【脅迫罪・恐喝罪・強要罪の基本的事項と違い】
1 脅迫罪・恐喝罪・強要罪の違い(まとめ)
2 脅迫罪の構成要件と法定刑
3 脅迫行為の解釈(概要)
4 親族への加害の告知の解釈
5 恐喝行為の構成要件と法定刑
6 強要罪の構成要件と法定刑
7 人質による強要行為罪
8 権利行使と恐喝罪(概要)
1 脅迫罪・恐喝罪・強要罪の違い(まとめ)
本記事では,脅迫罪・恐喝罪・強要罪の基本的事項を説明します。
これらの罪となる行為は似ています。最初に行為の違いのまとめを挙げておきます。
<脅迫罪・恐喝罪・強要罪の違い(まとめ)>
行為 | 罪名 |
害悪の告知のみ | 脅迫罪 |
害悪の告知+財物の交付 | 恐喝罪 |
害悪の告知+義務のないことを行わせた | 強要罪 |
以下,それぞれの罪の内容について順に説明します。
2 脅迫罪の構成要件と法定刑
まずは脅迫罪の基本的事項です。簡単に言うと『おどす』ことだけで犯罪になるというものです。
<脅迫罪の構成要件と法定刑>
あ 構成要件(直接的告知)
生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨の告知をした
『害悪の告知』と呼ぶ
い 構成要件(間接的告知)
告知の相手方の親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨の告知をした
う 法定刑
『あ・い』ともに
懲役2年以下or罰金30万円以下
※刑法222条1項,2項
3 脅迫行為の解釈(概要)
脅迫する,という内容が何か,という解釈の概要をまとめます。
<脅迫行為の解釈(概要)>
あ 『脅迫』行為
害悪の告知の程度について
→一般人が畏怖する(恐れる)程度
い 『脅迫』のセリフの典型例
『殺す』
『しばく』『どつく』(関西弁)
『殴る』
詳しくはこちら|脅迫罪の『害悪の告知』(害悪の程度・害悪発生のコントロール可能性)
4 親族への加害の告知の解釈
脅迫罪となる『脅迫』の内容については,条文上一定の範囲に限定されています。その中に『親族』に関する害悪の告知も含まれています。この『親族』の解釈についてまとめます。
<親族への加害の告知の解釈>
あ 変わった例
『妻の不倫を公表する』が『夫の親族への害悪の告知』とされた
※大審院昭和5年7月11日
い 内縁への適用
内縁の関係にある者は『親族』に含まない
詳しくはこちら|婚外子として子供を持つ家族(事実婚・内縁など)の普及と社会の変化
5 恐喝行為の構成要件と法定刑
単なる『脅迫』ではなく,その目的が『財産』に向けられていると『恐喝』にグレードアップします。
<恐喝行為の構成要件と法定刑>
あ 恐喝行為(恐喝罪)
次の『ア・イ』のいずれかに該当する行為
ア 『脅迫or暴行』によって財物を交付させることイ 『脅迫or暴行』によって財産上不法の利益を得ること
※刑法249条1項,2項
い 未遂罪
『脅迫』をしたが財物の交付(受領)に成功しなかった
→恐喝未遂罪となる
※刑法250条
う 法定刑
懲役10年以下
※刑法249条1項
6 強要罪の構成要件と法定刑
『脅迫』の目的が『財産以外の行為(をさせること)』に向けられていると『強要罪』になります。強要罪の基本的事項をまとめます。
<強要罪の構成要件と法定刑>
あ 強要行為(強要罪)
『脅迫or暴行』によって『義務のないことを行わせた』or『権利の行使を妨害した』
い 未遂罪
『脅迫』をしたが『義務のないことを行わせる』に成功しなかった
→強要未遂罪となる
※刑法223条1項,3項
う 法定刑
懲役3年以下
※刑法223条
『強要罪』と『恐喝罪』は,ターゲットが『財産(財物)の交付』か『財物の交付以外を行わせること』という違いがあるのです。
このいずれの場合でも『逮捕・監禁』が含まれると,特別法による別のみ罪となります。
7 人質による強要行為罪
人を拘束して不当な要求をすると,いわゆる『人質』による強要になります。この行為は特別法(刑法以外の法律)で罰則が規定されています。
<人質による強要行為罪>
あ 人質による強要罪の構成要件
次の『ア〜ウ』のすべてに該当する行為
ア 人を逮捕・監禁したイ 人質にしたウ 強要行為or恐喝行為
い 未遂罪
『財物交付』や『義務のないことを行わせる』に成功しなかった
→未遂罪となる
う 法定刑
懲役6か月以上10年以下
※人質による強要行為等の処罰に関する法律1条1項,3項
8 権利行使と恐喝罪(概要)
金銭の支払義務がある者に請求するという行為はありふれています。これ自体は権利の行使として当然のことです。
しかし,請求する行為の内容によっては恐喝罪に該当することもあります。これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|権利行使と脅迫罪・恐喝罪との区別(ユーザーユニオン事件)