【弁護士の攻撃的な民事責任追及による懲戒事例】
1 不当訴訟の慰謝料7600万円の請求提訴(事案)
2 不当訴訟の慰謝料7600万円の請求提訴(懲戒判断)
3 管財人+裁判官を被告とした提訴(事案)
4 管財人+裁判官を被告とした提訴(懲戒判断)
1 不当訴訟の慰謝料7600万円の請求提訴(事案)
弁護士の任務で相手に対して攻撃的な状況になるのは当然のことです。その中で相手の『民事的な責任』を指摘したり追及することもあります。つまり,損賠償請求の予告や提訴などです。これが過剰であったために懲戒事由となったケースを紹介します。
<不当訴訟の慰謝料7600万円の請求提訴(事案)>
あ 受任
A組合がXを被告とする訴訟を提起した
弁護士YはXから訴訟遂行を受任した
い 通知書の送付
YはA組合の理事4人に対して
次の内容の通知書を内容証明郵便で送付した
う 通知書の内容
Yに対する訴訟は訴訟詐欺に該当する
これによりYは7000万円を超える損害を被る見込みである
訴訟賛同者に対し,後日訴訟を提起する
え 訴訟提起
Yは,訴訟を提起した
ア 被告
A組合の現理事+A組合の代理人弁護士
イ 主張・請求内容
A組合の訴訟提起により名誉を毀損された
慰謝料は約7600万円である
このうち1000万円の慰謝料を請求する
2 不当訴訟の慰謝料7600万円の請求提訴(懲戒判断)
前記事例についての弁護士会の判断です。
<不当訴訟の慰謝料7600万円の請求提訴(懲戒判断)>
あ 通知書の発送
発送した通知書は不穏当かつ不必要な表現であった
A組合の訴訟提起が犯罪行為であるという誤解を与えた
→弁護士としての法的知識を濫用して相手方を畏怖困惑させる行為である
い 提訴
A組合の訴訟提起に対する報復的手段とも見得るかたちで提訴した
→法的手続を濫用した
う 結論
戒告とする
平成5年10月7日
※自由と正義44巻11号p177
3 管財人+裁判官を被告とした提訴(事案)
攻撃対象は『交渉の相手方』とは限りません。裁判所が選任した保全管財人・更正管財人や,さらには裁判官への攻撃という珍しい状況が発現した事例です。
<管財人+裁判官を被告とした提訴(事案)>
あ 受任
弁護士YはA社の会社更生手続開始申立事件を受任した
Yは申立を行った
い 保全管財人の解任の要求
Yは,保全管財人Bの解任を申し立てた
解任理由を補充する書面を5回にわたり提出した
う 解任請求の主な理由
税務申告を著しく遅延したこと
5000万円の貸付金債権の回収に失敗したこと
え 更正管財人の選任
裁判所はBをA社の更正管財人として選任した
お 更正管財人の解任の要求
Yは更正管財人解任申立を行った
申立書に次のように記載した
か 解任の理由の記載
『2月28日(月)午後5時までに解任されない場合には,それ以上の猶予は出来ないので,3月1日以後,報道機関の協力を得て,広く利害関係人に実情を訴える所存である』
き 裁判官による注意
担当裁判官CはYに対して
一連の行動などの行き過ぎについて注意した
く 弾劾裁判の要求行為
Yは裁判所所長に次の趣旨の上申書を提出した
内容=Cを弾劾裁判にかけるべき
け 妨害禁止の訴訟+仮処分の申立
YはB・Cを相手として次の申立を行った
ア 業務妨害禁止を請求する訴訟(本案訴訟)イ 業務妨害禁止の仮処分
理由=B・Cが共謀してYに圧力を加え業務の妨害をした
こ 申立の却下
『け』の本案訴訟・仮処分申立はいずれも却下された
Yはいずれについても不服申立をした
=控訴・即時抗告の申立
さ 攻撃的懲戒申立
YはBについて所属弁護士会に対し懲戒申立をした
4 管財人+裁判官を被告とした提訴(懲戒判断)
前記事例についての弁護士会の判断です。
<管財人+裁判官を被告とした提訴(懲戒判断)>
業務停止4か月とする
平成9年10月29日
※自由と正義48巻12号p223