5月24日
これ自体は抽象的な基準です。判断の対象となる,より具体的な事情については次に説明します。
4 相続人以外の受益の実質的判断要素
相続人以外への者への遺贈・贈与が特別受益になる例外的な判断もあります(前記)。この判断の対象となる事情を整理します。
<相続人以外の受益の実質的判断要素>
あ 贈与の経緯
ア 合理的な理由イ 実質的な対価
い 贈与された物の価値・性質
ア 財産の規模・金額イ 他の相続人との不均衡の程度
う 特定の相続人が受けた利益
典型例;『特定の相続人』の扶養義務の対象者
→特別受益として認められる方向性
※福島家裁白河支部昭和55年5月24日
5 孫への贈与を特別受益と認めた実例
相続人以外の受益を特別受益と認めた実例を紹介します。
まずは,孫への贈与を特別受益として認めた裁判例です。
<孫への贈与を特別受益と認めた実例>
あ 当事者
被相続人A
長男B
その子C
い 事案の内容
AからCに贈与があった
その理由は『Bの扶養義務の懈怠』に起因する
う 裁判所の判断
実質的には相続人Bが贈与を受けたのと同様である
→持戻しを認めた
※神戸家裁尼崎支部昭和47年12月28日
6 子の配偶者への贈与を特別受益と認めた実例
自分の子ではなく,子の配偶者への贈与について,特別受益として認めた裁判例です。
<子の配偶者への贈与を特別受益と認めた実例>
あ 事案
被相続人Aから子Bの1人の配偶者Cに贈与があった
い 裁判所の判断
実質的にはAからBに直接贈与したのと変わらない
→持戻しを認めた
※福岡家裁白河支部昭和55年5月24日
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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